くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「キャロル」「太平洋ひとりぼっち」

kurawan2016-02-16

「キャロル」
非常に高級な映画である。映像の作り方も息をのむほどに美しいし、ストーリーの展開も実に品があって静か、そして、映画の景色が大人のだ。こういう良質な映画は、ともすれば、ひたすら退屈になるところだが、主演のキャロルを演じたケイト・ブランシェットがうっとりするほどの魅力的な女性を表現してくれるし、対するテレーズを演じたルーニー・マーラも、不安定でおどおどした繊細な女性を見事に演じきっているために、映画が素敵になるのです。

物語は、リッツのラウンジ、1人の青年ジャックが所用でやってきて、友人のテレーズをを見つけるところから映画が始まる。テレーズの向かいに座るのは、大人の魅力を持った女性キャロル、彼女はテレーズに、ジャックに誘われるままにいってらっしゃいと送り出す。しかし、ジャックに誘われたパーティの場所に移動しようとするも、車の中からキャロルの姿を追っている。

そして物語は遡る1952年、ジャーナリストを夢見てマンハッタンにやってきたテレーズはデパートのおもちゃ売り場でアルバイトをしていた。そこへやってきたのが、魅力的な女性キャロル。彼女は娘リンディのプレゼントを買いに来たのだ。テレーズはキャロルのなんとも言えない魅力に一目惚れしてしまう。

たまたま、手袋を忘れたキャロルに手袋を送り、そして2人は親しくなっていく。実はキャロルは夫ハージと離婚訴訟になっている。そのきっかけは、キャロルが、アビーという女性と関係を持ったということによるらしいが、このあたりの深い経緯はあまり描かれない。

愛する娘リンディと別れたくないために、必死になるキャロル、やがて、キャロルはテレーズと急速に接近し、テレーズを小旅行に連れ出し、モーテルで関係を持ってしまう。しかし、その現場のテープをハージの雇った男に録音され、裁判は急速に不利になっていく。

物語は、キャロルとハージ、さらにアビーとの関係を描く一方で、映画の視点はどちらかというとテレーズのキャロルへの思いで展開していく。

モーテルでの出来事のあと、キャロルとテレーズは、距離をおく。テレーズはタイムズに就職し、自分の夢に向かっているが、そんなある日、キャロルから手紙が届く。リッツでもう一度会おうというものである。そして、テレーズはキャロルの待つリッツへ出かけて冒頭のシーンになる。

このあと、テレーズはジャックに誘われるままにパーティに行くが、キャロルのことが頭から離れず、キャロルが向かった会食の場に乗り込み、じっとキャロルを見据える。その視線をキャロルが受けて暗転エンディング。見事なラストシーンである。

車の窓ガラス越しに中を捉えたり、外を歩くキャロルがを車の中からのテレーズの視点で追いかけたり、あるいは、橋の堤や、街頭、冬の木々の枝を配置して捉える人物のカットなど、隅々まで画面が実に美しい。淡々と進むストーリーを見事な映像美が装飾した画面の見事さに、ひたすらうっとりと陶酔感に浸ってしまう。そんな映画でした。監督はトッド・ヘインズです。いい映画を観ました。


太平洋ひとりぼっち
堀江謙一の太平洋単独横断を扱った石原プロ第一回作品。監督は市川崑である。

実話を描いた作品であり、堀江謙一本人の記録を映像にしたものだが、さすがに市川崑監督は、平凡な冒険ドラマにせず、まるでサスペンス映画を観ているようなドラマティックな編集と演出がなされている。

太平洋上での孤独感、家族の心中をよぎる不安と心配、様々な自然の脅威の中での試練などが、シネスコ画面に左右の端に配置する人物のショットなど、独特の画面作りで描かれていく様は、なかなか見応えがある。

市川崑作品の中では中レベルかもしれないものの、大した力量だと納得してしまう一本でした。