くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「母よ、」「父を探して」「最高の花婿」

kurawan2016-04-04

「母よ、」
ナンニ・モレッティ監督の人生ドラマの秀作、見事なストーリー構成と、どんどん胸に迫ってくる作劇のうまさに思わず引き込まれ、気がついたら、胸が熱くなっていました。

半ば監督の自叙伝的な作品らしく、いたるところにナンニ・モレッティが見え隠れする感じですが、見事なほどに、物語が心を揺さぶっていきます。

映画監督マルガリータが映画の撮影をしているシーンから映画が始まる。採用した俳優のバリーがなんともうまくいかないし、カメラは好き勝手なことをするし、周りのスタッフも思うように動いてくれない。そんな苛立ちの中、入院していた母が余命宣告を受けてしまい、ますます心理的に追い詰められ苛立ちを増していく。

何度もNGを繰り返すバリーの撮影シーンが実にコミカルで、それがマルガリータの苛立ちを増幅させる様は面白い。ところが終盤、マルガリータの家にやってきたバリーは、人の顔も、セリフも数年前から病気で覚えられなくなってきたと告白する。この辺りから映画はどんどん核心に迫ってくる。

もはや治療の限界がきた医師はマルガリータの母を自宅に帰す。もともとラテン語を教えたかった母は、孫にラテン語を教え、つかの間の幸せのひと時を過ごすが、撮影も大詰めになった日、母は昏睡状態になる。

慌ててマルガリータは戻る。彼女の心の中で母に問う「何を考えているの」。母が「明日のことよ」とベッドで答えるアップでエンディング。

全く素晴らしいラストシーンである。バリーの撮影シーンの笑いと、マルガリータの苛立ち、そして母への想い、人間の素直な感情が映像の中に見事に織り込まれ、ラストの締めくくりに至る流れは見事です。本当に良い映画に出会いました。


「父を探して」
南米のアニメですが、アカデミー賞にノミネートされた作品。
シンプルな絵でイラスト調のアニメが物語を綴っていきます。母と主人公の子供を残して去ってしまった父を追って、子供が旅に出る。行く先々で老人や様々な人と出会いながら、田舎から都会へ出て、さらに戦争、自然破壊まで目の当たりにする展開は、ちょっと国柄を感じさせないわけではありませんが、美しい色彩感覚と、シンプルな中にオリジナリティ溢れるデザインの様々なもの登場する流れはとっても魅力的です。

ただ、父を探しに行く前半部分から、大人の世界を目にする主人公の姿を描く中盤まではとってもファンタジックなのですがあ、後半、戦争があり、森林伐採など自然破壊があり、それが実写映像に変わっていくあたりからはちょっとストーリーに間延びが見られる。

結局、再び父と母の元で眠るシーンがラストシーンになるのですが、素敵な映画だなと手放しで楽しめるところまでいかないのがちょっと残念です。でも独創性あふれるアニメーションの秀作だと思います。


「最高の花婿」
典型的なフランスコメディ、面白く作れなくもないが、全編がコメディシーンという感じで、緩急がないために、笑いが平坦になった感じの映画でした。とはいえ、退屈はしませんでした。監督はフィリップ・ドゥ・ショーブロンです。

フランス、ロワール地方に住むヴェルヌイユ家には娘が四人いるが、上の三人は、一人はユダヤ人、一人はアラブ人、一人は中国人と結婚をし、両親は右往左往しながら毎日あたふたしている。映画は三組の娘夫婦の国籍違いが生む確執をコミカルに描き、いつの間にか打ち解ける流れを前半で描く。

両親は末娘こそフランス人と結婚してほしいと、知り合いの男性を引き合わせようとするが、なんと四女はコートジボワールの黒人と恋仲だった。

こうして、後半はこの四女の結婚について、三人の姉夫婦が両親と一緒になって賛成するでも反対するでもないドタバタ劇を繰り広げる。結局、前半と後半が完全に分かれたストーリー構成なのだ。
結局、コートジボワールの彼氏の両親がやってきてひと騒動のあとハッピーエンドになる下をユーモア満点に描いていくのですが、前半のドタバタと後半のドタバタが噛み合わず、結局、やたら出てくる、フランス人の移民に対する偏見や差別意識をちらつかせ、フランス万歳と言わんばかりの空気も見えてくる映画だった気がします。

先日もこんな感じのフランスが移民を気にしている映画があった気がしますが、こういう偏見が平気な国なんだろうな。映画としては普通だった気がします。