「ミラクル・ニール!」
万能の力を得た主人公のドタバタ劇を描いた作品ですが、ひたすらドタバタの連続で、何がという中心の物語もないので、全体が散漫になって、面白いというより、ただふざけていく映画かなという流れで終わった感じです。もう少し、力を使わなければこうなったろうにとか、力が無い瞬間のほんのりした物語などを入れて緩急つければ秀作という映画になったのでしょうが、あえてしなかったという感じの映画でした。面白かったですけどね。監督はテリー・ジョーンズです。
しがない教師のニールは、今日も遅刻で校長から大目玉、受け持ちのクラスが学級崩壊で、教える気にもならない毎日。階下に住むキャサリンに気があるが、それもうまくいかない。同僚のレイは恋する女性がいるがこれもうまくいかない。
一方で地球外生物調査のために打ち上げられた探査船はあるが知的生物の母船に捕まる。この生物いかにもグロテスクな姿であるが、なんでもできる感じで、届いた探査船の地球という惑星を害悪惑星として破壊するかどうかの判断をするために、万能の力を1人の人間に与えて、どういう行動に出るか試験をする。その力を与えられたのがニール。
右手を振って希望を唱えると、なんでも叶うようになったニールは、愛犬を喋らせ、レイに恋人を与え、キャサリンの気持ちもこちらに向けようとしたり、ろくな使い方をしない。そして捲き起こるドタバタ劇が物語の中心だが、何かが違うと思ったニールは、最後に、世界の様々な問題を解決するように右手を振る。ところが、それがまた逆に問題になる。
嫌になったニールは、力を愛犬に与える。一方で、知的生物たちは、ニールの行動から地球を破壊することを決定し、実行しようとするが、その時愛犬が、この力の根源になっているものを破壊せよと命令、知的生物たちは破壊されてハッピーエンド。
まぁ、これという中身が無い映画ですが、軽いタッチで見るには楽しめる一本で、その意味で破綻惜しい映画でした。
「モヒカン故郷に帰る」
小ネタを散りばめたユーモア満載のハートフルコメディという感じの一本。妙なメッセージとかもジメジメしたものもなくて、でもほんのり心に残る感じは沖田修一の世界観、とっても楽しい映画でした。
主人公の永吉が小さなライブハウスで歌っているシーンから映画が始まる。これといってビッグではなく、生活費は同棲している由佳に頼っている。メンバーも将来について不安を持っている。由佳と永吉は7年ぶりに故郷残る島に帰ることになり戻ってくるところから物語は本編へ。
矢沢永吉をひたすら慕う父治や、広島カープのファンの母春子などに迎えられ、よくある家族の対面となる。由佳は妊娠していることもあり、結婚の報告に近い帰省である。
ところが程なくして、治が癌に冒され、余命わずかであることが判明。治の病気の進捗に合わせて起こる周りの人々のお話がユーモアたっぷりに描かれていく。
入院先のベッドでの隣の患者の返事のリンや、癌であることを知って、涙が止まらない春子や弟の小ネタをなどなどが楽しい。さらに、治が指導していた学校の吹奏楽部のエピソードを交え、自宅に戻った治がピサが食べたいと言ったために、本土から三種類にチェーン店がやってくるなどのノリもまた一興。
次第に弱っていく治は、永吉と由佳の結婚式が見たいと言い出し、病院内で素朴ながらの式を計画。クライマックス、ここで最後の断末魔のごとき叫びをあげて死んでいく治のシーンを終盤に持ってくる。
再び東京に戻るべく船に乗った永吉と由佳のカットでエンディング。
癌で死んでいく永吉のエピソードを時間軸にして、永吉と由佳の物語を綴る沖田修一の脚本が秀逸で、無駄の無いさりげないユーモアがとってもいい感じにまとめられている。いい映画でしたね。
「深夜の告白」
これは傑作、一級品のフィルムノワールでした。監督はビリー・ワイルダー、脚本はレイモンド・チャンドラー、原作はジェームズ・M・ケイン。圧倒的なストーリーテリングで、始まってからラストシーンまで画面に釘付けになりました。
主人公のネフが勤めている保険会社に深夜やってくる。そしてデスクの録音機に、ある事件の真相を話し始める。ある事件とはフィリスの夫が列車から落ちて事故死したという案件で、犯人は自分だと自白するのだ。そして語られる真相とは。
敏腕の保険外交員ネフは、ある日、車の保険の更新にディートリクソン家を訪れる。主人はいなくて美しい妻フィリスが彼を迎え、たちまちネフは彼女の虜になる。そんな彼にフィリスは夫殺しの話を語る。最初は適当に流していたネフだが、保険調査員のキーズと話しているうちに、完全犯罪が可能なのではないかとフィリスの考えに乗ることになる。
まずフィリスの夫に事故保険を巧妙にサインさせて入らせる。証人に娘のローラを同席させた。ローラは病死した先妻の娘で、その時の看護婦がフィリスだったのだが、このエピソードが終盤に効いてくるからすごい。
計画を進める途中、たまたま夫が足を骨折、しかし治りかけた頃に松葉杖のまま仕事で列車に乗ることになる。そこで、車に忍び込んだネフが、フィリスが夫を駅まで送る車の中で殺し、夫になりすましたネフが列車に乗り、後部のデッキから飛び降りる。そしてあらかじめ殺した夫を線路におろし事故死に見せかけるというものだ。そしてことは実行、何もかもうまくいき、会社も疑うことなく事故と認めざるをえなくなるのだが、最初は疑わなかったキーズが、ふとしたことから疑問を感じ始めるのだ。つまり、25キロで走る列車から突き落とすよりあらかじめ殺しておくのが間違いないはずで、共犯がいるとすれば話がつながるというのだ。
そして、殺人の方法を全て明らかにしていくキーズ。しかし、フィリスの相手と思ったのが、なんとローラの彼氏のニノだった。ニノは度々フィリスと会っていたことが判明、しかもローラはネフに、母が死んだのは、当時看護婦だったフィリスの仕業だったのでは無いかと思うと告げる。
フィリスに不審を抱き、自分が利用されたと思ったネフは、計画に終止符を打つべく、フィリスを殺すために、夜、彼女の家を訪ねる。しかし、フィリスもまたネフを撃つためにピストルを忍ばせていた。
ネフは、フィリスを殺した直後にネフに来るように連絡しておき、ネフの仕業にするつもりだったが、まずフィリスが ネフを撃つ。しかし弾は急所を外れ、二発目は撃てない。ネフは逆にフィリスを撃ち殺し、そのまま、外へ。やってきたニノには、喧嘩別れして家を出ているローラの電話番号を教え、助けてやる。そして、自分は会社へ行き、冒頭のシーンへつながる。
語り終わったところへキーズが出社してくる。ネフは国境を越えてみせると席を立つも、玄関で力尽き倒れる。キーズに抱き起こされエンディング。
殺人シーンでは、じっとカメラで人物を凝視し、細かい表情に、サスペンスフルな演出を施しロングで引いたカットには不気味な影を部屋の中に落として緊張感を生み出す。二人がスーパーで会う場面では全体をとらえるカットで周囲の人物の視線を意識させる。さらに、キーズや会社の社長、電車のデッキで会話した人物など、脇のキャラクターを有効に利用してサスペンスを盛り上げるあたり、全く隙が無いというほかない。
これがサスペンスと言わんばかりの一級品に圧倒される映画でした。面白かったです。