くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「グランドフィナーレ」「国境事件」「ボディガード」

kurawan2016-04-19

「グランドフィナーレ」
パオロ・ソレンティーノ監督の感性が生み出す心象世界で描く一人の男の再生の物語。その映像感性の素晴らしさ、音楽感性の見事さは、前作同様見事なものであるが、淡々と語られるストーリーはさすがに、しんどい面もないわけではない。しかし一級品の作品として評価して十分な一本でした。

見事な歌声で舞台で歌う歌手のシーンから映画が始まる。そしてカットが変わると、スイスの高級ホテルのテラス、今や引退同様で暮らす名指揮者フレッドの前に座るのは、英国女王の前で指揮をして欲しいという依頼を持ってきた男性である。しかし、依頼してきたフレッドの代表曲は訳があって、二度と演奏する気がないからと断っている。のちにわかるが、歌っていたのは妻であり。今やその妻も亡く、歌うべき人物がいないというのが理由なのだ。

フレッドの後ろに座っているのは映画俳優ジミーだが、ロボットのコスチュームを着た演技が有名になり、普通の役名よりもその時のミスターQと呼ばれ、それが彼にとっては辛い。一方で、プールでは、巨体を揺すりながらかつての名サッカー選手が運動をしている。

フレッドと一緒に来たのは、彼の親友で映画監督のミック。彼の息子はフレッドの娘レナと結婚している。しかし、その息子は、別の女性とねんごろになりレナと離婚を言い出し、レナを悲しませる。

シンメトリーな構図だけでなく、放牧しているところでじっと見つめるフレッドが、やがて彼の耳に牛の首の鈴が鳴り出し、背後の鳥が音楽になる幻想さえ浮かんでくる。

ミックは、次の作品の脚本を書きながら、イメージにしている大女優ブレンダ(なんとジェーン・フォンダ)に出演依頼している。さらにホテルにはミスユニバースの女性もやってきたりしている。

フレッドとミックの会話には、老年を迎えて、衰えていく肉体の話題があるが、一方で、ミスユニバースや、過ぎ去った若き日の情熱などを思い起こしたりもしている。

やがて、レナは、ホテルで登山指導をしている男と恋が芽生え始める。そして、ミックの元にはブレンダがやってくる。しかし、彼女は今度の作品には出ないとミックに告げ、ミックは悲嘆のあまり、ベランダから身を躍らせるのだ。かつての、大勢の女優を育てたミックは、過去を振り返り、草原に様々な名作映画のシーンが再現されるくだりが素晴らしい感性の映像である。

このホテルでは、健康診断も行っている。何度かの検査の後、その結果をフレッドは聞くのだが、全く問題なく健康だと告げられる。フレッドもミックも、いつの間にか、自分の心の中で老いていたのだ。そのことに気がついたフレッドは、女王の前での演奏を決意、演奏シーンがクライマックスになる。

途中、売り出し中の歌手が、スポーツカーを飛ばして歌いまくる夢のシーンや、ミックとフレッドの前に、全裸で現れるミスユニバースのシーン、あるいは、ホテルの客の老夫婦が全く会話をしないので、その会話を掛けてフレッドとミックがふざけるシーンの後、森でその夫婦がSEXしているシーンを見かけたり、様々な映像にパオロ・ソレンティーノのちに感性がうかがえる。今やブクブクに太ったかつての名サッカー選手が、足でテニスボールを見事に操るシーンなども挿入される。

しかし全体のテンポのゆるさ、リズムに乗りきらない部分もあり、さすがに個性的な一本であるも、絶賛するまでにならない映画という感じでした。最後に思い返してみて、じんわりと心に蘇る映画という感じの佳作だった気がします。


「国境事件」
アメリカとメキシコの国境、不法就労者が強盗団に襲われる悲劇をなくすために、両国が協力し、その強盗団に侵入捜査をして、大元の根を断ち切ろうという作戦を実行する。そのスリリングな展開を描いたフィルムノワールの一本。監督はアンソニー・マンである。

全体にかなり雑な脚本なので、その場限りの演出ではないかとさえ思える展開も多々あるのですが、B級映画らしいテイスト満載の一本で、ただその素朴感を楽しむアクション映画という感じでした。

冒頭の解説の後、次々襲われる労働者を守るべく、ロドリゲスとバーンズが巧みに、その強盗組織に潜入する。しかし、バーンズが囮になって仕掛けた計画は、まんまと巻かれて、バーンズが孤立、さらに正体もばれて、殺されてしまう。

一方でバーンズの危機を救おうとしたロドリゲスも、なんとか、窮地を脱するも、ようやく現れた援軍に助けられて大団円。

ストーリーの巧みさより、ただただハラハラドキドキさせるべくその場限りに作っていくという展開は、それなりに楽しい。これがフィルムノワールというものなのかもしれません。


ボディガード」
手際良いストーリー展開で、あれよあれよと物語が先に進む。スピード感ある演出の妙味を目の当たりにする映画でした。監督はリチャード・フライシャーです。

物語は警察署、主人公マイクがやって来るが、その捜査のやり方を非難され、上司のボーデンを殴る。当然彼は退職となるが、そんな彼に、コンチネンタル精肉会社のオーナー、ジーンのボディガードの仕事が入る。依頼してきたのは、その会社のフレッドという男。

最初は断っていたが、たまたま、ジーンの居間で、ジーンが危うく撃たれる場面に遭遇して仕事を引き受ける。ところが早朝出かけたジーンをつけていったマイクは、何者かに殴られ意識を失う。気がつくと、車の中で、隣に、死体となったボーデンがいた。しかも線路の上で、列車が近づいてくる。

危うく脱出したマイクは恋人で同僚のドリスの助けで、自分がはめられたことがわかり、ボーデンが扱った事件を調べる。すると、昨年、食肉検査官アレックスがコンチネンタル生肉工場で事故死した事件が出てくる。しかも、その報告に不審な点があることから、調べると、どうやら、肉に水を含ませ、不正な利益を得ている犯人がフレッドと判明。

ボーデン殺しの容疑がかかるマイクは、警察の手を交わしながら、事件の真相に迫り、最後はハッピーエンド、全てが明るみになる。

都合よすぎる展開もないわけではないが、それは、一種の手際よさと見れば、なかなかの娯楽映画の佳作だった気がします。