くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「レヴェナント 蘇えりし者」「暗黒街の弾痕」「ビッグ・ヒ

kurawan2016-04-22

「レヴェナント 蘇えりし者」
レオナルド・ディカプリオがようやく、アカデミー主演男優賞を受賞した作品。監督はアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥである。

広角レンズを多用し、自然の光だけで描くエマニュエル・ルベツキのカメラもさることながら、ほとんどセリフもないサバイバル劇の中盤を描き切るアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの演出力も圧巻の一本。ただただ開いた口が塞がらないほどの迫力に圧倒されます。ただ、クライマックス、主人公グラスが砦にたどり着き、さらに息子の仇であるフィッツジェラルドを見つけて、言葉を交わしながらの場面になると、妙にしつこさを感じる。それまでが圧倒されたための反動なのか、若干くどい気がしたのは私だけでしょうか。しかしながら、ここまで見せられると、拍手しないわけにいかないと思う。全く、見事なものだった。

映画は、美しい自然の景色と、そこにアメリカ原住民の姿を抒情的に映し出した画面から始まる。雪解けの水が流れる森の中の画面にフレームインしてくる銃を持った男たちの姿。彼方の獲物に向けて発砲してドラマが幕をあける。原住民に襲われる危険を覚悟で動物の毛皮の漁をしている白人たち。あえて、時代設定の説明がないが、おそらく、アメリカ開拓黎明期の話だろう。

大量に獲得した毛皮を束ね、帰路の準備をしているところへ、インディアンが来襲、取るものもとりあえず、逃げる。この部隊の斥候をしているのが、原住民の妻との間に息子のホークがいるグラス。彼は息子と共にこの隊に参加していたが、ことあるごとに隊のフィッツジェラルドと敵対する。

皆が休んでいるときに、何かを感じたグラスが様子を見ていると、突然母グマに襲われ瀕死の重傷を負ってしまう。隊は一命を取り留めたグラスを伴ってさらに原住民から逃れようとするが、どうにも行けなくなり、グラスの息をひきとるのを看取るために、息子のホーク、隊員のフィッツジェラルド、ブリジャーを残す。ところが、フィッツジェラルドは、瀕死のグラスに、もう死んではどうかと語りかけ、命を奪おうとする。そこへ飛び込んだホークをナイフで殺し、ブリジャーを騙してその場を立ち去る。

一部始終を微かに見ていたグラスは、フィッツジェラルドへの復讐を支えに必死で生き始めるのだ。

こうして、物語のほとんどは、声もまともに出ないグラスが、這うようにサバイバルする姿を追いかけていく。背後からは危険な原住民が、連れ去られた女を取り戻すためにおいかけてくる。一方、寒さと飢えと戦いながら、生き抜くグラス。ただそれだけの映像が延々と続くのに、全くスクリーンから目を話せないのだからすごい。

途中、一匹狼の原住民に助けられ、白人に捕まっている原住民の女を助け、馬を手に入れ、とうとう、砦までたどり着くのですが、そこにはすでに、グラスのことを嘘をついて逃れてきたフィッツジェラルドとブリジャーがいた。しかし、フィッツジェラルドは、その前に砦に来た白人から、グラスが生きているらしい証拠の水筒見て、逃げ出していた。

砦の隊長とグラスが、逃げたフィッツジェラルドを見つけてるも、隊長は撃たれ、グラスとの一騎打ちとなる。

ここからが結構くどい。刺されたり刺したりを繰り返し、最後のとどめは、サバイバルの途中でグラスを助けてくれた原住民の男の言葉「復讐は神の手に委ねよ」という言葉を思い出し、川に流す。折しも後を追いかけてきた原住民がフィッツジェラルドを殺す。そしてグラスの前を悠然と通る原住民たちの一行の中に、途中でグラスが助けた女を見つける。

じっと、身動きできなくなるグラスのアップでエンディング。あたかも、全ては神のみ技だったのかと言わんばかりだ。

確かに、長さを感じるのは、クライマックスのセリフが入る場面である。ここまで一級品の映像で走ってきた空気が一気に俗っぽくなってしまう気がする。とは言っても、見事な映画である。ただただ圧倒されてしまう映像を堪能する映画だった。


「暗黒街の弾痕」
フリッツ・ラング監督は名作中の名作であるが、さすがに、ストーリーの荒っぽさが目についてしまった。確かに、主人公エディが脱走する場面の霧にかかる監獄のシーンは圧巻であるが、その後のストーリーはかなり荒い。しかし、今遡って、こういう映画を見ているからであって、1937年の製作を考えれば、こういう逃避行の物語の原型がこれだと考えると、その手際よいストーリー展開は評価してあまりあるかもしれません。

主人公エディが刑期を終えて出所するところから映画が始まる。彼を待っていたのは恋人のジョー。しかし、前科者に世間の目は厳しく、ジョーは紹介された会社を難癖をつけてクビにされる。折しも、恋人との新居さえ購入した後だったので、思わず傭い主を殴ってしまう。

時を同じくして銀行強盗事件が起こり、たまたまエディの帽子があったため証拠になり、エディは指名手配される。ジョーの進言で自首するが、なんとそのまま死刑か言い渡される。

万策尽きたエディは、仲間を使って拳銃を手に入れ、刑務所の担当医師を人質に脱獄を図る。しかし、門のところまで来た時、所長に電報が入り、エディの無実が証明される。しかし、もはや誰も信じられなくなったエディは、説得する神父を撃ち殺し脱獄、ジョーと逃避行へ進む。

そして一瞬でジョーが赤ちゃんを産むところまで時間が飛ぶのがすごい。クライマックス、姉に赤ん坊を預け、ひとまず国境をこえようとしたが、直前で偶然ジョーが見つかり、通報され、国境付近で機関銃を撃たれジョーは死亡、エディもライフルで撃たれ命を落としてエンディング。

あれよあれよと展開するストーリーは確かに小気味良いが、ちょっと雑に見えなくもない。それでも、明らかにのちの生み出される「俺たちに明日はない」やその他犯罪映画の物語構成、演出スタイルの原型であることは確かで、最初にも書いたが、その意味では素晴らしい一本と呼ばざるをえないかもしれません。


「ビッグ・ヒート 復讐は俺にまかせろ」」
これは素直に面白い。展開の妙味と軽快さに引き込まれる一本でした。監督はフリッツ・ラングです。

ピストルのクローズアップから映画が始まる。そのピストルをとって自殺する刑事のカット、それを発見する妻。しかし、なぜか悲鳴さえあげない。

カットが変わると警察署、主人公バニオン警部が捜査を始めるが、自殺ということで方が付く。ところがあれは事件だとタレ込んできた酒場の女。彼女にバニオンは接触するが、直後、彼女は殺される。何かがあると感じたバニオンは、さらに捜査を始めると、どうやら、警察上層部の腐敗が見えてくる。さらに自宅にも怪しい電話がかかり始める。

しかし、物ともせずに捜査を進めるバニオンだが、なんと、車にダイナマイトが仕掛けられ、バニオンの代わりに乗った妻が爆死。怒りが頂点になったバニオンは警察を辞め独自に捜査をはじめる。娘は、知り合いに預け、ひたすら、悪の核心へ迫っていく。

どうやら、最初に自殺した刑事の妻ダンカンも悪人で、次第にほぐれてくる黒幕。バニオンに情報を提供した娼婦は顔に熱いコーヒーをかけられたりする。しかし、バニオンに味方する女なども現れ、最後は拳銃の撃ち合いになり大団円。

途中で主人公の妻が爆死するのは展開として、かなりショックですが、そのエピソードの配置がうまいので、全体に悲壮感が漂わない。

フィルムノワールらしい、光の使い方や、夜を中心にした舞台、都会の夜景なども有効に入れた映像作りもうまい。見応えのある一本でした。