くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「黒い画集 ある遭難」「鐘の鳴る丘 隆太の巻」「残菊物語」

kurawan2016-05-02

「黒い画集 ある遭難」
香川京子特集の一本。松本清張原作の山岳サスペンスで、山々のシーンが実に美しい構図で撮られているのが見どころである。監督は杉江敏男である。

山で一人の男岩瀬が死亡し、その遺体を山岳仲間が引き上げているシーンから映画が始まる。左半分を有効に使った構図が山の威容を的確に映像に映し出し、引き上げられる遺体を綱で引き上げる男たちの奥の深いカットがこれからのサスペンスを盛り上げてくる。

主人公江田は、山登りが趣味の男で、友人の一人岩瀬と初心者の浦橋と南アルプスへ臨んだ。寝台車を江田が手配して、挑んだのだが、なぜか経験者のはずの岩瀬が最初から疲労に包まれている。それでも、頂上にたどり着き、さらに別ルートで降りるてはずが、急な天候の急変で、引き返す。ところがその途中で道に迷い、とうとう岩瀬は疲労の末に発狂して死んでしまう。

ところが、岩瀬の姉真佐子が不審に思い、いとこの槙田に、弟の弔いを兼ねて、遭難現場に行って欲しいと江田に依頼。

最初は順調だったものの、槙田が次々と、岩瀬がたどった道について確認をしたりしていることに江田がどんどん不審が募り始める。そして頂上あたりで江田は確信した。江田は、自分の妻と不倫していた岩瀬を殺すために、偶然を装い、様々な可能性を積み重ねた計画的な殺人を実行していたのだ。

それを見破った槙田だが、帰路で、雪壁を降りる際、江田の策略で落ちてしまう。しかし直後、雪崩で江田も雪山に埋もれてしまってエンディング。

普通の娯楽映画といえばそれまでだが、さすがに松本清張の原作は、しっかりしているので、見応え十分な娯楽作品である。面白かった。


「鐘の鳴る丘 隆太の巻」
大ヒットラジオドラマの映画版。その第一部である。監督は佐々木啓祐である。

いわゆるすれ違いドラマで、巷に浮浪児がたむろしていた終戦直後の東京、信州の感化院を脱走した弟を探すためにやってきた修平が東京へ降り立つところから映画が始まる。そこで、一人の浮浪児隆太と出会い、彼を更生させながら、弟の俊次を探す。

出会いそうになると、何かのトラブルで、すれ違うのを繰り返しながら、信州の丘の上に鐘の鳴る丘として、浮浪児を収容する施設ができるまでを描く。

とにかく1948年という製作年度の東京の街並みがノスタルジックだし、まだまだ封建的な考え方が強かった田舎の風習が目の当たりに見えるあたりは、古き日本の原風景である。

映画自体は普通の作品であるが、さすがにヒットドラマの原作だけあって、展開は実にしっかりしている。

クライマックスは、感化院を飛び出し、東京から信州へ逃げる途中で、列車から飛び降り、泥棒家業の男に拾われるも、その男に真面目に生きろと諭され、再び東京へ戻る俊次。

隆太を伴って信州へ行き、なんとか小屋のような収容施設を作り、東京の浮浪児を集めに戻る修平が、俊次とすれ違って会えないままに、次のお話に流れるところでエンディングとなる。今となっては、当時の流行の映像版を見るというより、時代色を楽しむだけであるものの、一見の価値のある一本でした。


「残菊物語」(溝口健二版デジタルリマスター作品)
恐ろしいほどの傑作という映画が世の中にあるが、これもその一本。以前フィルム版を見たときも圧倒されてしまいましたが、今回のデジタルマスター版を見直しても圧倒されてしまいます。これこそ溝口健二の真骨頂と言わんばかりの見事さ。それがこの映画ですね。

延々と流れる長回しのカメラワーク。カメラが移動した先も徹底的に計算された画面の構図、スタンダードと思えないほどの画面の大きさを感じさせる演出。凡人と才人の違いをくっきりと見せ付けられる瞬間です。

二時間を優に超え、主人公が大阪に移るあたりで若干眠気がやってきますが、横から手前に引いて行く見事なカメラワークの圧倒されて、後半にのめり込んでいきます。

ラストシーン、水辺から見上げるように船を捉えるカットの大胆さに目を見張りながら映画が幕を閉じる。これこそ名作の貫禄です。