くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「残菊物語」(1963年版)「黒い花粉」「京化粧」

kurawan2016-06-20

「残菊物語」(1963年版)
大庭秀雄監督版である。先日、溝口版の大傑作を再見したので、見劣りは仕方ないのだが、この話自体が好きなので、何度見てもクライマックスは泣いてしまう。シンプルなストーリーといわゆる浪花節的な人情物語なのだ。しかし、さすがに、カメラワークやカメラアングルを見れば、やはり溝口版との差が大きい。

物語は、今更なので書く必要はないが、溝口版と違うのが、構図が斜めの縦の構図になっていることである。溝口版は横に大きなカットを何度も挿入し、動きのある大胆な演出が何度も出てくる。カメラアングルをも含め、さすがに格の違いを見せつけているのは確かである。

今回の大庭秀雄版は、そういう様式美の徹底とは違って、人物に寄ったカメラを多用し、人間ドラマの部分を前面に出してくる。顔のアップが多いというのもその特徴だと思います。

芸達者な役者を揃え、演技力を画面に引き出すことで、ドラマを描くという演出スタイルですから、溝口版との映像の形が違うのは当然と言えば当然ですね。この大庭秀雄版も、原作がしっかりしていることもあり、十分見ごたえのある一本でした。良かったです。


「黒い花粉」
どうもとりとめのない話で、一体何が本筋なのかわからない映画でした。監督は大庭秀雄です。

一人の男が花絵に電話をし、その後電車に飛び込んで自殺する。その目の前に、木曽という男がホームにいて、その事情徴収で花絵と知り合う。木曽という男は、知り合いの浜子が男と心中しかけたが、男に逃げられ、その病院へ行くところだった。

花絵の父の会社は傾いていて、その立て直しに、花絵を会社社長と結婚させたいが、上手くいかず、とうとう自殺する。花絵はというと、自立してブティックらしきものを経営、毛皮を父の知り合いに売りに行く。

浜子の男はつまらない男で、浜子から金をむしりとっているが、その弟分に殺される。そしてその弟分と浜子は逃げるが、警察に追われオートバイごと崖下へ。そこへたまたま花絵と、父の知り合いが乗っている車が通る。

最後はとってつけたように、花絵と木曽の恋愛が成就してエンディング。

全くとりとめがないし、次々と話がああちこちに飛び、次々と登場人物が出てきて、二転三転。よくわからないままに終わってしまった。ある意味呆れる一本。


「京化粧」
これはなかなかの秀作でした。京都祇園の街並みの描写がとっても風情があって美しいし、そこに行き来する芸妓さんたちの姿が静かな映像を作り出していく感じが素敵。しかもその画面が物語の悲恋を切々とこちらに伝えてくるのです。監督は大庭秀雄です。

東京から祇園の茶屋に来た山岡の部屋に、嫌な客から逃げてきた芸妓、園が飛び込んでくるところから映画が始まる。そして翌日、京都を案内することになった園だが、いつの間にか山岡に心が惹かれてしまう。

彼女には貧乏絵描きの男が旦那にいたが、金もなく、貧しい毎日だった。山岡は彼女を東京に呼びたいために、月々わずかの金を園に送るようになる。しかし、園はその金を画家の男に貢ぐだけだった。

しかし、程なくして画家の男が交通事故で死に、園の運命が急展開、折しも風邪をこじらせて寝込んでしまう。

山岡は健気にも金を送り続け、あるとき京都にやってくるが、園がいなくなっていた。実は園はある男の妾になっていたのだが、トラブルを避けるために山岡には周囲の人間が示し合わせて嘘をついたのだ。山岡は嘘とは知らず、京都の山奥まで探しに行ったりする。

しかし、京都の町で園の母親に会い、ようやく居場所を見つけたのだが、母と園に土下座をされてしまう。山岡は叶わぬ恋と諦め東京に帰ることになりエンディング。山岡を慕いながらも、どうしようもなく別れた園の悲恋と、彼女を姉と慕う小菊の悲恋を絡ませ、祇園の芸妓のどうしようもない運命を描いた悲しい映像が見事な一本。

祇園の町屋の細い路地や石畳、寄り合う瓦屋根、ふと山奥に景色が移ったときの山々など、とにかく京都という画面が見事にとらえられているし、徹底的な京都弁の音色が映画を覆っていく。さらに山本富士子岩下志麻の大人の美しい女性が織り成す物語が本当に綺麗である。唯一、山岡を演じた佐田啓二が浮いていたのが残念。でもいい映画でした。