くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ある落日」「すれ違いのダイアリーズ」「レジェンド 狂気

kurawan2016-06-22

「ある落日」
安定したフィックスの構図で描く大人の不倫ドラマの名編。そんな一言がぴったりのなかなかいい映画でした。監督は大庭秀雄。今となってはこういう大人のドラマがめっきり姿を消したなと思います。

主人公清子がこれから建てる一戸建ての設計を依頼した小杉と話しているシーンから始まる。小津安二郎を思わせる低いアングルのシンメトリーな画面から始まるこの映画は、とにかく、画面が実に静かで美しいことです。

清子には、妻のある男性小杉と愛人関係にある。小杉とは、清子の兄が亡くなった時に、その兄の勤め先の会社の社長として葬儀にきた時に出会った。その後、ことあるごとに相談をしているうちに、清子は小杉に想いを寄せるようになり、関係ができたのだ。

小杉の妻は病気で療養している。

小杉は清子と会っているうちに、何かしら興味を抱き始める。たまたま新しい工場の設計の仕事が舞い込み、その依頼主が小杉という名前と聞き、清子と小杉の関係を知る。折しも、小杉の会社が傾き、程なく、清子も小杉との関係を絶とうとするが、小杉が行方不明になる。

小杉を失い憔悴する清子は、箕原に小杉を探してくれと頼むが、見つからず、かつて小杉と一緒に行った信州ではないかと清子が思いつき、箕原と出かける。そして、そこで小杉を見つける。しかし、清子は、これからの未来のために別れることを告げ、箕原と一緒に小杉のもとを去りエンディング。

妙なキスシーンもベッドシーンもなく、小杉と清子の場面も実に静かで、大人の良識が見える。婚約者もいる箕原と清子たちも安っぽい愛憎劇に発展しない。この、お互いを信じ、ただ大人の良識で展開するので物語が実に美しいのである。クライマックスの信州、山々が彼方に見えるシーンで雪が降ってくるラストが見事である。こういう、目につかない名編がまだまだいっぱいあるのだろうなと思った映画でした。良かったです。


「すれ違いのダイアリーズ」
思いの外とってもいい映画でした。画面が絵になっているし、無駄なセリフがない。テンポもよく、小気味良い流れがうまい。掘り出し物でした。

手首に星の刺青があるために、それを咎められ、水上分校へ転任させられるエーンという女教師。一方、レスリングが好きであるが、体育教師の口がないかと探しているも見つからず、どこでもいいと言ったら水上分校への赴任になるソーンの姿が交互に描かれる。実は、時間が一年違うのだが、この二人の水上分校での奮闘ぶりが繰り返し描かれるのだ。この演出がまずうまい。

ソーンはとりあえず分校へ赴任するが、そこで一冊の日記を見つける。それは1年前にここに来ていたエーン先生のものだった。

水上分校で少ない子供達を教えながら、小さなエピソードを積み重ね、ほんのりした笑と暖かい人間ドラマを織り交ぜる脚本も見事。

ソーンはやがて、会ったこともないエーンに憧れを抱き始める。台風で壊れた校舎を直したり、蛇を退治したり、家の漁師の仕事のために学校に来ない子供を学校に来させようとしたり、汽車を知らないからと、学校を船で引っ張ったりしながら、生徒と一緒になって生活するソーン。

一方一年前のエーンは一週間に一度しか会えない恋人のヌイと上手くいかず、失恋ギリギリになるが、すんでのところでヌイとよりを戻す。やがて、都会の学校へ赴任するが、官僚的な都会の学校が上手くいかない。しかし三ヶ月後にヌイとの結婚が決まった頃、目の前に一度の過ちでヌイが妊娠させた女が来る。ここに無用なセリフを入れず、エーンの前に女を立たせるだけの演出が素晴らしい。この物語はソーンが読む日記と映像で語られていく。

やがて、再度水上分校へ移る希望を出すエーン。一方一年の期間を終えて、学校を去るソーンは、エーンの日記に続きで書いた自分の想いを残してさる。

エーンがやってきて喜ぶ子供達。エーンは自分の忘れた日記を読み、いつの間にかソーンのことが気にかかり始める。しかしソーンの居所もわからない。そんな時子供に送ったソーンからの手紙で春休みにやってくることがわかる。エーンは内心喜び、教室を掃除し待つが、やってきたのは恋人のヌイだった。一度はヌイと学校を後にするが、気になり戻る。しかし、誰もいないかと思われたが、突然、発電機が作動して学校に灯がともる。発電機は、かつて、漁師をしている子供の親が、持ってきたものだった。

教室に行くと、そこにソーンがいた。初めましてとお互いに自己紹介するエーンとソーン。見事なラストシーンである。

画面が絵になっている。映画になっている。この才能をまず拍手したいし、小さなエピソードを積み重ね、一年の時間のズレを繰り返しながら同じ映像にオーバーラップさせる演出も素晴らしい。とっても素敵な一本を見た感じです。良かったです。


レジェンド 狂気の美学
ロンドンの街並みが実に美しいクオリティの高い映像で覆われた犯罪映画の秀作。無駄のないストーリー構成と、落ち着いた演出が光る一本で、ギャング映画ではあるが、流血はほとんどない。もちろん実話だから、これが本当で演出でもなんでもないのだろうが、流血を表にせずに描くドラマ性は非常に評価できると思います。一人二役したトム・ハーディも素晴らしいのだ。監督はブライアン・ヘルゲランドである。

ブラウンの濃いセピア調の街並みの路地を、幅の広い車がこちらに向かってくるというシンメトリーなカットから映像が幕をあける。中に乗っているのは、この地域の双子のギャング、レジーとロンのクレイ兄弟である。二人の紹介がナレーションされた後、物語は、彼らが、権力を利用してどんどんのし上がる様が描かれる。冒頭でロンの異常ぶりが紹介され、一方でレジーの冷静ぶりが描かれて二人の個性を描写、後は二人の存在が、一見同じなのだが、どこか異なる空気で展開する様が素晴らしいのだ。

ジーは運転手のフランクを起こしに行ったところで妹のフランシスと出会う。そして程なくして二人は交際を始め、結婚へと進んでいくが、母親は大反対、さらにホモセクシャルではあるものの、なぜかレジーの姿にロンは反抗的になる。

しかし、物語は実に淡々と展開していき、強烈な抑揚で大きなうねりを見せないところが実に品のよい作風となっています。しかもその静かさが、ロンの心に宿る狂気をふつふつとスクリーンに匂わせるし、結婚して堅気になろうとするも、やはりギャングの世界から抜けないレジーの狂気も見え隠れする。

そんなレジーについていけないフランシスは、ことあるごとにすれ違いを始め、とうとう自殺してしまう。一方でロンは徐々にその行動が極端になり、人前で人殺しをしてしまう。こうして二人の世界は、徐々に崩壊していく。

今まで、手を出しにくかったクレイ兄弟でも、人殺しが表面化してくるとさすがに黙っておられず、とうとう警察は二人を逮捕してエンディングを迎える。

ロンドンの街並みと、抑えた人間描写、淡々とするストーリー構成など、どれもクオリティをしっかりと維持した作風で最後まで引っ張ってくれる。なかなかの一本でした。