くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「帰ってきたヒトラー」「10クローバーフィールド・レーン」

kurawan2016-06-23

帰ってきたヒトラー
つまり、ドイツは、いやヨーロッパはここまで危機的状況なのである。だから、あえて禁じ手であるヒトラーを持ち出してでもこの手のブラックユーモアを作ることになったのだろう。手放しで笑えないのが現実のはずである。今まで、ヒトラー賛歌は絶対ダメだったのだ。しかしこの映画はやや斜めからではなるか、人々が望んでいるという構図を取っている、ある意味背筋が寒くなるほどに恐ろしいが、一方でそこまで追い込まれていると見れなくもない。ラストで、ヒトラーに手を振る人々が目を隠した処置をされているのが痛ましいほどである。監督はデビッド・ベンド。

開巻、ヒトラーがレストランで話している。最近はまともに挨拶をしなくなった。つまりあの片手を上げる挨拶である。そしてタイトル。一見コメディ的なのだが、完全な皮肉である。

かすみの煙のようなものが覆い、地面に倒れているのは紛れもなくアドルフ・ヒトラーである。本人もわけがわからないままに目を覚まし、今が2014年であることを知る。あまりにヒトラーに似ているからと、彼を見た人々が携帯で写真を撮ったりする。その様子を、たまたまクビになったフリーのディレクターザバツキが発見し、彼をコメディアンとして売り出そうとする。彼のくそまじめな言動は逆に人々には滑稽に聞こえるのだ。すでに戦後70年なのだから。

しかし、難民問題や、教育問題、福祉問題など、ヒトラーが語る熱弁は、現代のドイツが抱える問題そのものだ。くだらないテレビ番組に熱狂し、政治に興味もなく、民主主義の意味もわからず生きている人々、それをヒトラーが痛烈に批判する。これはリアルな国民の声なのである。誰も口に出せないから、ヒトラーの口で映画で叫んだのだ。このあたりまでが、非常に風刺が効いていて、圧倒される。しかも恐れが笑いになるという展開が素晴らしいのだ。

テレビ番組に出た彼は時代の寵児となるほどに人気になるが、たまたま犬を撃ち殺した映像が出て、一気に下火になる。そして3ヶ月、彼は次の本を執筆しそれが話題になり、再び脚光を浴びてくる。映画化もされる。しかしザバツキの母がユダヤ人だと知り、ふつふつとヒトラーとしての本来の顔が覗き始め、ザパツキは彼が本物だと確信する。しかし、彼は精神病院へ収容されてしまう。

みるみる人気を博し、人々の支持を集めていくヒトラー。町の人々が彼に手を振る。クライマックス、ザパツキが屋上へヒトラーを追い詰めた時、ヒトラーがいう「私を選んだのは普通の人々だった。私は先導したわけではなく選ばれたのだ」という。そして、屋上から落ちるが、、ザパツキ覗き背後に再び現れる。かれは今のドイツ人が求める何かなのか?

ヒトラーが車に乗り、街を進む。顔をわからなくした人々がかれに手を振る。このラストが恐ろしいほどに怖い。よくできたコメディと取れるのは、我々あドイツ以外の人間だけかもしれない。この映画はとにかく怖い、いや、怖いといより、脚本家、監督の物凄いプロパガンダ映画のような色合いさえ見えてくる。そう取ると、この映画に物凄い嫌悪感が生まれてくる。バカ笑いしている観客は、本当に馬鹿である。この映画はある意味、凝り固まった主義主張映画だったかもしれません。


「10クローバーフィールド・レーン」
それほど期待してなかったのですが、結構面白かった。よくあるストーリーのようで、ひっくり返してはやっぱりと思わせ、でも違うという二転三転の凝りようがいいですね。監督はダン・トラクテンバーグという人ですが、脚本が「セッション」のデイミアン・チャゼルが参加しています。

主人公ミシェルが荷物を詰めているところから映画が幕をあける。どうやら恋人と別れて家を出るという感じで、車で疾走する彼女のシーンへ。ところが突然、車が事故にあい、そのまま崖下に落ちる。目がさめると、殺風景な部屋で点滴され、足をベッドに固定されている。そこへ、太ったハワードという男がやってきて、外は危険で、俺が助けてやったという。

普通の展開なら、この男が異常者で、ミシェルは拉致されたと考えるが、出口の外で一人の女が中に入れて欲しいと飛び込んでくるシーンで、そうではなかったと信じる。ミシェルと同じにエメットという若者もいる。ハワードによると、何かの攻撃で、外はガスが撒かれ危険だという。

しばらくシェルターの中で過ごしたが、空気濾過器の異常でミシェルが装置を修理しに行って、そこで外の景色とハワードが説明していた女性のイヤリングなどを発見、ハワードが怪しいと判断する。

そして、毒ガスを防ぐ服を作り、脱出する計画を立てるが、ハワードに見つかりエメットは殺される。一体ハワードのいうことはどこまで正しいのかというサスペンスで、物語は展開する。

なんとかハワードを阻止して、外に飛び出したミシェル、ところが外は空気は美しかった。ハワードのいうことは嘘だったかとマスクを外し、車の屋根で遠くを見ると、不思議なものが浮かんでいる。乗ろうとした車の警報がなり、慌てて身を隠すミシェルの前に、異常な生物が出てきて襲いかかる。さらに、奇妙な宇宙船らしきものが毒ガスをまく。慌てて、マスクをかぶり車に避難するが、そのまま宇宙船に釣り上げられる。車の中の酒ビンを火炎瓶にして投げつけ、危機一髪で助かり、そのまま車をハイウェイへ。ラジオから、軍が少しづつ敵を倒しているという放送が入ってエンディング。

ちょっと前にやっていた「クローバーフィールド」と関連があるのかないのかわからないのですが、映画としてはそれなりに面白かった。結局、ハワードは命の恩人だったのに、可哀想、という映画でした。