くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「有楽町で逢いましょう」「花芯」「ハイ・ライズ」

kurawan2016-08-10

有楽町で逢いましょう
たわいのない映画というか笠原良三脚本ながら、なんともまったりととりとめもない映画です。ただ、古き良き日本映画の空気というか、映画らしい映画というムードも満点という意味では、ちょっと癒される一本でした。監督は島耕二です。

有名デザイナーを姉に持つ弟とラグビーの解説をする元有名選手を兄に持つ妹の切ない青春ラブストーリー。展開は実にコミカルで、何というわけでもないけれど、脇役も含めそれぞれのキャラクターが生き生きと物語を綴るので、楽しい。

電車の中で姉と兄が出会うオープニングから、フランク永井の曲通りに有楽町で待ち合わせる若い二人のすれ違い劇、さらには、ふとしたことで姉と兄が喧嘩腰になる中での若い二人の戸惑い劇など、ありきたりといえばありきたりながら、その気軽さがどこかロマンティックになるからいいです。

映画としての出来の良し悪しは兎も角、これが映画が娯楽だった頃の一本だなと思うと、当時の世相が自分の周りを包んでいくような気がします。


「花芯」
瀬戸内寂聴の原作の映画化作品。おもしろいといいたいところですが、何を描きたいのか見えない一本でした。監督は安藤尋です。

昭和18年に映画が始まる。お寺の境内で抱き合う二人の。一人は雨宮、もう一人は園子である。間もなく、戦争が終わり二人は結婚となるが、園子には雨宮への愛情はない。この冒頭の設定が、すべてセリフで描かれるあたりの描写力の弱さがこの映画の薄っぺらい原因だろうか。

園子の妹の容子も雨宮に気があるらしく、どうやら二人の心も通じているようである。やがて園子は身ごもり子供を産むが、その頃、雨宮は京都へ転任、ついていった園子はそこで、雨宮の上司の越智と出会う。そして、園子と越智は恋仲になるというのが解説なのだが、ほとんど映像でそれが描かれない。

なにやら、園子は雨宮が体を求めるのを拒否し、あっさり、越智が好きだと告白し、夫婦仲は冷めてしまう。当たり前である。そして、どんどん越智に溺れて行くのかと思いきや、情事のシーンはそれほどなく、その艶やかさも画面の中に出てこないので、全く、色気が見えないのだ。

この手の映画で、登場人物に色気がなかったらどうしようもない。越智を演じた安藤政信も今ひとつ精彩がないし、やたら体当たりの村川絵梨は頑張っているが、どうも画面全体から甘い香りが見えてこない。

結局、雨宮は容子と結婚のしそうになるし、園子は中途半端のままに二人の元を去って行ってエンディング。なんとも、見えない映画、色気のない情愛映画というのはこれほどかと寂しくなってしまう一本だった。


「ハイ・ライズ」
いわゆるカルトムービーである。混沌とした物語とシュールと幻想の組み合わされた画面、さらには錯綜するストーリーの背後に潜む社会的なメッセージ。決して面白くないわけではないが、娯楽映画を楽しむという感じの作品ではありません。でも、こういう映画を久しぶりに見た気がします。監督はベン・ウィートリーである。

主人公ラングが、いかにも寂れたという感じの一室で佇むシーンから映画が始まる。犬らしき肉を焼くシーンから映画は3ヶ月前に戻る。

上層階に行くほど富裕層が住むという高級マンションに移ってきたドクターラング。彼はこのマンションの中で、セレブのごとき生活を満喫している。毎夜のように催されるパーティー、最上階に住むこのマンションの設計者ロイヤル、すべてが自尊心を満足させるものだったが、どこか、頽廃的な異常な空気を感じていた。

そんな時、低層階のワイルダーという男から、上層階と低層階の間の階層社会の存在、さらに下層階の住民の上層階への不満が語られる。そんなある日、不安定だった電源設備の不具合で、停電が起こり、暴動が始まる。

まるで、現実社会のような様相を呈していくマンション内。争いと暴力、SEX、などが無秩序になり、やがてマンション内のスーパーマーケットまで破綻、食料まで不足し始める。

ラングを味方にしようとする人々や、性に狂う女たち、乱痴気騒ぎに逃げ場を求める人々、出産、客観的にこの様子を見つめる少年、記録映画にしようとする男などが混乱の中で描かれる。シュールなカットの挿入や、外界を見下ろすようなマンションの最上階からの異様な景色。殺戮、 暴動、策略などがうごめきながらも、ラングは一人冷静にことの次第を見守り、やがて冒頭のシーンになる。マンション内の人々が彼の患者となりえるという現実を見据え、それなりの生活を始める。それらをじっと見る少年のショットで映画が終わる。

まさにカルトの世界である。描かれる様々な映像が、現実でもなく非現実でもなく、どこかリアルでどこかファンタジー。ストーリーの混沌を丁寧に整理した演出で、最後まで混乱させず見せる手腕はそれなりの評価ができると思う。ちょっとおもしろい一本でした。