くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「だれかの木琴」「グッバイ,サマー」

kurawan2016-09-12

「だれかの木琴」
思いの外良かった。いや、かなり良かったというべき素敵な映画でした。全く抑揚のない表面の映像と演技の裏に、ふつふつと燃え上がるような物語を忍び込ませている流れに酔いしれてしまいます。監督は東陽一です。絵作りも含めさすがにうまい。ただその一言です。

美容院に勤める海斗が自転車で朝のサイクリングをして戻ってくる。ポツンとともる海斗のメゾネットのアパートの明かりから始まるファーストシーンが素敵である。戻ってきたら恋人の女性が朝食を食べるために降りてくる。この階段の配置もうまい。

カットが変わると美容室。海斗がお客さんの女性をカットしている。女性の顔がカメラにフレームインすると常盤貴子扮する小夜子である。こうして物語が幕をあける。

海斗は小夜子に営業メールを送るが、それに即座に返信する小夜子。やがて、何気ないメールのやり取りのようで、小夜子から海斗へのメールは度を越して増えてくる。しかも、さりげない海斗の会話から、海斗のアパートを見つけた小夜子は、イチゴを届け、突然訪問し、海斗の恋人が勤めるロリータファッションの店で買ったシンデレラドレスを届けたりする。

表面だけを見れば異常である。しかし、体を求めるわけでも、もちろん海斗と小夜子がどうなる事もない。一方小夜子の夫は行きずりの女性と関係をしたりしても、家庭を顧みないわけでもない、営業の途中で家により、小夜子を愛したりもする。小夜子も海斗に髪を切られながらも、夫の愛撫を想像したりもする。恋であるようでそうでもない。

やがて小夜子の娘が海斗の美容室にいくようになる。大人の応対をする海斗に好感を持つ娘。しかし、小夜子はロングヘアーをショートヘアーにカットしてもらうところから、どこか家庭の中に波が起こり始める。しかし娘は冷静に父親に電話し、大事にならずに収まるかに見える。このさらりとかわすリズムも実にうまい。海斗の恋人が嫉妬のあまり、小夜子の家に怒鳴り込んだりするが、それも夫の冷静な対応で治る。

物語の展開が実に静かなのだが、その背後にある心の動揺、うねりが見事にスクリーンから伝わってくる。小夜子が初めて、家のセキュリティを切るのを忘れて、電話がかかるシーン、背後にヘリコプターの大きな音が響き渡ったりする。美容院にやってくる不気味な男性はラスト、実は放火犯だったりする。

小夜子が娘に詰め寄られ答える「あなたの母親だけで生きているわけではない」この台詞にこの作品の全てが詰め込まれている。しかも絶妙のうまい演出で描かれているいるのだ。

夫の部下が小夜子の料理に感嘆したと夫に言われ、小夜子はその同僚にメールを出す。

静かにソファに横になり眠る小夜子に、いつの間にか毛布がかけられる。不思議なラストだが、実に良い。エンドクレジットで、小夜子は目を覚ましとぼけた風でこちらを見る。これも良い。とっても素敵でセンスの良い映画に会いました。さすが東陽一、素晴らしい。


「グッバイ、サマー」
ミッシェル・ゴンドリー監督作品ですが、どこか中途半端でファンタジーなのか思春期の少年たちの友情ストーリーなのか、向かう方向が定まらないままに終わる一本でした。

映画は主人公ダニエルが起きてくるところから始まる。14歳ということだから中学生という感じで、まだ性にも興味があり、恋愛まがいにローラという少女に恋愛ではない恋心のようなものを抱いている。

彼のクラスにテオという転校生がやってくる。意気投合した二人は行動をともにし始めるが、テオは機械いじりが得意で、廃品の中からエンジンを見つけ、二人はそれでログハウスのような風貌の車を作って旅に出ることにする。ここまでが実に長い。

そして二人は旅をスタート、途中、妙に面倒見の良い夫婦に出会ったり、風俗店に絡まれたり、とうとう車を焼かれてしまったりする。結局、旅先の絵画コンクールで帰りの飛行機チケットを手に入れ帰ってくる。

飛行機が逆に飛んでみたり、何気ないファンタジックな演出も見られるがすでに遅く、路上生活のロマ人の話題など社会意識のエピソードなども挿入され、ラストは、退学になったダニエルの後ろ姿をローラが見つめてエンディング。

どれも中途半端で、まとまりがなかったために、一本筋の通った面白さ、シンプルさが見えてこなかった。