くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「アスファルト」「ティエリー・トグルドーの憂鬱」「超高速

kurawan2016-09-13

アスファルト
先日見た「団地」のごとく、不思議ワールドで彩られたちょっとヒューマンで心あったまる物語という映画でした。手放しでストレートに褒め称えるというより、なるほどちょっと良い映画だったやないの、と思える一本、面白かったです。監督はサミュエル・ベンシェトリという人です。

団地のエレベーターを付け替えるかどうかの住民投票の場面から映画が始まる。一人の男が反対を訴える。自分は二階だからエレベーターは使わない。だから金を出したくないという。結局、エレベーターを使うことを禁じられて終わるのだが、この男はトレーニングマシンを家に買って、その上で走っている時に気を失い、そのまま救急車で運ばれ車椅子に乗って帰ってくる。ところがエレベーターに乗れない。そこで彼は、みんなが乗らない深夜にエレベーターに乗ることに決めるが、店はどこも閉まっていて、病院の自動販売機を使ってスナックなどを買った。ところがそれに気がついた看護師に出会う。こうしてこの二人は深夜に会って話すようになる。男は写真家だと偽り、毎夜看護師の休憩時間にやってくる。

このアパートに住む高校生の青年。ある日向かいに引っ越してきた女性が鍵をなくしていると知り、助けてやったことから親しくなる。この女性は元女優で、今は落ちぶれている。しかしこの高校生は彼女の出た映画を見て、彼女が受けるオーディションの手伝いをしてやろうとし始める。

ある日屋上にNASA乗る帰還カプセルが落ちてくる。中から宇宙飛行士が降りてきて、アパートの住民の老婦人の部屋を訪ね、NASAに連絡、二日間過ごすことになる。この老婦人の息子は刑務所なのか病院なのかにいて留守で、老婦人は寂しい思いをしていた。宇宙飛行士は英語で老夫人はフランス語でお互いに会話を始め、次第に心が通じ合うようになっていく。

この三つの話が交互に語られ、次第にそれぞれが心のドラマに発展していく。時々彼方から不気味な音が聞こえるが、ある人は子供の泣き声だと良い、ある人はトラの声だと言っていたりする。

ある夜、看護師の写真を撮る約束をして車椅子の男がエレベーターに乗ると途中で故障、閉じ込められた彼は、動かない足を必死で引きずって脱出、看護師の元へ。看護師は約束に来ないと諦めていたが、夜明けにようやく男がたどり着き写真を撮る。空を見上げるとヘリコプターがやってくる。NASAが宇宙飛行士を迎えに来たのだ。

ヘリコプターを見つめる高校生の青年、女優、そして宇宙飛行士はヘリコプターに乗って帰っていく。

不気味に聞こえていた音は、広場におかれたコンテナの扉が、風に揺れる音だった。エンディング。

さりげない毎日にさりげなく訪れる不思議な世界。そのさりげなさが、実に不可思議な物語となって映画全体を覆っていく。でも結局、それも普通の日常の一ページというラストが実にほんのりさせてくれる。ちょっと面白い映画でした。どこか「団地」に似ていると言えなくもないですね。


「ティエリー・トグルドーの憂鬱」
ドキュメンタリータッチのカメラワークで、一人のリストラされた男の心の動きと、憂鬱を描いていく緊迫感溢れる作品であるが、それほど解説に書かれるほどのものだろうかと言える一本でした。確かにティエリーを演じたヴァンサン・ランドンの演技は見事なものだが、物語としてはありきたりであるように思える。監督はステファヌ・ブリゼという人です。

主人公ティエリーがハローワークで、研修を受けたのに仕事に就けなかったと訴えてる場面から始まる。彼は以前の会社で集団解雇に会い、同僚たちは訴訟に訴えようとしたのだが、生活のために参加せず、一人仕事を探し始めていた。

息子は障害者のようで、おそらく、考える以上の出費が必要なのだろう。

やがて、彼はあるスーパーの監視員の仕事に就く。そこでは顧客の不正をチェックするのはもちろんだが、従業員の不正にも目を光らせないといけない。ある日、指摘したベテランの従業員が自殺する事件が起こる。それまで疑問を募らせていた彼は、とうとう、別の従業員を詰め寄っている場面で、突然部屋を飛び出し、制服を脱いで車で去っていく。こうしてエンディングなのだが、これはつまり、我慢できない一人の男の子供のような行動というだけではないだろうか。

確かに、冒頭のシーンからフラッシュバックさせて解雇の場面や組合闘争の相談をする場面など過去を巧みに組み入れた演出は上手い。しかもカメラで追いかける彼の姿はドキュメンタリータッチプラス演技力のリアリィで緊迫感あるドラマ性を作り上げてくる。ここは確かに一級品だと思う。

しかし、結局この男はこういうことなのだと、ある意味見下してしまうのだ。確かに問題意識のあるストーリーなのかもしれないが、この後家庭はどうなるのかと考えたときに、果たしてティアリーは英雄なのか、問題を訴えるヒーローかと言われると、そうではないとわかる。

まぁ、確かに、この話を鵜呑みして、非難するのは良くないと思うが、現代の社会問題の一面だと捉える映画なのだろう。個人的にはあまり好みではない一本だった。


「超高速!参覲交代 リターンズ」
無難な役者さんを揃えて、おふざけ満載で描くエンターテイメント時代劇。前作はイマイチ入り込めなかったが、今回のほうが、物語の組み立ても的確で面白かった。監督は本木克英である。

前作でようやく参勤を終えた内藤ら一行。ゆっくり地元へ帰る途上で、藩で一揆が起こったという知らせが届く。実は前作で痛い目を合わされた老中が恩赦で返り咲き、内藤らを亡きものにし、さらに天下を狙った陰謀だった。

例によって駆け足で戻った内藤らは、老中の悪巧みに対抗するべく立ち上がる。笑のキレも物語のテンポも今回のほうが面白いし、うまくリズムに乗っている気がする。

めでたしめでたしでラストを迎えるたわいのない娯楽映画ですが、肩がこらずに見れる一本としては良くできていた気がします。少々脚本が雑いように思いますが、この雑さがかえっていいのかもしれません。