くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「映画聲の形」「レッドタートル ある島の物語」

kurawan2016-09-19

聲の形
完成度の高さでは「君の名は。」に軍配があがるが、アニメーションとしての面白さではこちらのほうが面白い。絵作りの面白さや時間処理のうまさ、場面転換のリズムなど、飽きさせないほどにテンポが良いのは見事だと思います。監督は山田尚子京都アニメーション作品ということで、今話題の一本です。

高校生の主人公の石田将也が橋の上を歩いている。部屋の中を全て整理して、これから橋の上から飛び降りて自殺するつもりらしいが、ふとした音に止められて思いとどまる。なぜ彼がここまで追い詰められたか。物語はここから彼の小学校時代にさかのぼる。この時間編集が実にうまい。

石田のクラスに一人の女の子が転校してくる。彼女の名前は西宮硝子。彼女は聴力が弱く、補聴器を付けていて、会話は筆談でしかできなかった。小学生はある意味残酷である。半分ふざけてからかっていた石田の行動は日に日にエスカレートしていく。そして、それはいわゆるイジメの領域に達したが、とうとう、西宮は転校することになり、その原因の中心だった石田はクラスの中で完全に孤立してしまう。

高校生になった石田はある日西宮と再会する。ずっと、周りの人間をまともに見れないままに生きてきた石田は、西宮にあったことで、なんとか謝って近づこうとするが、なかなかうまくいかない。そこに一人の少年、実は西宮の妹の結弦が現れ、次第に西宮と石田は距離を縮めていくのだが、そこにかつての小学校からの同級生が絡んでくるという展開になる。

時間軸や空間の変化を巧みの取り入れた編集がうまく、しかもアニメならではのデフォルメされたキャラクターが個性的に際立っているのは楽しい。

西宮と付き合う中で時として小学校時代の石田の行為への問題が浮かび上がっては消え、やがて責任を感じた西宮は自殺しようとするが、すんでのところで石田に止められる。しかし、その時誤って石田は落ちてしまい怪我をする。

退院してきた石田は西宮と会い、かつての友達とも会い、次第に周りの人たちが見えてくるようになってエンディングになる。

アニメらしい絵作りであるが、ストーリー構成といい、その編集といい、なかなか面白い。終始心に突き刺さるような訴えかけるメッセージが途切れない展開で、片時もスクリーンから目をそらすことができない迫力もある。

君の名は。」を見た後なので、比較してしまうものの、こちらのほうが私は好きですね。


レッドタートル ある島の物語
ジブリが出資したアニメーションで監督はマイケル・デュドク・ドゥ・ヴィットである。完全に芸術系のアニメファンタジーで、全くのセリフ無しで展開する物語であるが、さすがに絵が非常に大きく見えるしデザイン性にも優れていてクオリティは素晴らしい。とはいっても、あくまでおとぎ話であり、また日本的な感覚の話でもないところがあるのでジブリ作品と呼ぶわけにはいかないと思う。

荒れ狂う海でもがいている一人の男のシーンから映画が始まる。やがて、どこかの無人島にたどり着いたようであるが、人間らしいものはいない。孤独の中、幻影まで見たりするが、この男はいかだを作って脱出しようとする。ところが、二度にわたって、沖に出たところで何者かに襲われ破壊されてしまう。

そして三度目、迫ってくるものを待ち構えていると、なんと赤い大きな海亀だった。結局破壊され島に戻ったが、ある夜、その海亀が浜辺を歩いているのを見つけ、ひっくり返して動けなくする。

しかし罪悪感から、水を与えたり影を作ったりするが結局海亀は死んでしまう。ところがほどなくして、甲羅が割れ、気が付くと、人間の女性に変わっていた。しかも、その女性は生きていて、やがてこの男と暮らすようになる。

時が経ち、子供が生まれ、やがて青年になる。ある日津波が島を襲い、瀕死でこの三人は生き延びる。時が経ち、三匹の海亀が青年を迎えにやってきて、青年は旅立つ。

やがて男と女は年を取り、ある夜男は死んでしまう。女は海亀に戻り海に帰ってエンディング。

果たして一人になった男の幻影だったのか、あるいは海亀が男に寄り添い、男が寿命を迎えるまで支えたのか、それとも、男に恋した海亀が男と離れたくないために襲って島にとどまらせたのか。不思議なおとぎ話の世界である。

全体が緑を色調にした落ち着いた色で統一され、時折炎や太陽の黄色を交えるものの全体はグリーンの世界である。斜めに移動する画面が実に大きさを感じさせ、人物の画面の点に近い形で配置した構図もとても美しい。

クオリティの高い芸術アニメという感じの一本で、見ごたえはあるが、地味な作品でした。