くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「神様の思し召し」「エル・クラン」「トレジャー オトナタ

kurawan2016-10-04

「神様の思し召し」
とにかく笑わせてくれるし泣かせてくれる傑作。コミカルなシーンをちりばめながらどんどん物語が先へ進んで、いつの間にか語りたい核心に観客を引き込んでしまう。そして気がつくとたまらないほどの感動が胸に残る。最高の賛辞を送りたい映画でした。監督はエドアルド・ファルコーネです。

軽快なテンポとリズミカルなカットつなぎで映画が幕をあける。心臓外科医トンマーゾがこれから手術を行おうとしていて、手術室へ患者が運ばれていく。そして見事な執刀で手術を完了。何事も完璧を望み、奇跡や神なぞ信じない。

しかし帰ってみると、妻とは倦怠気味であり、長女は冴えない男と結婚、なんと独り立ちする甲斐性もなく同居している。唯一の希望は医学を志す息子だけ。ところが、ある夜、息子が重大発表をするからと家族を集める。てっきりゲイだという告白だと心の準備をした家族の前で、息子は神父になりたいというのだ。

戸惑うものの心の広さを見せて祝福する父トンマーゾ。しかし一方でなぜ息子がそんな道に進んだのかを調査し始める。

とにかく、あちこちにコミカルなタッチを散りばめていて、決してストレートに話が進まないのが楽しい。調べてみればピエトロ神父という人気の神父に感化されたのだとわかり、その素性を調べれば前科者らしい。そこで、尻尾をつかもうと、トンマーゾはどん底人生の男のふりをしてピエトロ神父に近づく。

神父が自宅に行くと言い出したので、周りの人間にどん底家族の片棒を担がせたり奮闘するが、あっけなくばれてしまう。そして、ピエトロ神父は騙したことを許す代わりにトンマーゾに一緒に教会の修理をさせる。

こうして次第にトンマーゾとピエトロ神父の仲は狭まり、一方で、見えないものが見えてきて心の余裕もできてきたトンマーゾの周囲の人間たちへの接し方も変わってくる。

教会の修理もほぼ出来上がった頃、ピエトロ神父はトンマーゾを解放してやり、息子と話をしろという。そして息子と話をしてみれば、遠に神父になることをあきらめ医学の道に進むことにしたのだという。それもトンマーゾがピエトロ神父に正体を見られた日にである。

そこでピエトロ神父にトンマーゾが電話をするが、なんと神父は事故で病院へ担ぎ込まれる。しかも頭に重傷を負い、トンマーゾの友人の名医が執刀することになる、かなり厳しいという診断に。トンマーゾは教会の修理の最終仕上げをするために出かけ、夜が明ける。

トンマーゾの携帯が鳴っているが、トンマーゾは外で景色を見つめていた。奇跡を信じて。木の実がぽとりと落ちる。トンマーゾは彼方へ歩いていく。果たしてピエトロ神父の手術は成功したのか失敗したのかわからない。しかし、なんとも言えない感動が胸に湧き上がってくるのである。

とにかく映像のテンポが実に素晴らしく、笑いの中に詰め込まれた人間ドラマが見事で、細かいシーンの中に、人の心に突き刺さるような暖かい思いが呼び起こされるのです。本当にいい映画でした。


「エル・クラン」
実話の映画化と聞けば、壮絶な物語である。舞台はアルゼンチン、重厚なよりのカメラで描いていく犯罪映画であるが、一見何もない普通の家族である一方で、誘拐を繰り返し、身代金をとっては人質を殺すのだから、どうしようもなく不気味である。その重さに圧倒される作品でした。監督はパブロ・トラペロという人ですが、製作はあのペドロ・アルモドバルです。

警察が一軒の家に踏み込むところから映画が始まる。地下室のようなところに衰弱した女が拉致されていて、家にいるのは普通の家族のようである。そして物語は三年前に戻りますが、時折この突入シーンも繰り返されます。

アルキメデスを筆頭にしたプッチオ家、一見なんの変哲もない家族ですが、実は、裕福な人間を拉致しては身代金を取り生活をしている。しかも、家族全員がそれを知っているのである。混乱したアルゼンチンという国柄を反映し、アルキメデスの影の権力により、見て見ぬ振りをされている犯罪である。そこが実に怖い。

長男アレックスのラグビー友達が誘拐され、金を取った挙句殺されてしまうところから物語が幕をあける。

次々と、犯罪を犯す家族に疑問を持ちながらも、金を手に入れて協力するアレックス。しかし、恋人ができ、結婚を考え始め、父に反抗するようになる。

次男は、こんな家族から身を隠すように逃亡して音信不通になる。そして、とうとう、アルキメデスをかばいきれないという権力者の電話の後、警察が踏み込んで終盤へ流れていく。

家族全員が逮捕され、アルキメデスに証拠が突きつけられ、家族だけでも助けろという判事の忠告にもかかわらず、無実を訴えるアルキメデス。結局、アレックスは飛び降り自殺するが未遂に終わり、その後の家族の人生がテロップに流れてエンディング。

壮絶そのものの物語であり、異常な世界と言えなくもない。しかも1983年の出来事なのだから、アルゼンチンの国柄が映画の空気に反映していいる。

ずっしりと迫ってくるカメラ演出、時折見せるすっと抜けたような様式美のカットなど、ちょっとした面白さの見れる映画であるが、内容が実に重い。見応えはあるものの、しんどい映画だった。


「トレシャー オトナタチの贈り物。」
カンヌ映画祭ある視点部門才能賞なる珍しい賞を受賞したルーマニア映画だが、非常に風変わりな一本でした。ひたすら人物二人の会話劇が続き、ただ穴を掘って、結局妙な歌が流れるエンドクレジットでエンディング。はぁ、なるほど、と口がふさがりませんでした。監督はコルネリュ・ポルンボユという人です。

普通に暮らす主人公コスティのところに近所の男が800ユーロ貸してくれとやってくる。最初はローンの支払いのためというが、再度現れ、曽祖父が埋めた宝を探すために金属探知機を借りたいからという。

コスティは山分けなどの条件をつけて金を工面してやる。そして穴を掘る場面が 物語の中心になる。

そして出てきたのは金属の箱で、この国では物によっては国有財産なので没収されるということで、警察に届け、開けてみたらメルセデスの株券だった。それなら国有財産ではないからと全部もらったコスティたちは、早速売りに行くが、結構な値段になる。

とりあえず、家に帰ると子供が、宝物と言って金属の箱を開ける。しかし株券でがっかり。そこで、コスティは売った金で宝石を買い、その箱に入れ、遊具で遊ぶ子供たちのところへ行き、開けてやる。大喜びする子供たちはその宝石を持って遊具で遊ぶ。カメラはパンして太陽を写し、「人生は人生だ・・」という妙な歌が流れてエンディング。

とまぁ、ある視点部門才能賞らしい奇妙な映画だった。それ以上の感想はありません。