くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」「昭和おんな博徒

kurawan2016-10-20

「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」
非常に落ち着いた映像で見せる良質の作品でした。フィルムの色彩を尊重した1929年ごろのニューヨーク、さりげないセリフや仕草に描かれる人物の存在感が実にしっくりしていて、見ていて、いつの間にか引き込まれます。ただ、落ち着きすぎた部分がかえって物足りなさを感じさせるというのも確かです。監督はマイケル・グランデージです。

1929年ニューヨーク、行き交う人々の足が描かれる。そして一人の男の足元へ。手に持った書面をひたすら削除したりしている姿。画面は、ヘミングウェイら世界的な作家を見出した編集者マックスウェル・パーキンスのデスクに移る。そこに持ち込まれた無名の作家トマス・ウルフの原稿。例によっていつもの如しかと読み始めたマックスは次第に引き込まれ、トマスと一緒に本を完成させようと持ち込む。そして、出版された本はベストセラーとなる。

こうしてトマスとマックスの友情の物語が幕を開けるのです。

続いて、5000ページにも及ぶ大作を持ち込んだトマス、マックスはさらにその本も出版にこじつける。そしてトマスはこの本に、パーキンスに捧げると献辞をを入れる。

書評を見るのが嫌だとヨーロッパへ旅立つトマスの元に、マックスから、書評で絶賛された旨の電報が届く。しかし、膨大な原稿の編集する中でお互いの家庭は危機に瀕したというのも事実だった。この辺りのドラマ描写が今ひとつ弱いのはもったいない限りです。

ヘミングウェイはマックスに、トマスが大作家だと誤認し書けなくなるかもしれないと警告を伝える。トマスは自分が成功していくことに異常なほどの反応をし、フィッツジェラルドに暴言を吐いてしまったりもする。

ところがある日、海岸でトマスは倒れてしまう。病院で検査の結果、脳腫瘍が無数にできていて、もはや数週間の命と宣告されるのだ。

死を迎える直前、トマスはマックス宛に手紙を書く。これまでの感謝の言葉だったが、その手紙はトマスの仕事マックスの元に届く。

実話であるので、崩し難い部分もあると思う。演技のできる役者が実に無難にこなしているのだが、もう一つ、熱さが伝わってこないのが残念なところである。映像は特に秀でたわけでもなく、人間ドラマ、友情ドラマとして見るべき作品として完成されていて、その意味ではなかなかの佳作なのだが、傑作になり得なかった一本という映画でした。


「昭和おんな博徒
藤純子の引退を受けて、江波杏子をよんで東映で撮られた一本ですが、さすがに映画が斜陽化し始めた時期でもあり、脚本の甘さと物語の雑さが目立った作品でした。監督は加藤泰です。

雨の降る街で、真っ青な和傘をきた一人の女が、渡世人らしい男に切りつけるところから映画が始まる。

細い隙間から人物を捉えたり、ローアングルで見上げた構図で描く加藤泰らしい画面で始まりますが、この後一年前の話になり、ここまでの経緯が語られる本編になると、一気にその迫力は影をひそめる。

誤って別人の男に切りつける場面に始まり、それをきっかけに、その男と知り合った主人公のだが、跡目争いの中でだまし討ちになり、愛する男を殺されてしまう。そこで、その復讐劇を始めるのが中心の話になる。

藤純子ほどの存在感と迫力がないのは、やはりちょっと存在感の違いでしょうか?面白くないわけでもないのですが、単純な勧善懲悪物語もさすがに飽きられてきたのが目に見える作品の出来栄えになっています。まるで映画の盛衰を見るような一本でした。


「ランデヴー」(デジタルリマスター版)
クロード・ルルーシュ監督が撮った約8分のドキュメンタリーであるが、これが結構すごい。
パリの街をアクセル全開で疾走していく車の窓からワンテイクで撮った作品で、そのスリリングさとドラマティックな映像は圧倒されてします。

右に左の走り抜け、人が横切り、鳩が舞い上がり、車が横断する。それでも、映像は途切れない。そして行き着いたところで、恋人らしい女性が駆け寄ってきて、運転手と抱き合ってエンディング。

さすがにセンスを感じる一本に感動してしまいました。


「男と女」(デジタルリマスター版)
全く何もない状態からこの作品を作れと言われても絶対にできない。これが名作、傑作と呼べる映画である。クロード・ルルーシュ監督の名作にして映画史に残る傑作を何十年ぶりかで見る。なるほど、素晴らしい。最初に見たときは、この映画の凄さは分からなかっただろう。音楽を操り、色彩を操り、映像を操る。これこそ限られた才能の持ち主が生み出せる映像世界。

寄宿舎にいる息子に会いにいく主人公ジャンは、娘に会いにきて帰りの電車に乗り遅れたアンヌと出会う。そしてジャンは自分の車でパリまで送ることになる。この普通すぎる導入部から、時にカラーに時にモノクロになり、お互いの過去が美しく挿入される。まさに映像のマジックである。

アンヌの夫はスタントマンで、お互い愛し合っていたが、撮影の時の事故で死んでしまった。一方ジャンの妻は、ジャンがル・マンのレースで重傷を負い意識不明になった時に錯乱して自殺してしまった。巧みとしか言いようのないテンポで二人の過去が挿入され、フランシス・レイの音楽、カラーとモノクロームが美しく絶妙のリズムを生む。

やがて二人は心を惹かれ合うのだが、非常にシンプルで、脇道のエピソードが全くないのに、色彩の切り替えと、音楽の挿入、海辺を歩く老人と犬の叙情的な映像などを繰り返して紡いでいくのである。一つには詩的であり、一つには音楽の如しなのである。

そして、モンテカルロラリーに出場したジャンのところに、アンヌから電報が届く。レースの車そのままにアンヌのところに駆けつけるが、すでにいない。子供達に会いに行ったと聞き、車で会いに行き、子供達を寄宿舎に返した後二人は愛し合う。しかし、アンヌには夫のことが忘れられず、ベッドの中でも鮮やかな想い出の映像がかぶるのだ。そしてアンヌは列車で帰るといい、ジャンは一旦別れるが車でパリまで走り、入ってきた列車に乗っているアンヌを出迎え抱き合ってエンディング。

これぞ名作。それ以外になんと感想を書けるのだろう。本当に芸術的なほどに感性の才能を目の当たりにする作品でした。素晴らしかった。