くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「骨までしゃぶる」「みな殺しの霊歌」「阿片台地 地獄部隊

kurawan2016-10-24

「骨までしゃぶる」
非常にシンプルに整理された物語の中に凝縮された人間ドラマが、観客にどんどん迫ってくる迫力を堪能できる一本でした。面白かった。監督は加藤泰です。

ローアングルで、幼い弟たちを養う貧しい農村の次女きぬ。生活のために身を売るべく、女衒が彼女を買いに来るところから映画が始まる。

やがて洲崎新地に売られた彼女は、持ち前の気丈さで女郎としての生活を始めるが、なんと演じた桜町弘子の存在感が抜群で、教養もない素朴さの中に見せる心根の強さ、芯の太さが物語を引っ張って生きます。

ある日おとづれた若い大工と恋に落ち、やがて廓を抜け出すべく警察に飛び込み無事、足を洗うラストシーンまでが軽快なくらいにテンポよく流れていきます。

明治の洲崎新地のセットも素晴らしい上に、廓の合法的な廃業を訴える青年たちの描写など、細かい時代背景も丁寧に描かれ、どん底に落ちた女たちの重苦しくなるような生き様の果てに見せた一条の光のラストシーンが見事です。

登場する女郎たちのキャラクターも綺麗に色分けされ、廓の主人の悪徳描写もあっさりと上手い。しっかり描きこまれ練りこまれた脚本と迫力あるカメラワーク、人物描写の秀逸さを堪能できる映画でした。


「みな殺しの霊歌」
相当思いが見応えが半端ではない。おそらく今では取り扱えないテーマの作品ではあるが、加藤泰監督のローアングルが本当にこの作品にあっているという感じの一本でした。

一人の男が女を縛り上げ、いたぶりながら、何名かの名前を書かせる場面から映画が始まる。そして結局この女を殺す。猟奇的に女が殺される事件を追う刑事は、その女たちの共通点を探す。一方、冒頭の男は次々と名前を知った女たちを暴行して殺していく。

やがて見えて来る事件の真相。二重写しで画面を重ねながら、クローズアップの緊迫感と、シュールなほどの見上げるカメラアングルで、真相が見えて来るまでが重々しく描かれる流れの不気味さはたまらない迫力である。

一人のクリーニング店の少年が自殺をする。一見関係ないかに思われたこの少年の自殺こそがすべての真相であったというクライマックス。

有閑マダムたちに輪姦されたこの少年は、そのショックから飛び降りたのだ。なんの縁故でもない主人公の男は、その少年と話をし、親しくしていた。そしてそんな少年の純粋さを奪った女たちを殺していく。

最後の5人目を殺し、自ら飛び降りて命を果てる主人公。たまたま出会った春子という女に恋心を持ちながら、時は遅かったと呟くラストはなんとも重苦しくも切ない。

当時なら成人映画のジャンルだろうと思われる性描写やテーマ、暴力シーンであるが、見事に処理された演出スタイルが、見事なメッセージを持って訴えかけて来る映画である。見事でした。


「阿片台地 地獄部隊突撃せよ」
久しくプリントが行方不明だった一本を見る。監督は加藤泰である。
これぞ珍品という独立プロ的な作品。

第二次大戦中の中国を舞台に、岡本喜八の戦争もののような様相の話だが、加藤泰監督は得意ではないのか、いまひとつテンポが悪い。

ヤクザ上がりの兵隊が、阿片栽培をしながら中国軍と戦っている最前線に放り込まれる。半ば監獄のような前線で、軍隊活動というより、ただ喧嘩のみという感じの物語や、妙な片言の中国人と主人公のラブストーリーが展開したり、なんとも言えない適当さで、まさにレア物の珍品である。

結局、恋人の女性も死んでしまい、抱きしめてエンディング。確かにレアな映画だった。