くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「奇蹟がくれた数式」「人間の値打ち」

kurawan2016-11-01

「奇蹟がくれた数式」
光の使い方が実に美しい作品。木漏れ日のように漏れる明かりが人物を照らし、室内を照らす。その淡いムードがインドのシーンで最高の効果を上げている。物語は実話ですが、人間ドラマとしても秀逸で、二人の登場人物の心の絆がつながるようで繋がらない、しかし次第に接近するという本当に微妙な変化が実にうまくでている。監督はマシュー・ブラウンです。

インドで暮らすラマルジャンは妻と母親を食べさせるため仕事を探している。数字にめっぽう強く、膨大な数式を記したノートを持って様々な所を回るが相手にされない。一箇所、彼の力を認めた男がいて、この地ではダメだから、英国に目を向けろとアドバイスされる。

そして、見つかったのがケンブリッジ大学の教授ハーディだった。早速彼に手紙を出し、その手紙に添えられた数式に驚いたハーディは親友のリトルウッドと共にラマルジャンを迎えることにする。

ラマルジャンは妻と母を残しイギリスへ。しかし、人種差別の激しい中、蔑まれるラマルジャン。しかも戒律ゆえに肉食を避け、次第に体が弱って行く。しかし一方で彼の提示する公式はあ天才的な独創性があり、その証明と思いつきの繰り返しをハーディと共に行う。

しかし、時は第一次大戦が起こり、さらにラマルジャンの立場は悪くなる。母親の嫉妬から妻の手紙がラマルジャンに届けられず、そのストレスからもラマルジャンは孤独になって行く。しかしハーディーの必死の働きかけで、次第にラマルジャンの存在の重要性が認められようとしてきた頃、ラマルジャンは結核を発症してしまう。

ハーディは大学の特別研究員としてラマルジャンを推すが否決、そこで王立研究員に推薦、ハーディの必死の働きかけでラマルジャンはインド人としても名誉な王立研究員となる。

ラマルジャンの研究は、さらにその存在感を高め、体調も回復した中、インドへ一時帰国するが、帰りの船の中で再発し、帰国後一年で死んでしまう。こうして映画は終わるのだが、ハーディとラマルジャンとの関係の微妙な溝や接近がほんの僅かのセリフや仕草の中に表現されるところが見事。名優ジェレミー・アイアンズの演技力に圧倒されてしまう。

画面の絵作りも美しく、隙間を漏れる明かりや影が人物にさりげなくかぶさる映像演出が上手い。非常にクオリティの高い一本で、ただの実在の天才の存在を描く作品で終わっていない点が素晴らしい映画でした。


「人間の値打ち」
複数のエピソードが絡んでいって、最後は一つに繋がるという、いわゆる交錯劇である。非常に良くできているのですが、最後の処理に鮮やかさが欠け、さらに付け加えられたこじつけのようなテロップが、ぶち壊してしまったという半端な映画だった。監督はパオロ・ヴィルズィという人です。

パーティ会場のかたずけのシーンから映画が始まり、一人の男が仕事を終えて真っ赤なダウンを着て自転車で帰路につく。夜道、後ろから迫って着た車が、対向車を避けてハンドルを切り損ね、自転車と接触したかのカットが入ってタイトル。

一人の娘セレーナが父親のディーノに送られて大邸宅に住む彼氏マッシのところへやってくる。いかにもな、いけ好かないこの親父を疎んじてセレーナは家の中へ。でて来たのは彼氏の母親のカルラで、ディノは図々しくも親しく自己紹介し、さらにテニスをしていた夫ジョバンニにも近づき、まんまとテニスを一緒にする。この図々しい親父、ジョバンニの運営する投資ファンドに図々しくも入り込んで、適当に借金をした金で投資する。

ディーノの話に始まった映画は続いてカルラの話へ。いかにも世間知らずの身勝手な妻カルラは、ただの町を守るためと劇場を買収し、夫に金を出させる。しかし、運営力もない彼女は、劇場の今後の話し合いでクタクタになり、さらに芸術監督と体の関係を結ぶ。全くバカ女という設定である。

ディーノがジョバンニとのテニスの約束に来てみると、なにやら物々しい会議をしていて追い返される。どうやら、投資ファンドが思うように行かなかったということで大損をしそうな空気である。慌てるディーノ。一方セレーナはなぜか落ち着かない。どうやら、パーティの後、酔ったマッシを送る際、冒頭の自転車との接触事故を起こしたらしいが、実は起こしたのは、たまたま知り合ったセレーナが想いを寄せるようになったルカだったようで、ルカはいかにも貧乏な生まれらしい。

こうして、冒頭の自転車事故が絡んで複数のエピソードが絡んで行くのですが、たまたま娘のメールの文章を読んだディーノが、疑われているマッシを助けてやるとカルラに取引を持ちかけ、損をした金をせびって行くという展開もある。

なるようにまとまっていき、結局ルカは捕まったけれど過失致死で軽い勾留になったとかいうテロップと、被害者への支払いは保険によりなされたという説明、さらにそれは人間の値打ちなのだという保険金額の根拠が説明されてエンディング。じゃあ、ここまでの話はなんだったのという感じである。

映画をたくさん見てくると、この手の交錯劇は珍しいものではないし、上手い人はもっと鮮やかに皮肉を込めたエンディングにするのですが、テロップで説明というのは、ちょっと芸がない気がします。面白かったけど、ミニシアター止まりという一本でした。