くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「湯を沸かすほどの熱い愛」「ブリジット・ジョーンズの日記

kurawan2016-11-08

「湯を沸かすほどの熱い愛」
これは良かった。子役を捨て駒にしていないし、単純な難病ものに終始していない奥の深い脚本が見事。さらに、杉咲花を含め、子役が素晴らしい。久しぶりに中身の濃い秀作に出会った感じです。監督は中野量太です。

夫一浩が出て行って、家業の風呂屋が休業状態になっているという張り紙から、しっかり者で明るい主人公双葉がい家事をやりとりしている場面に続いて映画が始まる。娘の安澄は中学生だが、どうやら学校でいじめを受けているようであり、元夫の一浩は一年前に突然家を出てしまっている。

最近、味覚がおかしかったりしていた双葉は、ある日パート先のパン屋さんで倒れてしまう。精密検査の後、ステージフォーの末期がんであることが明らかになり、残り2、3ヶ月と宣告される。

銭湯の浴室で夜遅くまで泣いている双葉に、晩御飯を待つ安澄から電話が入る。その明かりが風呂場に光るシーンがうまい。

安澄がご飯を待つ電話に、双葉はある決心をする。出て行った夫を呼び戻し、家業の風呂屋を再開し、家族を前向きに生きさせること。学校でいじめにあい、登校拒否する安澄を無理やり送り出し、気のいい探偵に頼んで一浩を見つけ幼い子供もろとも家に呼び戻す。

安澄が学校で制服を盗まれても、学校へ行かせる。そんな母親の気持ちに答えるように、教室で体操服を脱ぐ安澄。いじめの相手はわからないまでも制服が戻る。こうして、双葉がやりかけた家族の再生の物語がどんどん前に進む。脇役を決して無駄にせず、子役のセリフ一つ一つにもしっかりと中身のあるセリフにして手を抜かない脚本が実にうまいし、それに応えた子役も見事。

ある日、双葉は娘二人を連れて旅行に出る。そこで出会うヒッチハイクの青年のエピソードもラストに生かす伏線となる。じつは安澄も双葉の実子ではなかった。旅先で、双葉は安澄に自分は実の母ではないこと。毎年カニを送ってくる女性が実の母だと語り、母親に会わせる。手話を双葉が安澄に教えていたことは、この場面の少し前のワンカットで見せてあるあたりの伏線も見事。

そして、とうとう旅先で倒れた双葉は入院生活に入る。しかし、物語は双葉と娘たちの悲しい物語にせず、常に前向きに生きる双葉の存在を背景にして周囲の人の話で流れる当たりが実にうまいのだ。

やがて、双葉はこの世を去り葬儀の場面、ヒッチハイクの青年も間に合い、探偵の親子も霊柩車を運転して参加、そして、身内だけで送り出すのだが、なんと近くの草原にに止まる。そして、次のカットで全員が銭湯に入っている。ボイラー室で燃えているのはおそらく双葉なのだ。なるほど「湯を沸かすほどの熱い愛」なのである。

映画として仕上がっているというのはここである。一見、御涙頂戴の難病ものでありながら、散りばめられた伏線が実に丁寧に描かれる手抜きのない演出が物語に深みを与えている。しかも、ラストは非現実に近いサプライズながらも作品のテーマを伝えるためのフィクションで締めくくる。これが映画づくりなのです。本当に良かった。


ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期
実はこのシリーズは一本も見たことがない。しかし、イギリス映画らしい、洒落て軽快なコメディテンポが見事で、至る所で笑わせてくれる。この妙味を堪能できる一本です。監督は第1作のシャロンマグワイアです。

映画は、主人公ブリジット・ジョーンズの誕生日の場面。一人で自室で祝うパーティシーンからクスッと笑わせてくれるあたりの脚本がうまい。

友人に誘われていそいそ出かけた旅行先で、一人の実業家ジャックと知り合い、一夜を過ごす。しかし、その直後、恋人マークと再会したブリジットは彼とも一夜を共にする。そして約3ヶ月、彼女は妊娠していた。

こうして、どっちが父親かわからないドタバタ劇が、実に軽いテンポで展開していく。さりげない会話やツッコミ、小さなシーンで見せるコミカルな演出がとってもさりげなくて素敵。確かに、レニ・ゼルウィガーはかなりおばさんになってしまって、かつてのキュートな三枚目のイメージは薄れたものの、そこは演技力でカバーする様はなるほど演技派だと納得。

そして、クライマックスは出産。出産後どちらが父親かを鑑定する場面に移り1年後。とうとうブリジット・ジョーンズは結婚、その式に出たのはマークだった。しかし、ジャックも変わりなく親しげに寄り添ってハッピーエンディングである。

とっても見ていて爽やかになる映画で、嫌味も何もない。このしゃれた作りがやはりイギリス映画の魅力でしょうね。過去の二作品も見たくなりました。楽しい映画でした。


「コンカッション」
アメリカンフットボール選手の死とアメフトの試合との因果関係を突き詰めた実在の医師の物語で、丁寧に作り込まれた真摯な内容で見応えの一本でしたが、普通の作品といえば普通の作品でした。監督はピーター・ランデスマンです。製作にリドリー・スコットが関わっています。

アメフトの名プレーヤーがテレビで自らの英雄譚を語る場面にタイトルが被り、解剖医で病理学者のオマルが法廷で、その経歴を語るシーンから映画が始まる。ナイジェリアからアメリカにやってきたのだが、白人からは蔑まれている風である。彼は、解剖医として死体の解剖を請け負っている。

ある日、一人のかつてのアメフトの名選手が運び込まれる。解剖して見たが原因が見えないオマルは高額の費用を申請してこの死体の脳を解析する。そこに見えてきたのは、極度の脳震盪から生まれた傷害だった。しかし、それが試合に起因すると訴えてもNFL側はその否定に躍起になる。

いくつかの資料を揃え科学雑誌に発表、症例の名前もつけたものの、さらにNFLから圧力がかかる。

一旦は頓挫したのだが、三年後、かつての有名選手で、社会的な地位にもついている男が自殺。その際自らの脳を提供すると書き残したことから一気にマスコミに取り上げられていく。

その後は、テロップでその後が流れるが、この終盤の畳み掛けがちょっと弱い。そこまで丁寧につないでいくストーリーが一気にラストを閉めてしまう感じなのがちょっと残念。しかし、ウィル・スミスの熱演が光る一本で、見応えのある作品でした。