くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「聖杯たちの騎士」「ミス・シェパードをお手本に」

kurawan2016-12-26

「聖杯たちの騎士」
さすがにこの芸術性高すぎる映像にはついていけない。ささやくようなセリフの繰り返し、意味ありげなインサートカットの連続、享楽的ともいえる、艶やかな映像の数々、洗練されたカットに、大胆に動くカメラワーク。これが映像芸術だと言わんばかりですがストーリーがつかみきれなかった。監督は巨匠テレンス・マリックである。

何から物語を回想していけばいいのかわからない。脚本家として成功した主人公のリックは、金持ちの豪邸に招かれ、金と欲望の中、自由奔放な毎日を送っている。一方で、家庭の崩壊に苦しむ日々。ただ一人の兄弟、年老いた父、暴力を振るい、一方で享楽に浸る。

やがて六人の女性と出会うことで、自分の人生の変化を感じ始めて行くという物語をであるらしい。

冒頭に出てくるタロットカードが意味ありげにストーリーをつないで行くのですが、なんども出てくるアスファルトの路上の場面や、女たちのささやきの中に見出されるリックへの啓示などが、必死で見ていてもつかみきれず、結局何度か意識が遠のいてしまいました。

映像の高級感はテレンス・マリックならではとおもいますが、作品全体に、描くテーマほどの雄大さが感じられないのも事実。クオリティは高いものの、観客に訴えようという姿勢がいまひとつ見えない一本でした。


「ミス・シェパードをお手本に」
これは良かった。ウィットがちりばめられた脚本、それを見事に生かし切る名優マギー・スミスの演技、ストーリー展開の奇抜さと映画的な設定の面白さに、最初から最後まで見入ってしまいました。監督はニコラス・ハイトナーです。

真っ暗な画面、男の悲鳴と車がぶつかる音、明るくなると老婦人が運転する一台のバンが警察に追われながら疾走している。窓ガラスに血糊の跡、おそらく、さっきの悲鳴の原因なのだろう。追いかけてくるパトカーをうまくまいてしまい、物語はそこから少し経つ。

車を運転していたのはマリア・シェパードという女性。今や、バンを移動させながらの路上生活をしている。しかし、話すセリフがどれもがウィットが効いていて、憎たらしいのに憎めない。中には彼女をからからかうものもいるが、そんなものは気にもかけずに撃退してしまう。さすがにマギー・スミスの演技が光るのはこの辺りのやりとり。

彼女を気にかけているのが、彼女のバンが止まっている近くに住む劇作家のアラン・ベネット。私生活の姿と書き物をしている姿が一人二役で登場し、二人で会話しながら、シェパードの行動を見ている。

やがて、路上が駐車禁止になり、行き場を失ったシェパードはベネットの家の庭先に停車するようになる。言ってることはしっかりしてるが、ホームレス同様のシェパードには近所に人も蔑んだ目を与える。それでも、ベネットはどこか彼女の姿に惹かれ、彼女を戯曲にしながら、共同生活のような毎日を送る。

ベネットには年老いた母親もあり、その母親も施設に入ることになる。

シェパードの行動に翻弄されながら、時は15年を超えていた。すでに年老い、さすがに歩くのも厳しくなったシェパードに、老いという残酷が迫ってきている。時々来る福祉員と、彼女を検査入院させるべく福祉施設に連れて行く。そこで久しぶりのお風呂に入りるものの、いたたまれなく一人で戻ってくるシェパード。

彼女のことを何気なく調べていたベネットは、彼女がかつて修道院を追い出され、精神病院に近い施設にも入っていたものの、実は、有名なピアニストだったことが見えてくる。このくだりのさりげなさが実に上手い。

そして、ある朝、バンの中で息を引き取っている彼女を福祉員が見つける。そして葬儀の場面からお墓へ。そこで、死んだシェパードが現れ、かつて自分からシェパードの車にぶつかり死んでしまった若者も現れ、シェパードは天に召されて行く。ファンタジックなラスト、そして二人いたベネットが一人になるエンディングに、何か熱いものがこみ上げてくる。中盤でやたらシェパードを訪ねて来る怪しい男が実は冒頭でシェパードを追いかけていた警察官だったというのもなかなか練られた脚本である。

ちょっとした佳作という表現がぴったりの映画でした。