くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「こころに剣士を」「マイルス・ディヴィス 空白の5年間」

kurawan2016-12-28

「こころに剣士を」
非常に落ち着いた上質な作品で、物語はソ連領のエストニアで起こった斧語りを描いた政治色漂うものですが、フェンシングというスポーツをうまく使って、ヤリスジグ、引きすぎず、とっても良質な出来栄えの一本でした。監督はクラウス・ハロです。

第二次大戦後、元ドイツ軍人は終戦後も追われる身になっていた。フェンシングで活躍したエンデルが、首都レニングラードを離れ、エストニアのとある中学校に赴任してくるところから映画が始まる。カメラは彼がどこに向かおうとしているのか見つめるように後ろから追いかけて行く。このアングルが最後まで徹底される。

体育のクラブ活動を担当することになったものの、何をしたら良いかわからなままに、ある日エンデルは一人でフェンシングの練習をしていて一人の生徒に見つかり、フェンシングのクラブ活動を開始する。

生徒の一人の祖父がかつてフェンシングをしていたことや、政府に目をつけられて収容所に連れていかれるなどの細かいエピソードを丁寧にちりばめ、物語を映像で説明する脚本がうまい。

校長はこのエンデルを信用できず、密かに調べていた。そして、彼が元ドイツ兵士であることを突き止める。そんなおり、レニングラードでフェンシングの全国大会が行われるということで、生徒の熱望で、出場することに。

クライマックスは、この試合会場と、エンデルを収容所に連れて行くべく政府の役人が集まってくるシーンになる。

差ありげないフェンシングの試合シーンの熱い展開と、笑んでるに迫ってくる政治的圧力のバランスが取れ実に上手いのがこの映画のいいところで、結局試合は優勝し、エンデルは収容所に連れていかれる。

エピローグで、レーニンの市で、収容所の囚人が解放されたとテロップが入り、エンデルも懐かしい中学に戻ってきて、かつての生徒と再会してエンディング。丁寧な作風と、こっち裏とされたエンsyつで、意図が明確に伝わってくる佳作。いい映画でした。


「マイルス・ディヴィス空白の5年間」
ジャズ界の巨星マイルス・ディヴィスがその絶頂期の後、5年間の空白期間があった。その期間に焦点を当てた作品で、過去と現代、空間を巧みに組み合わせた作風がちょっと面白い一本で、最後にないもかもが一つに融合するあたりの脚本の組み立ても面白い。若干、焦点がずれるところがあるのも確かですが、一人の巨星の知られざる時間を映画として取り上げた面白さは評価できる映画でした。監督は主演も務めるドン・チードルです。

その絶頂期を経験後、なぜか新しい曲を発表しなくなったマイルス・ディヴィス。生活は荒れ、繰り返す録音テープを何度も回している。ある日、ローリングストーン誌を名乗る一人の男が無理やりやってきて、成り行き上マイルスと行動を共にするようになる。折しも、マイルスが大事にしていたテープが盗まれ、それを取り返すために命がけになるマイルスの姿を通じ、過去の愛する女性との物語や、栄光の時代の様々なエピソードが挿入される。

彼の暗部を中心に描くので、どうしても物語は暗くなるのですが、彼の演奏する曲が背後に流れ、それを聞くだけで心が殺伐とすることがないから不思議である。

結局、テープを取り戻し、それを再生してみると、そこにはトランペットの音色はなく、吹けなくなったために、オルガンで曲を奏でる音がかすかに聞こえるだけだった。

本編はそこで終わるが、そして間も無くして華麗に復活したマイルス・ディヴィスの舞台が映され映画はエンディングを迎える。

マイルス・ディヴィスのファンにはたまらない一本だと思える作品で、素直に彼の姿を見つめるカメラ視線がこちらに伝わってくる迫力がある一本でした。よほど、ドン・チードルはこの作品に心を傾けたのでしょう。其の熱さをひしひしと伝わってくる映画でした。良かったです。