くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「沈黙 サイレンス」「ザ・コンサルタント」「アラビアの女

kurawan2017-01-26

「沈黙 サイレンス」
見た人が全員、しんどいという感想でしたが、そんなことはない、結構良くできた心理ドラマの秀作だった気がします。ナレーション形式で物語が語られる背後で展開する様が一人の宣教師の心の変化を描いて行く。遠藤周作原作の小説の映画化である。監督はマーティン・スコセッシ

日本へ布教に出かけたフェレイラ神父が棄教したという噂が流れ、その真相と、日本へのキリスト教布教のためロドリゴとガルべという二人の神父がやってくる。

静かなカメラで捕らえられた映像が美しいし、BGMを控えた音響効果が題名の「沈黙」を暗示する演出もさすがと言える。

日本へやってきたものの、切支丹たちは怯えるばかりで、暗い小屋に隠れるようにして生活を始める。布教というより、ただ、隠れ切支丹のためだけの存在になり、一方で、棄教を拒否したために弾圧される村民を見るにつけ、本当の神の布教が何か疑問を持ち始める。

そして、とうとう捕まり、投獄される二人、数々の懐柔策や拷問を繰り返され、なんとか棄教させようとする役人側。そして、とうとうガルべは殉教してしまうう。そして残ったロドリゴの前に現れたのが、今や棄教して日本人の名前を持ち日本へ帰化したかのようなフェンレイラ神父だった。

果たして、頑なに棄教を拒否し、犠牲者を増やすのが信仰なのか次第に揺らぎ始めるロドリゴは、とうとう踏み絵を受け入れ棄教して、フェンレイラとともに日本人のために働くようになる。

後の物語は、単に彼らのその後を語って行く。

信仰というものの本当、民族の違いにかかわる人々に根ざした心の問題など、一見布教弾圧の時代の日本を描くだけに見える物語の中にしっかり埋め込んだ人間ドラマが見事な一本で、三時間近いのに全く飽きることなく最後まで食い入ってしまいました。確かに重いテーマですが、一人の人間の心の葛藤が、単に西洋側から描かれるのではなく日本人の立場からもしっかり見据えられた脚本がうまいし演出も大したものだと思います。いい映画だったかなという感想です。見応え十分。


ザ・コンサルタント
これは面白かった。めくるめくような伏線と、しっかりと書き込まれた人物関係の構図に爽快なほどのアクションが絡み、さらにサスペンスフルな面白さも盛り込まれている。盛り沢山と言えばそうですが、充実した娯楽映画の秀作でした。監督はギャビン・オコナーです。

十年前、ある精神病施設で、一人の男の子が執拗にジグソーパズルをしている・傍に一人の男の子がいて、離れたところにもう一人女の子がいる。この三人がこれからの物語のキーパーソンなのは明らかである。

そして現代、財務省のレイモンド・キングが一人の分析官を呼び寄せ、過去を暴露した上で強制的に捜査官にし、ある仕事を依頼する。それは世界中の危険人物のマネーローンダリングを請け負いながら、全く命が危険にならない会計士なる人物を突き止めることだった。

カットが変わると、一人の会計士ウルフの姿。様々な危険人物のマネロンを行なってきたが、誰かが探しているようだという情報から普通の企業の仕事の依頼を受ける。それは医療器具の巨大メーカーだった。

そこの不正を一晩で解明したウルフだが、誰かから命を狙われ始める。ウルフの行動と、現代に至った経緯などが語られる過去の物語、さらにキングらからの追跡の物語が三つ巴で展開する様がとにかく面白い。

どうやら、ウルフを狙っているのは、不正を暴いた企業のCEOらしいと突き止める。一方キングらも探している会計士はウルフだと突き止めて行く。

そして、CEOの家に襲撃をかけるウルフとそれを迎え撃つ、CEOのお抱え私設警備隊長たち。次々とやられ最後の最後迎え撃った私設隊長はウルフがかつてともに過ごした兄だとわかる。そして再会ののち、CEOは殺される。

最後に残された謎は、ウルフにかかってくる電話の女の正体。現代の精神病施設。一人の少年がある部屋に迷い込むと、一人の女性が高性能のコンピューターに向かっている。自閉症のこの女性がコンピューターを叩くと、音声が発せられる。それがウルフに連絡していた女性の声だった。さらに、冒頭でウルフとその弟と一緒にいた女性だった。

アナ・ケンドリックス扮するディナが、ウルフが不正を暴く会社の経理担当で、ウルフと一緒に命を狙われることになり、ウルフが必死で守る下りなど、さりげない脇のエピソードも組み入れた脚本も面白くできている。まぁ、なくてもいい感じですが、やはりアクションには女っ気もないとね。

結局、ウルフはまた場所を移るために、全財産を積んだトレーラーで何処かへ去る。ディナの元に、ディナがウルフのトレーラーで見つけて気に入ったポロックの絵の本物が届きエンディング。

とにかく、ウルフがやたら強い。完璧なスナイパーとして、ピンチになることなく敵を倒して行くくだりが爽快だし、最後の最後の真相とが明らかになる下りの手際良さも、それまでに小出しした謎解きを一気に仕上げるというのが鮮やかさもうまい。レイモンド・キングとウルフとのエピソードもちゃんと描いてあり無駄もない。

一級品のサスペンスアクションの傑作でした。こういう映画大好きです。


「アラビアの女王 愛と宿命の日々」
アフリカに魅せられ、「砂漠の女王」と呼ばれたイギリスのガートルード・ベルの半生を描いた作品で、監督は ヴェルナー・ヘルツォークである。映画自体は特にずば抜けた作品というわけではなく、一人の女性の物語として丁寧に描いて行く画面は好感な一本。

イギリスの鉄鋼王の娘ガートルードは大学を卒業後、アフリカへ向かう。そこで現地の人々と交流、持ち前の前向きさと気丈さ、誠実さで、現地の様々な部族から慕われるようになる。

時は第一次大戦前後、まだまだ混乱が続いていたアフリカだが、様々な民族との繋がりを続け、やがていくつかのアフリカ国家が自立する。

ロレンスなど歴史上の人物との交流や、二人の男性との悲恋ドラマなど、エピソードも豊富に展開する大河ドラマ的な作品。飽きることなく最後まで楽しむことができました。