くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「彼らが本気で編むときは、」「はなればなれに」

kurawan2017-02-28

「彼らが本気で編むときは、」
静かに淡々と流れる物語ですが、その根底に流れる母と娘の絆の暖かさがしみじみと胸に伝わってきて、なんとも言えない感動が呼び起こされる素敵な映画でした。監督は萩上直子です。

一人の少女トモがコンビニのおにぎりを食べている。ゴミ箱には大量のおにぎりの包み紙があって、いつもこれをあてがわれているのがわかる。台所は洗い物がそのままで、どうやら母親は突然男を作って出ていったようである。

仕方なくモモは叔父の勤める書店に行き、いつものごとくお世話になりに行く。今回が初めてではないのだが、叔父のマキオは恋人と住んでいるという。言って見ればそこにいたのは一人の大柄な女性リンコ、いやトランスジェンダーで性転換した女性だった。

こうして3人で暮らし始めるが、母親がいかにも無責任であるのと正反対でリンコはとにかくモモに優しい。そしてモモは次第にリンコに母親を見て甘えるようになる。リンコは自分の切り落とした男性自身の供養に、編み物でそれを作り108個作ったら焼いて戸籍の性別を変えるつもりで編んでいる。やがて三人でそれを編み始めるのが物語の背景に描かれて行く。

学校でも自分の性に悩む少年がいるが、母親は彼の本当の気持ちを察してくれず、さらにリンコやモモと一緒にいるところを発見して必死で遠ざけようとする。悩んだ彼は自殺未遂まで起こしてしまうのである。

リンコとマキオは自分たちを慕ってくれるモモを養子にする決心をするが、そこへ母親が帰ってくる。

母を見た瞬間、モモはやはり母の元に戻りたいと言い、1日だけ待って欲しいと言う。その夜、リンコは徹夜であるものを編む。翌日モモにそれをもたせてやるが、モモが家に帰って開いてみると編んだオッパイだった。リンコの家にいた時、モモはリンコの胸に触って安心して眠ったのを覚えたいたし、リンコが中学生の時、トランスジェンダーで悩んでいた彼に母親が作ってくれたオッパイの編み物を覚えていたからである。

この物語に、メインとなる男性はマキオしか出てこない。かろうじてリンコの父親が出てくるが、物語に重要な立場ではない。母親はトランスジェンダーのリンコを含め複数出てくる。

女性と娘という構図がこの作品を語るポイントではないかと思えるし、そこが作品のキーなのだろう。

リンコを演じた生田斗真もマキオを演じた桐谷健太もとにかく純粋に演じていて、妙な濁りが作品に生まれなかったのも良かった。良質の秀作でした。


「はなればなれに」
ジャン=リュック・ゴダール監督らしいみずみずしいほどの映像演出と即興ならではの生き生きした画面が楽しい映画で、二人の男と一人の女のラブストーリーと行き当たりばったりの犯罪が織りなす物語は、青春そのものと感じ入ってしまいました。

フランツとアルチュールは、たまたま見かけた少女オディールに出会い一目惚れする。

子供のようにちょっかいを出しながら三人は仲良くなり、車で走り回りながら自由奔放に遊びまわる。

オディールの叔母が大金を持っていると知った二人は三人でその金を奪おうと計画、まんまと金を奪うが、一人が撃ち殺され、オディールとフランツが逃亡して何処かへ向かう船に乗ってエンディング。

なんとも、コミカルな展開であるが、独特のスピード感とリズムはさすがにゴダールらしく楽しませてくれます。カットの切り返しの妙味や遊び心満点の音響演出なども面白い一本で、初期の名作と評価されるのが納得できる作品でした。