「牝猫たち」
ロマンポルノリブート企画の一本、監督は白石和彌である。
デリヘルで仕事をしている三人の女を主人公に、それぞれの女にまつわるその背景のドラマと客との物語、さらにはデリヘルの店の人間模様を描いていく。
ロマンポルノなので10分に1回の濡場シーンが出てくるが、さすがに今ひとつ美しさも妖艶さもない。ただ三人三様の人間ドラマの描き方はそれなりに面白いし、殺伐とした夜の街の空気などはしっかりと描けているように思えるし、その意味では面白かったです。
シングルマザーで、子供を胡散臭いベビーシッターに預けている女、ホームレス状態で客の部屋やネットカフェで暮らす女、夫がいながらも夫が若い女を作っているらしい様子に耐えきれず、そのはけ口に働いている女など、都会の片隅に必死で生きる、あるいは必死で生きることを模索する女たちの様子が、生々しく感じられる。
三人が一緒に遊びまわっているときの異様な生き生き感もデリヘルで仕事をしているときと対比できる楽しさもある。
小品ですが、それなりに見応えのある映画だった気がします。
「The NET 網に囚われた男」
人間の不条理、偽善、欲望、何もかもが渦巻いて展開する胸焼けするような感情の彷彿に、見ている側が顔を背けてしまう圧迫感を感じる。そんな詰め込まれた世界が展開する様はただ嫌悪感のみ。監督はキム・ギドク。まさに彼らしい作風で描かれた作品である。
北朝鮮で貧しいながらも仲睦まじく暮らすチョル。そのなんとも慎ましいシーンから映画が始まる。たった一艘の船で魚を取り、ひとり娘と愛する妻と生活をしている。
その朝、いつものように漁に出たが、網がモーターに絡まり、そのまま流されて韓国側に行ってしまう。当然拉致され、尋問を受けるが、その非条理な対応と自国こそが素晴らしいから亡命しろと迫る偽善的な対応に戸惑う。
ソウルの街中に放り出されたチョルは、放り出される直前、スパイ容疑で自害した男の伝言を伝えるために、とある食材屋へいく。しかし、それはスパイの指示暗号だった。当然、スパイ容疑で逮捕されるが、結局、世論の圧力もあり、北へ送還されることになる。
政府のプロパガンダとして利用されるチョル、しかし断固北朝鮮に忠誠を誓い送還され、大歓迎されるのに、そこで再び同様の取り調べに会い辟易としてしまう。
やっと家に戻されたが、もはや漁も禁じられていた。しかし、限界を超えたチョルは制止を無視して漁に出て、兵士に射殺される。
最後は、韓国を出るときに土産にもらったクマで遊ぶ娘のカットから、やはり元々持っていたボロボロのクマを抱いてカメラに向く少女のアップでエンディング。これがキム・ギドクの演出の締めくくりである。
終始、異常で不条理な取り調べシーンが続き、さらに全てが自分たちの保身と偽善だけで展開する物語は見ていて苛立ちだけが募る。それでも最後まで見れるのは、構築された物語構成のうまさゆえであろう。
前半と後半を同じ繰り返しで描き、さらに小道具として登場する様々なものをラストに向かって集約していく。さらに主人公に周りの脇の人物さえも全く無駄にしない伏線のうまさはさすがだとは思う。
とはいえ、鬱陶しくなってくる映画である。