くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「暗黒女子」「クーりんチェ少年殺人事件」

「暗黒女子」
こういう学芸会のような映画もありといえばありですね。ストーリーがしっかり作られているせいか、映画としては面白かった。ただ、出だしから彼女たちがお嬢様に見えないのが気になって、なかなか入り込めませんでした。一つには、綺麗な日本語が話されていないからです。それと身のこなしですが、その辺りはあえて、実は腹黒い生き物たちだという人物演出だと考えれば納得も行きますので、いいとしましょう。

さらにカメラワークが今ひとつセンスがないために、流麗さが見えない。出だしから、妙なところでカットが入るのも気になりました。監督は耶雲哉治。

上流階級の女性だけが通うとされる聖母マリア女子高等学院。そこの経営者の娘いつみが自殺したという語りから映画が始まる。そして彼女が主催していた文学サロンで、いまにも恒例の闇鍋が行われようとしている。

いつみは誰かに殺された、そんな噂が広がる中、彼女の死をテーマに部員たちが犯人を告発する作品を発表していく。進行役はいつみの同級生にして親友小百合。

一つまた一つと語られる物語は、女子高生特有の様々な思惑や策謀に満ちていて、一見いつみは慕われ尊敬されていたかに見えたものの、実は彼女に羨望する視線は悪意に満ちていたことが見え隠れしてくる。

そして、最後、小百合はいつみが書き残した告白文を読み上げる。それは、いつみの自殺は狂言であり、そもそも、メンバーを集める目的が自分を主人公にした人生の脇役を集めることだったと書かれていた。しかし、その真相が終盤に差し掛かった時、さらなる真相が浮かんでくる。

さゆりが自分の存在に目覚め、いつみを殺し、その肉体を闇鍋に混ぜ、部員たちに食べさせたのだ。そして、次のリーダーとして文学サークルに君臨した小百合は、生徒たちから羨望の眼差しで輝き始める。秘密を握られたメンバーたちは彼女の脇役として存在することで、保身することになる。

確かに、二転三転のドラマ仕立ての面白さは、おそらく原作の面白さであり、それをそれなりに仕上げた脚本家岡田麿里の実力だろう。

ただ、全体に気品が感じられないのが残念で、確かに美少女たちの華やかさでお嬢様学校を見せようとしているのだが上滑りになっている。清水富美加はなかなかの存在感だが、一方のいつみ役の飯豊まりえが若干美少女に見えないので、とても経営者の娘で、何もかも牛耳れるという気品が見えてこないため、ただの学園ドラマに見える。

千葉雄大の先生も、これはこれでありかと思うが、やはりガキである。

物語の展開のスパイスが弱いので、終盤は流石に眠くなって来てしまったが、まぁ、損をしたレベルではありませんでしたので、いいとしましょう。

「牯嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(4Kレストアデジタルリマスター版)
エドワード・ヤン監督の傑作と言われながら25年間も公開もソフトの発売もなかった作品が4Kレストアバージョンで公開。なるほどさすがに素晴らしいクオリティの作品で、完成度の高い映画とはこういうものだと言わんばかりの映画でした。

3時間56分、さすがに長いですが、それほど長く感じさせない。とにかく映像が美しいし、画面の構図がぴったりと決まっている。さらに光や影を使った演出が見るものをスクリーンに釘付けにします。正直、人物名や関係とかが今ひとつわかりづらいままに終わりましたが、なんとも不思議な感動に包まれてしまった。完成品の迫力ですね。

1960年初頭の台北を舞台に、青春を謳歌する一方で、当時の不安定な台湾の姿を見事に描写し、主人公たちの行き場のない青春の姿と、切ない恋物語を巧みに盛り込んだストーリーは、見ている私たちをいつの間にか当時の台北に引き込んでしまいます。

主人公の小四は夜間中学に通う学生、不良グループに所属して、それぞれの縄張り争いを繰り返していたが、ある日小明という一人の少女と知り合い恋に落ちる。しかし、彼女にはハニーという恋人がいて、間も無くハニーが戻ってくる。しかし彼もまた地元の不良に殺されてしまい、さらに不良グループの対立は激しくなり、とうとう刃物を持ち出しての抗争まがいにまで発展する。

しかし、こういう物語ながら、さりげなく世相を映し出す大人の世界の描写、さらには小四と小明恋物語の行方なども語られ、美しい色彩演出と構図で描かれる映像表現に、どんどん魅惑されていきます。

終盤、とうとう小四は小明を刺し殺してしまい、逮捕されて物語は終わるが、実話を基にしているというテロップと、壊れたラジオから流れる冒頭の放送の声に、一気に作品のクオリティの高さと監督の感性の良さを感じてしまう。全く、見事な一本でした。見てよかった。