くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「パターソン」「天使の入江」「エルELLE」

kurawan2017-08-29

「パターソン」
とっても静かで淡々とした物語なのに、どんどん引き込まれて、このしゃれた世界の中に取り込まれてしまう。まさにジム・ジャームッシュの世界感。とっても素敵な映画でした。

偉大な詩人を生み出したパターソンという町に住むバス運転手のパターソン。愛する妻と一匹のブルドッグと暮らす普通の人物。真上から夫婦のベッドを捉えるカットから始まり、パターソンは妻にキスをして仕事に出かける。椅子の上には愛犬が座っている。

バスを運転し、乗客の会話に耳を傾けながら1日が終わり、家に帰る。ポストが歪んでいるので、治して自宅へ。妻はどこか芸術家風で、カーテンにペンキを塗ってみたり、ギターを始めたり、新しいメニューで料理をしたり、ケーキを焼いたりして過ごしている。

この妻の編み出す様々が、どこかちぐはぐな感じを犬のカットで見せるあたりが面白い。

毎日家に帰ったパターソンは犬を夜の散歩に連れ出し、いつものバーに立ち寄り、話をして暗転、次の日のベッドのカットになる。

映画は月曜、火曜と毎日が繰り返されて行く。その度に起こる物語はたわいのない話である。パターソンは自らも詩を書いているが、一冊のノートの書き留めているだけで、妻から、週末にコピーするように勧められている。彼はスマホさえも持たず、バスが故障して立ち往生しても、乗客の電話で連絡したりする。

実はポストが歪んでいるのは犬のいたずらだったというワンカットが挿入されたり、妻の作る料理や習い始めたギターにさりげなく犬がうんざりしていたりがまた楽しい。

そして週末、夫婦で映画を見て帰ってみると、犬がいたずらでパターソンのノートを細切れにしてしまい、書き溜めた詩は無くなってしまう。落胆を隠せないパターソンだが、お気に入りの滝の見えるベンチに座っていると一人の日本人がやってきて、さりげない会話の後、彼もまた詩が好きだということで意気投合、帰り際、彼に一冊の白紙のノートを贈る。

こうしてまた、パターソンは詩を書き始めてエンディング。なんともファンタジックである。しかも、日常がこんなに素敵になものかとおもえるほどに楽しく見えてくる。

ふと、自分の周りを観察してみれば人生はこんなに楽しいものなのです。それがこの映画の面白さではないでしょうか。良かったなぁ。

「天使の入江」
何気ないストーリーなのに、映像作りのリズムに引き込まれて、いつの間にかサスペンスを味わって、それが主人公たちの物語に絡んで見事なラストシーンにつながる。監督はジャック・ドゥミです。

ある海岸で二人の女性のカットからカメラがずーっとこちらに引いて行ってタイトル。そして主人公が働く場面につながる。

平凡な銀行員の主人公は同僚の勧めで市営のカジノに足を踏み入れる。そして、初めてのルーレットでそれなりの大金を勝ち取ってしまう。

彼はその金で、ニースへ旅行し、そこで現地のカジノに入り一人のカジノ中毒の女性と出会う。何気なく賭けるお金とルーレットの出目が、さりげなくサスペンスを生んで行って、さらに二人の関係も何気なく引かれるかのようなスリリングな展開が続く。

一時は大儲けするがその後大損し、帰る金もなくなるが、ホテルに残していたわずかの金を元に再度カジノへ。何気なく遊び、それがいつの間にか二人の恋物語に発展して、カジノをでて二人が歩き去るカットでエンディング。このラストの処理も見事

全編がルーレットの回転のようなリズミカルな映像作りになっていて、いつのまにかそのテンポに乗ってしまう。これが映画作りの醍醐味かもしれないし、これが才能が生み出すリズム感なのかもしれません。フランス映画らしいロマンティックな空気感も素晴らしく、映画とはこういうものだと爽快な気持ちになって映画館を出ることができました。


エル ELLE
ポール・ヴァーホーベン監督が作るとサスペンス映画もこういう風に暑苦しい感じの作品に仕上がる。

これがヒッチコックだとストレートにドキドキワクワクさせてくれるのですが、そこが根本的に作風が違うのです。確かに、見応えのある出来栄えの映画ですが、どんどん胸が締め付けられるようなエロさと、どうしようもないような嫌悪感さえも生まれてくる感覚に終始追い詰められたような映画でした。しかし、見た後の読後感のようなものは堪能できました。

猫のアップ、レイプされているらしい女性の叫び声と物音から映画が始まる。そして犯人が逃げた後の場面から主人公ミシェルが風呂に入ると、みるみる泡の中に広がる血、このオープニングがとにかく凄い。

ゲーム会社のCEOを務める主人公ミシェルは、幼い頃、父親が狂気にとらわれ、隣人を惨殺、刑務所に入っている。母親は整形を繰り返し化け物のようになりながらも男漁りが続き、今も情夫がいる。息子は妙にガキで、いかにも尻軽な女と付き合い、結婚を決めて子供までできたようだが、母のミシェルは大反対している。

会社では何かにつけ反抗してくる若い社員を収めながら、同僚の男とSEXをしている。しかもその男の恋人は仕事のパートナーである女の恋人である。

向かいには堅物の銀行員と宗教かぶれの妻が住んでいて、親しくしてくるが、ミシェルはその銀行員に性的な欲望を持っている。

何もかもがドロドロしていて重苦しい。ミシェルはただの被害者という設定ではなくて、どこか色情狂ではないかと思えるほどな異常さも見せる。このなんとも言えない不気味な主人公を演じるイザベル・ユペールが抜群に上手いのでこの映画が成り立っている感じである。

会社ではゲームが改変されてミシェルがいかがわしい化け物に襲われるいたずら映像が配信されたりもするが、そんなものは物ともせず一笑するミシェルもまた凄い。

そして終盤、またもややってきた黒ずくめのレイプ犯ともみ合っているうち覆面を取るとなんと向かいの銀行員の男だった。しかも、その事件の後も、微妙にミシェルはこの男と接し
最後、とうとう、3度目に襲われた時、息子が駆けつけ後頭部を殴りつけて殺してしまう。これもミシェルの計画だったのだ。そして全てが終わるのだが、なんとも後味がすっきりしない。

果たしてミシェルが仕掛けた罠だったのか、というあたりがストレートに演出していないので、ミシェルが微妙なキャラクターに見えているのである。

エピローグではあれほど嫌っていた息子の恋人を明るく受け入れるミシェルの姿や、向かいの妻が引っ越していくのを明るく見送り、妻も明るく出て行く下りも微妙。

いずれにせよ、好みの分かれる映画であり、クオリティは高いし、イザベル・ユペールの演技を見るだけでも値打ちのあるものすごい作品ですが、嫌う人は嫌うでしょうね。
私の好みも微妙な感じです。