「おしゃれ泥棒」
作劇の面白さというのはこういう映画をいうのでしょうね。昔は良かった、というのは良くないかもしれないですが、少なくとも昔も良かったのです。洒落た映画作りの基本がこういう作品にあるなと思います。40年ぶりくらいですが、良かった。監督はウイリアム・ワイラーです。
真っ赤なオープンカーに乗ってオードリー扮するニコルが登場する場面から映画が始まる。ジバンシーの洒落た服に身を包み、これぞロマンティックコメディと言わんばかりですね。
ニコルのお父さんは贋作の天才で、この日も、彼の作った名画が巨額で落札された。しかし、ニコルはもう父に引退して欲しいと思っている。
そんなある日、美術館にニコルの祖父が作った贋作のビーナス像を貸し出すことに。折しも、ニコルの父を疑っている人物の依頼で一人の男サイモンがニコルの家に忍び込み、ゴッホの絵の絵の具を削り取ったところに、ニコルに見つかってしまう。
こうして物語の舞台が完成、そしてビーナスの彫刻に保険をかけることになり、その精密鑑定なされることとなる。困ったニコルはサイモンを泥棒のプロと勘違いし、ビーナスを盗んでくれるよう依頼する。
コミカルで軽快なテンポで展開するサスペンスタッチの物語の醍醐味をここから味わうのです。
厳重な警戒システムをどうやって潜るかというブーメランの扱いなども、今見ても面白い。
結局、見事ニコルは盗み出し、めでたしめでたしの後のコミカルでウィットの効いたエピローグも素敵なラストシーンに思わずにんまりしてエンディング。
こういう洒落た映画が少なくなったのか、お客さんの求めがなくなったのか、制作側の才能が枯渇したのかはわかりませんが、こういう映画をもっと見たいなと思いますね
「新感染 ファイナル・エクスプレス」
大評判の韓国パニックホラー映画を見た。
確かに、娯楽映画としてものすごく良くできているのですが、そこまでやるかというほどの顧客感情を無視した作劇はさすがにいただけないです。あそこまでやらなくてもいいだろうと思う。しかし、導入部から本編になだれ込み、次々と襲いかかるピンチを切り抜けて行くスピード感あふれる展開は見事というほかありません。娯楽映画のお手本のような一本と言えるかもしれない。監督はヨン・サンホ。
一台の車が検問に止まるところから映画が始まる。何やら汚染地域が発生したようで
悪態をついた車が検問を抜けたところで、鹿を撥ねとばす。そのまま車は走り去るが
死んだはずの鹿が生き返りタイトル。
ファンドマネージャーのソグが利益主義でどんどん成果を上げている姿に始まり、家に帰ると一人娘のスアンが待っている。妻とは離婚する様子で別居している。そんな母親に会いたいとスアンがいうので、ソグは母親の元に連れて行くことにし、列車に乗る。
列車の発車直後、一人の不気味な女が飛び乗る。その女は何かに感染しゾンビのようになっている。実はバイオの会社のパンデミックが起こったらしい。
列車には妊婦の妻と一緒のいかつい男や、恋人同士の高校生などなどが乗っている。程なくして一人の犠牲者が出てゾンビのように次々と人を襲い、あっという間に列車内はパニックに。この導入部が実にうまい。
車両から車両へ移っては扉を閉めて一呼吸置く。暗闇になるとゾンビたちの動きが緩慢になる。ゾンビたちは眼や耳に触れるものを追いかけるのでトンネル内はやや安全であるなどの細かい設定もうまい。
列車内という閉鎖された空間と疾走するスピード感、その中でのサバイバルアクション。そこに、例によって利己主義なキャラクターやお涙頂戴シーン、さらには人間のエゴも前面に押し出してくる。もちろん、ありきたりの設定とはいえ、さすがに韓国の国柄でしょうか、感情を逆撫でするようなセリフはさすがに目を背ける感覚になります。
そして、プサンが安全ということでそこを目指しますが、次々と主要メンバーが死んでいき、最後の最後、とうとうソグも死んでしまう。ここはやりすぎの気がします。
結局、スアンと妊婦の女だけ助かり、釜山の防衛戦のトンネルを歩き始める。軍隊が狙う。あわや射殺命令がというところでスアンがアロハオエを歌い出して、二人は感染者ではないと判明してハッピーエンド
確かに映画の作り方としてはうまいと思いますが、見終わった後の清々しさがないのは、ちょっとやりすぎという感じゆえでしょうか。
「新宿乱れ街 いくまで待って」
これはなかなかの一本。日活ロマンポルノの作品ながら、映画としてとってもいい出来栄えに仕上がっています。むせ返る新宿の下町感と凝縮された人間模様が映像としてひとかたまりになって転がり出てくる感じです。監督は曽根中生。
ある安アパートの一室、男と女が裸で寝ている場面から映画が始まる。むくっと起きる女、股間のコンドームを取り出し男を叩き起こす。このオープニングが絶品。せせこましい空間からカットが変わって、下品なくらいに黄色と赤の彩りの安スナック。そこに詰め込まれたように客がたむろしている。
主人公の女は女優を目指し、集ってくる客は、フリーの助監督や売れない脚本家などなど、当時の世相を凝縮した人間模様そのまま。
場違いな客で、芸術家が排出されただのうだうだいう人間は追い出される。流れる曲は沢田研二だの山口百恵だの河島英五だの。そんな空気感の中で繰り広げられる男と女の物語がむせ返るくらいの暑苦しさで画面いっぱいにくり広げられます。
そして、主人公に映画の主役の話が決まり、最後と言わんばかりにスナックで全裸になり乱痴気騒ぎをする。かつてのヒモが路上に出ると包丁を持った一人の若者が飛び込み太腿を刺す。そして映画が終わる。
良いなぁ、空気感をひたすら投げかけてくるような思い入れ満載の脚本。こういう熱い映画は見ていて楽しくて仕方ないです。