くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「亜人」「ドリーム」

kurawan2017-10-03

亜人
アクションシーンが抜群に面白いしスピーディ、しかも物語のテンポが実にうまく組み立てられていて、サスペンスの面白さも堪能できる。原作があるとはいえ、これは脚本のうまさと演出力が見事にマッチングしたという感じ。さらに演じた佐藤健綾野剛もしっかりと演技をこなしきっているし、脇で配置された役者の息を抜かない存在感も作品に厚みを出している。最近の日本映画のアクション映画では一級品に近いと思います。監督は本広克行

現代に亜人と呼ばれる、死んでもリセットされて生き返る種族の存在が認識されている。研修医の永井は交通事故で死んだ直後亜人であることがわかり、今は政府の施設で実験台として非人道的な扱いを受けているシーンから映画が始まる。余計な説明を排除しどんどんストーリーが先に進み、彼を助けるために佐藤という亜人が飛び込んでくるファーストシーンがまずうまい。

佐藤は情け容赦なく人間を殺戮するが、一旦永井も助けられたものの、佐藤に賛同できず一人姿をくらます。一方佐藤は、相棒の田中と東京を亜人に明け渡すように政府に要求、その手段として東京の人間を一掃することができる毒ガスを撒くと迫ってくる。その毒ガスこそ、佐藤が生まれて間も無く亜人として実験台にされ作られたものだった。

人々が恐怖におののく中、身を隠していた永井は厚生労働省の戸崎に手を組むことを要請、佐藤たちを倒すべく作戦を開始する。

死ぬことがない亜人をどうやって制圧するか、毒ガスを手に入れるために佐藤たちがどんな作戦でくるか、それぞれの頭脳戦の面白さをクライマックスに、さらに細かいカットとリアリティあるアクション演出が彩りを添え、その上、亜人が呼び出すことができる影の戦士の戦い、さらには戸崎の側近で、実は亜人の女の戦士との戦い、永井の妹の存在など、続編に続くべき脇役も効果的に配置、クライマックスのバトル戦へと物語が流れ込んで行く。

始まってからラストまで一気に突っ走るストーリー構成で余計な理屈や説明を排除したために、若干人物の背景が描き切れていないところもなきにしもあらずだが、ここまでアクション映画として良くできていると、少々の欠点は目をぶることができる。

抜群に面白いアクション娯楽映画、そんな言葉がぴったりのなかなかの映画でした。



「ドリーム」
これは良かった。時代背景を何の誇張もなく素直に描写し、その中で展開する実話に基づくドラマを丁寧にしかもテンポ良い配分で描いて行く。その素朴な中に品の良さ、知性を感じさせる演出が素晴らしいし、演じる役者の素朴感がたまらなく感動を呼びます。夢をひたすら追い求めるひたむきさ、熱意、生き様、そのまっすぐな感情がスクリーンから伝わってくる。これほど濁りのない物語も珍しいという一本でした。監督はセオドア・メルフィ

一人の数学の天才少女キャサリン、彼女の両親が先生たちにぜひ進学させるべきだと説得されているシーンから映画が始まる。飛び級でしかも奨学金もあり、さらに引越しの費用は先生たちのポケットマネーを渡され、キャサリンは進学する。

カットが変わると三人の黒人女性キャサリン、ドロシー、メアリーが車の調子が悪く立ち往生している場面、彼女たちはこれからNASAへ向かう途中である。何とか動き出した車はパトカーに先導され、NASAへやってくる。まだ黒人差別が当たり前のアメリカ、その様子が何の誇張もなく素直に描写されて行く。このあたりにこの映画の知性を感じます。つまり、演出は当時をそのまま画面に写し出すだけなのです。描くのはこの三人のドリームなのですから。この立ち位置がいい。

キャサリンは天才的な計算能力があるものの、女性でかつ黒人ということでなかなか立場が良くない。宇宙計画の計算部署に抜擢されても、認められないのだが、計画が順調に進まない中苛立つ本部長ハリソンは、打開するためには一丸になるべきだと、余計な差別をぶち壊して行く。この展開も余計な誇張をしない。

一方、いくら働いても黒人ゆえに管理職になれないドロシーは、ある時、計算に導入されたIBMのコンピューターの扱いに戸惑う担当者を尻目に独学でプログラミングを習い、部署の同僚にも教え、とうとう目に止まって担当に抜擢される。

NASAの技術職を目指すメアリーは、黒人として技術職につくために必要な学歴を手にするために地元のハイスクールに入るために必死で判事を説得する。そして前例のない入学を認めさせる。

時は米ソの宇宙開発競争最盛期。ソ連ガガーリンを宇宙に送り出し、先を越されたアメリカは必死で計画を進め、やがてジョン・グレンを宇宙に送り出すクライマックスへと流れて行く。その背景に三人の黒人女性が必死で夢を追い求めるドラマを描いて行くストーリー展開もさることながら、それぞれの私生活の中での夢の実現もしっかりとしかも余計な長さを取らずに挟み込む構成が実にうまい。

夢を求めることのひたむきさ、情熱、そのひたすら前向きな姿をストレートに描いて行く物語は見ている私たちに勇気と希望を与えてくれます。
何か未来への希望が見え損なってきた現代でこの作品を見て新たに前に進む勇気が持てる。こんな映画ここ久しくなかったですね。
素晴らしい映画でした。
最近のキワモノしか出ていなかったケヴィン・コスナーが本部長役でいい役を演じていたのも良かったです。