「痴人の愛」(叶順子主演版)
過去に二本の「痴人の愛」を見ているが、どれもこれと言って好みの映画ではない。物語が嫌いというのもあるし、主人公ナオミのキャラクターが性に合わないというのもある。今回は木村恵吾監督版。彼はこの作品を一度映画化している。
物語は今更である。ナオミという女を飼っている一人の男譲治。ひたすらナオミに献身的に振る舞うが、当のナオミは、自由にさせてくれることをいいことに男遊びに惚けている。
そんなナオミを放っておこうとする譲治だが、次第に嫉妬の気持ちが高ぶり、いてもたってもいられなくなっていく。
そしてとうとう追い出すが、ナオミのいない侘しさを噛みしめる。一方のナオミも追い出されてせいせいしたかに思ったが、やはり譲治の元に帰ってくる。
赤を基調にした画面作りを徹底しているが、それが映像美として際立つわけではなく、映画としては普通の作品である。
「はじまりの街」
地味な映画である。とにかく、淡々と進むドラマに正直しんどいというのは事実。絵作りは、ロケ地を選別したこだわりが見られて、なかなか見せてくれるのですが、いかんせん、ストーリーが平坦なので、しんどくなってくる。監督はイヴァーノ・デ・マッテオ。
少年ヴァレリオが友達と自転車で帰ってくるシーンから映画が始まる。延々とした長回しで、家に帰ると父親が母親アンナを殴っている。どうやらDVらしい。
そしてアンナはヴァレリオを連れて家を出て、役者をしているカルラの元を訪ねる。友達もいなくなり、父からも離れたヴァレリオは思春期特有の不安定さで徐々に孤独になってくる。そして、夜、公園に行った時に、道端で立っている娼婦ラリッサと知り合い、その職業を知っていながら恋に落ちる。
しかし、お客と車の中で仕事をしているラリッサを見たヴァレリオは半狂乱になり、アンナも手をつけられなくなる。そしてアンナはヴァレリアともっと接することを考えるが、やがてヴァレリオも落ち着き、一回り成長、地元の友達もできて、アンナとヴァレリオは新たな一歩を踏み出して映画が終わる。
所々に雑な部分の見える脚本ですが、全体を通して見るとそれなりの作品に仕上がっています。それなりの一本言える作品でした。
「全員死刑」
駆け出しの若い監督はこれくらい吹っ切れた演出をしないといけないと思う。決して好みの映画ではないけれども、思いっきりやり切るバイタリティの感じられる作品で、なかなか好感な一本だった。監督は小林勇貴。
福岡県大牟田市で起こった一家四人惨殺事件を題材にしたフィクションで、ひたすらバイオレンスシーンかと思われたが、以外にシュールなカットや糞真面目な暴走シーンも見られるちょっとした作品。
弱小ヤクザの一家は、恩のある上層部からの依頼で、弟を刑務所に送る。その間に、借金で首が回らなくなり、金に困った一家は、近所の資産家の家にあるらしい現金を強奪することを決意する。
しかし、その場限りの適当な計画は、どんどん暴走し、最終、一家全員を殺した末に、何の現金も手に入れられず、結局警察に捕まってしまう。
オーバーラップを多用した個性的な映像表現やスピード感あるカメラワーク、時にシュールな化け物を登場させたり、ギラギラしたSEXシーンを盛り込んだてんこ盛りの絵作りは少々胸焼けしてくるものの、これくらい盛り込むほどの若さあふれる映像になっている。
オープニングの風俗店のシーンから、あとは狂気にとらわれる家族の、狂っているのか正常かわからない危うさがなかなか見所。次の作品が期待できる映画でした。