くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「叫びとささやき」「純平、考え直せ」

「叫びとささやき」(デジタルリマスター版)

この歳になるとこの映画の真価を実感できます。画面に捉えられる何もかもが意味をなしていて、役者それぞれが語る言葉も行動も辛辣に伝わってくる。しかもスヴェン・ニクヴェストの美しいカメラも加わるから、もう最高ですね。ご存知イングマール・ベルイマン監督の傑作の中の一本。

 

美しい森の風景のカットが繰り返されるオープニング、オレンジ一色で映されるメインタイトル、そして壁も床も真っ赤な色彩で作られた屋敷の内部の造形、次々と映される時計のカット、映画はこうして始まります。

 

広い屋敷で召使いのアンナと暮らすアグネス。胸の病で、発作を起こすと息ができなくなる。アグネスがベッドで姉カーリンと妹のマーリアがやってくると呟く。アグネスの寿命は間も無く尽きると言われ、二人の姉妹がやってくる。

 

物語はこの三人の姉妹のこれまで、そして今を描くが、誰一人として心が打ち解けていない。幼い頃から三人三様に確執があったことが語られ、病に伏せたアグネスにはある意味憎しみしかない。しかし、アグネスは、幼い頃のいい思い出を思い起こそうとしている。

 

この日も発作で苦しくなり、アンナが全裸になってアグネスを慰める。カーリン、マーリアそれぞれに夫がいるが、全くアグネスについては無頓着、さらにそれぞれの妻にも冷めた目で接している。

 

アグネスの病状がいよいよ悪くなり、カーリンとマーリアは親しくなろうとお互いに体を合わせんとするもどこかぎこちない。

 

カーリンは夫とのSEXを拒否するために自らの秘部にガラスを突き立て血みどろになる。マーリアはアグネスの主治医を誘惑したりする。なんとも言えないほどの殺伐としたこの家族の姿が痛々しいほどに恐ろしい。

 

やがて、アグネスは死んでしまう。死んだアグネスはカーリンやマーリアを順番に呼ぶが、二人とも近づこうとしない。これが幻覚であるのは映像としてわかるが、ホラーじみた空気は微塵も出ない演出のすごさに圧倒される。

 

やがて葬儀も終わり、カーリンもマーリアも夫とともに帰って行く。一人残ったアンナはアグネスの日記を読む。かつて、まだ元気だった頃、カーリンやマーリアと森を散歩した映像が美しく映し出され、映画が終わる。

 

叫びもささやきも今は沈黙に帰るというテロップが真っ赤な背景に映される。これが名作。全く素晴らしいの一言に尽きる映画です。

 

純平、考え直せ

今時、こんな純粋な青春映画作ろうと考える人いてるんやと思うと嬉しくなる。素朴な作りですがとってもピュアな透明感のある青春ドラマでした。掘り出し物の秀作です。監督は森岡利行

 

新宿歌舞伎町、チンピラヤクザの純平は今時珍しく、任侠道を守って兄貴分を慕う若者である。この日も兄貴と取り立てに出かけ、兄貴の慣れた手腕に感心してしまう。

 

行きつけのクラブのママに、従業員の女の子が悪徳不動産屋に絡まれて助けて欲しいと相談され、単身乗り込んで凄んだもののお抱えのヤクザに返り討ちにされる。その不動産屋には加奈という従業員がいてそんな純平に惹かれてしまう。

 

ある時、組の親分に呼ばれ、ある組の親分を殺してくれと鉄砲玉の仕事を頼まれる。男になるチャンスをくれたと喜び二つ返事で了承、ハジキを預かり、明後日の決行日まで好きに遊べと金をもらう。純平はまず、返り討ちされた不動産屋に乗り込み、金を取り戻し、飛び出すが、そこに彼を追いかけて、加奈がやってくる。

 

純平が鉄砲玉になると言われても信じられないままに二人は体を合わせる。加奈は掲示板に純平とのことを書き込み始め、様々な人たちがそれに反応して行くくだりが描かれ、一方で、加奈と純平はわずかに残された時間を精一杯遊び始める。

 

脇で登場してくる、オカマや郷里の先輩、純平の母親、加奈に気がある不動産屋の従業員、さらに掲示板に書き込む人たちの姿が物語に深みを与え、一方で純平と加奈のピュアなラブストーリーがどんどん透明感を増して行く。

 

そしてとうとう決行の日、加奈を神社に待たせ、純平はあらかじめ調べておいた場所へ向かう。純平を思いとどまらせようと掲示板に書き込んだ人たちの一部が歌舞伎町にやってくる。そして、ターゲットの前に現れる純平、そして発砲。神社では純平を待つ加奈。そこへ純平が戻ってくる。抱き合って、南の島へ行こうと言われ、携帯を忘れたと境内に戻った加奈が振り返ると、純平の姿などなかった。

 

映画はここで終わる。果たして純平はどうなったのかはわからない。おそらく返り討ちにされ撃たれたのだろう。

 

一昔前のようなエンディングですが、久しぶりに素直に感動してしまいました。傑作とまではいきませんが、見逃せない一本だった気がします。