まるで童話のようなファンタジックなヒューマンストーリーという感じの一本。午前10時の映画祭で見ることができました。監督はラッセ・ハルストレム。
主人公イングラムが浜辺で母親と戯れていて、そのままタイトル。母と兄と暮らす主人公イングラムは、どこか失敗ばかりで周りを困らせる。母親は病気がちのようで、ベッドに臥せっている。子供達がトラブルばかり起こすので、母の精神状態に良くないからと田舎の叔父の家でしばらく暮らすことになる。
叔父の田舎では、屋根ばかり直している男や、綱渡りする男、ガラス職人の工場、女の子なのに男の子のふりをする少女フランク、子供達だけのボクシング場、宇宙船に見立てた壊れたケーブルカーとか不思議なものがいっぱい。その中で暮らすイングラムは時々、残して来た愛犬のことが気にかかり、時折星空を眺めては宇宙船の実験に乗せられ死んでしまった実験犬のことを呟いている。
そして、また家に帰るが、母親は間も無くして危篤に、そして冬の田舎にまたやってくると、少女はすっかり女の子になっていて、イングラムに好意を持っていたので、部屋に誘う。ラジオからボクシングの世界選手権のニュースが流れてくる。試合はイングラムとフランクという選手の戦いが流れてくる。
これまでのことが現実なのか夢物語なのか、まるで全てが寓話であったかのようなラストの処理が素晴らしい。
昔々あるところにで始まってもおかしくないような不思議な空気感のある作品でした。
「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」
もっと爽快な映画かと思っていたが、意外に暗い陰湿さが漂う作品でした。タイというお国柄でしょうか、宣伝とうって変わった物語にちょっと嫌な感じになってしまいました。監督はナタウット・プーンピリヤ。
主人公リンが何やら尋問を受けている場面から映画が始まる。どうやらカンニング疑惑が起こったらしく、リンを含め何人かへの質問シーンが続く。リンが、私の成績を見れば、人の回答を見る必要などないことがわかると大見得を切って、彼女の中学時代の成績へ。
天才的な頭脳を持ち、有名高校から、ぜひ来て欲しいと父と二人呼び出される。しかも、最初は授業料もいるかに説明されたが、リンに費用のことを追及され、全て無料に、昼食代まで持つということで転校することになる。そこで、金持ちのグレースという同級生と出会う。
リンの家庭は父がしがない教師でどちらかというと貧乏。ある時、グレースから、試験の回答をカンニングさせて欲しいと言われ、お金を提示されるがリンは一旦は拒否するものの、消しゴムに回答を書いて靴に入れて後ろの席のグレースに送ってやる。
それに味を占めたグレースは、リンを友達パットに紹介。パットも金持ちで、自分を含め数人のテストを助けて欲しいと依頼、法外な報酬を提示する。リンは、最初は乗り気でなかったが、授業料以外に諸々の費用が必要だと知り、請け負う。
ピアノの運指を使ってマークシートの記号を伝えるというアイデアで次々とお金を得て行くが、ここに、自宅がクリーニング店で母と二人暮らしの貧乏なバンクという同級生が登場。彼もまたリンと同じく天才的な頭脳を持っていた。そしてリンたちがしていることを知り、先生に告げ口、そのせいでリンの奨学金や海外留学の資格が取り消されてしまう。
ここに来て、グレースたちは、アメリカの大学を受ける資格を得る試験に挑戦せざるを得なくなり、そのことをリンに相談。リンは、一旦断るも、その試験が世界同時実施ということから時差を使えば可能と判断、その法外な報酬もあり、請け負う。ただし、そのためには回答を覚えるのにもう一人必要だからとバンクを選ぼうとする。
バンクは留学資格の試験があるからと断るが、なぜか仕事の途中で、チンピラにいちゃモンをつけられ、試験に行けなくなる。そこで、報酬を提示した上でリンの計画に参加する。実はこのチンピラはパットが雇ったものだったことが後でわかる。
バンクとリンがシドニーの試験場へ向かい、そこで実際に試験を受け、回答を覚え、休み時間にトイレに隠した携帯からグレースに送る。グレースはそれをバーコードに変えて鉛筆に印刷し、お客となった学生に届けるというもの。
バンクとリンが会場で順調に行くかと思いきや、当然トラブルが出始め、とうとうバンクは捕まり、リンも疑われ、機転で体調を崩したふりをして会場を脱出。覚えた回答を打ちながら逃げる。
グレースの側にもいくつかのトラブルが出るも、なんとか届けて、無事試験はパス。帰って来たリンを歓迎会に誘うがバンクが捕まったのにそんな気になれないと断る。
そして、バンクに呼び出され、バンクの店に行くと、バンクはどうせ貧乏なのだから荒稼ぎしようと別の国際試験のカンニングプランを提案。リンは拒否して、全てを打ち明けることを決意し、父と、その機関へやってきて映画が終わる。
もっと割り切って様々なカンニング手法で見せるエンターテインメントかと思っていたが、金持ちと貧乏人の対比、やたらお金が絡むストーリー展開、そして、リンが中途半端に正義感がある上に、バンクもまた同様にどこか割り切れないキャラクターというのがどうもいけない。
さらに、やたらスローモーションを多用した絵作りがいかにも陳腐で、だらけてしまうのも残念。アイデアはなかなかのものだし、作りようによっては、伝えたいメッセージもしっかり描写できて面白い映画になった気がします。もう一息という一本でした。
「太陽の塔」
本来ドキュメントは見ませんが、さすがにこの題材は私のような年代には、思い入れも強く、見に行きました。
まぁ、映画としては普通でしょうか。岡本太郎が作った太陽の塔について様々な知識人や芸術家が意見を述べる様をひたすら描いていく。しかし、そこに、自己主張をはっきり出せない弱さがあるのは、やはり岡本太郎というビッグネームに対する畏怖でしょうか。
さらに、福島原発の部分に触れるという平凡な展開も陳腐。途中何度も眠くなってしまいました。
もっと、太陽の塔についての具体的な考察を絵を交えて描いて欲しかったです。