「負け犬の美学」
観客に賞賛されるヒーロー物でも、よくあるクライマックスもないけれど、ヒューマンドラマとして徹底的に捉えた敗戦ボクサーの物語は、みじかな人生を目の当たりに見せつけられるようで胸を打たれました。監督はサミュエル・ジュイ。
これと言って華やかな活躍もせず、ただボクシングが好きと言うだけで45歳になった主人公スティーブは、今日も殴られるばかりの試合から帰宅。スーパーで買い物をし、大切な妻と子供達に囲まれている普通の毎日である。
娘のオロールはピアノが好きで、先生からも才能があると言われ、スティーブはなんとかピアノを買ってやろうと、今脚光を浴びているチャンピオンボクサーエンバレクのスパーリングパートナーに志願する。
すでに45歳、しかも大した戦績もないスティーブに最初は敬遠したが、熱心に売り込む彼の姿にほだされ、トレーナーも彼を送り込む。当然、体力的にも技術的にも相手にならず、最初はけんもほろろに扱われるが、どこか、その大人の魅力に惹かれたエンバレクは最後まで彼を留める。
やがて、公開スパーリングの日、見にきたオロールの前で嘲笑を浴びるスティーブの姿を見て、すっかり落胆。やがて、全てのスパーリングが終わり、その帰り、エンバレクはスティーブを呼び、自分のタイトルマッチの前座の試合に出ることを勧める。
スティーブはその試合を最後にし、勝つことをオロールに約束。試合が終わり、帰ってきたスティーブを、オロールが迎えてエンディング。
ヒューマンドラマらしいヒューマンドラマという感じの作品で、見終わって胸に迫るものが残りました。良質の一本という感じでした。