くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「羊の木」「アバウト・レイ16歳の決断」「風の歌が聴きたい

kurawan2018-02-05

「羊の木」
吉田大八監督作品なので期待したが、物語が広がりすぎて集約して来ず、結局、全てを描き切れずに無理にラストが来たという感じの映画でした。

漁業を中心の過疎化した村で働く役場職員の月末が、新たに住民となる六人を迎えにいくところから映画が始まる。しかもその全てがもと殺人者であるという前科者。

物語は、六人に対する疑心暗鬼の展開で進んでいくが、実はそれぞれは善人であるという展開を挿入しながら、冒頭でいかにも善人という宮越一郎が実はサイコパスであったという流れに動いていく。しかし、この展開がほぼ前半で読み取れてしまう配役の弱さと「のろろ」という村の守り神の伝奇的な物語の絡みが実に弱い。

さらに主人公月末を演じた錦戸亮が際立って来ないので、映画がものすごく貧弱に見えてしまう。原作がコミックということだが、不思議な世界観が映像として結実していかないのが残念。

面白くなるだろうとひたすら先読みしても、ほぼ予想通りで、カットの編集も平凡で、どうにも物足りないのです。吉田大八監督への期待が大きすぎるというのかもしれませんが、ちょっと2時間を超える大作の力はないと思います。


「アバウト・レイ16歳の決断」
トランスジェンダーの主人公が家族との絆や葛藤を描いていく物語で、街並みの景色の捉え方が実に美しくしゃれた作品でした。ただ、物語の展開としてはやや、物足りなさがないわけではありません。監督はゲイビー・デラル

16歳のレイが母親のマギー、祖母でレズのドリーと医師からホルモン治療の説明と同意書を渡されるシーンから映画が始まります。

まだまだ納得できない母のマギーですが、どんどん前向きに考えるレイの姿に、別居している父クレイグを訪ねる。しかし、実はマギーはクレイグとつきあていた時代に、弟のマシューとも関係を持ってしまった過去があった。

物語は踏ん切れないマギーの姿と、その過去にわだかまりを見るレイの苦悩、レズでどちらかというと楽観的なドリーの存在を通じて家族の絆をえがいていく。

結局、同意書も揃い、家族の様々な物語が見えてきて認め合うラストで映画が終わります。

スーザン・サランドン演じるドリーのキャラクターが実に楽しいのですが、今ひとつスパイスとして生きていないのが少し物足りない。何れにしてもちょっとした佳作の一歩前という出来合えの良質の一本だった気がします。


「風の歌が聴きたい」
聴覚障害者の夫婦の実話を映画にしたものですが、正直、映画としてはくどくどと長ったらしく、全く整理されていない脚本に辟易してしまいました。監督は大林宣彦です。

主人公の奈美子が間も無く出産を迎える。一方トライアスロンを趣味にする夫昌宏は宮古島の大会に参加している。出産が迫るなか、かつての二人の出会いから現代までを回想で描いていくが、160分の映像は正直、もうちょっと練りこんで整理する方法があるだろうと思えるほど、何もかものエピソードが羅列されています。

手話と字幕という先進的な作風は理解できますが、映画として作るという意識も欲しかったように思う。大林宣彦監督の作品の中では中の下という感じの一本でした。