くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「友罪」「犬ケ島」「ゲティ家の身代金」

kurawan2018-05-28

友罪
エピソードを詰め込みすぎたという感じの殺伐とした人間ドラマ。原作には全て盛り込まれているのでしょうが、映像にする段階ではもう少し整理してもよかったのではと思います。ちょっと詰め込みすぎたために焦点がぼやけて見えなくもないのがちょっともったいない。監督は瀬々敬久

山間の自動車工場、いかにも社会ののけ者のような若者たちが働いている。そこに二人の若者益田と鈴木が雇われたところから映画が始まる。益田は元ジャーナリストらしく、ちょっとしたことで嫌気がさしこの仕事にやってきたようだ。一方鈴木は不気味に暗い。果たして彼は何をやったのか。そんななんとも言えない殺伐としたオープニングから映画が始まる。

一台の車が山奥の田園地帯を走っている。トンネルの先に倒れた少年を見つけ運転手が近寄ると死んでいる。カットが代わり一台のタクシーが雑誌記者の清美を乗せてその現場にやってくる。実はこの清美は益田の元カノであるらしい。益田がやめた経緯を知っていて、なんとか復帰してほしいと、17年前の少年少女殺人事件の犯人の情報を求めて近づいてくる。

間も無くして、益田は鈴木が17年前の殺人事件の犯人青柳だと知ることになる。益田にも辛い過去があり、中学生の時に友達と信じてくれていた友人学が、クラスでいじめられていたのを見て見ぬ振りをしたため、とうとう学は自殺してしまい、いまでも学の母親の家に時折訪ねている。

冒頭のタクシーの運転手山内の息子は、かつて無免許で三人の子供を殺していてそのつぐないをいまも続けている。そんな山内の息子から、恋人ができて結婚すると連絡を受け、犯罪者が家庭を持つことは許されないと執拗に反対する。

ある時、鈴木はDVの恋人から逃げている美代子と知り合う。そして鈴木、益田、仕事仲間の二入とカラオケに行くなどの普通の日々が流れかけるが、そこに美代子の恋人から、かつて美代子がAVに出ていた頃の映像が届く。

出てくるそれぞれの人物が立ち直れるのかと思うと挫かれる展開を繰り返し、罪を犯した人間、関わった人間のなんとも言えないドラマが語られていく。

ある日、鈴木は益田の元を去ってしまい行方不明になる。清美の雑誌に鈴木がカラオケで歌う姿の写真がリークされる、山内の息子は結婚し、父親にお互い他人になってしまおうと電話する。鈴木はかつて事件を起こした現場を訪ねる。益田も学が自殺した場所を訪ねる。映画はそのまま完全な出口を見出せないままに暗転エンディングする。

これらのエピソード以外に、鈴木の少年院時代に母と慕った教官白石のエピソードなども語られていく。

登場人物どれもが、出口が見えそうで見えないトンネルを必死で生きていくのだろう。もちろん、彼らが死を選ぶこともないだろ。苦しみの中でもがきながら人生を終わるのかもしれない。なんとも言えないエンディングですが、これが罪を犯したものの現実の姿かもしれません。

伝えるものはこういうことなのだろうと思いますが、それにしても殺伐としすぎの映画ですね。充実感の詰まった感じの中身の濃い作品ですが、流石に息苦しいです。


「犬ケ島」
日本へのオマージュ満載のストップアニメーションの秀作。とにかくテンポが抜群にいいし、独特の世界観でウィット満載の映像展開がとにかく楽しい。監督はウェス・アンダーソン

和太鼓の打ち鳴らすリズムと映像から映画が幕を開ける。近未来のどこか、明らかに日本である。かつて犬は人類と同等に生活していたが、ある時人間に服従することでその存在を認められるようになったというナレーションから物語が始まる。

ある時犬の病気が蔓延し、それが人類の脅威になり始め、メガ崎市の市長小林はゴミの島犬ケ島に犬を追いやってしまう。やがて犬ケ島では犬だけの社会が築かれていった。犬側の五匹の犬を物語の一方の中心にしてストーリーが進む。

主人公小林アタリは父に捨てられてしまった愛犬スポッツを探すために単身犬ケ島に向かう。そこでスポッツを探す途中、スポッツの弟という犬が五匹の犬のリーダーとなっていたことがわかる。

一方小林市長はゴミの島の犬を全て抹殺する計画を進めていた。それを知ったアタリたちは海を渡りメガ崎市へと乗り込んでいく。そして、犬の病気の原因も人間が作っていたことも分かりその血清を手に入れるとともに小林市長の計画も壊してしまい、犬は再び人間と共同生活するようになってハッピーエンド。

ストップモーションアニメの面白さはもちろんでしが、シンメトリーな画面作りが独特のムードを生み出し、懐かしい日本の懐メロの数々や「七人の侍」のテーマなども使った音楽センスも面白い。

全体にハイテンポにリズミカルに映像と物語が展開する中に、さりげないアイロニーが散りばめられているセンスも最高に知的で魅せられてしまいます。ファンが多いのも頷けるウェス・アンダーソンの映画という感じの一本でした


ゲティ家の身代金
実話を基にしたフィクションと書かれているにもかかわらず、今一歩キレが足りない。冒頭の4K映像のようなシャープな画面からのサスペンスへ流れるあたりのワクワク感、スリリング感が物足りない。監督はリドリー・スコット

夜のローマの街、十七歳の青年ポールが歩いている。コールガールにからかわれながらふらふら歩いているところへ一台の車が近づき、彼を拉致して走り去る。

世界一の大富豪として知られるゲティ家では当主が株取引のテレックスを読んでいる。時は1973年、そこへ一本の電話、息子の嫁ゲイルから子供が誘拐されたので身代金を払ってくれという。しかし、株取引が忙しいと断る。そして、報道に応えて、ゲティ家では一銭も身代金を払わないと宣言する。

しかし一方で、ゲティは身辺警護を任せている元CIA局員のチェイスをゲイルの元に派遣し、犯人と交渉するように指示する。ところがチェイスが現場で情報を集めているうちにどうやら狂言誘拐ではないかと思われるようになり、ポールの身の安全に問題ないと判断する。また警察にはゲティ家の身代金をあてにして偽物犯人からの手紙が殺到していた。

一方、ポールを拉致した犯人たちは本気で身代金1700万ドルを取るつもりでいたが、なかなか進展せず時だけが流れていく。そして仲違いから仲間を撃ち殺した犯人たちは殺した仲間を焼いて捨てたためにそこから足がついて警察が踏み込むことになる。しかし、その寸前、犯人たちは別の不法組織にポールを売り渡していた。

どんどんポールのみが危うくなっていく展開なのだが、どうも危機感が全然伝わらないし、交渉のプロというチェイスの活躍も全然ないので物語に引き込まれていかない。当主のゲティの孫に対する愛情が裏にあるかの描写もあるのにドラマ性が見えてこない。薬物中毒になった息子の描写も実に弱い。

一方、ポールの身柄を手にした組織は過激な組織で、隙を見て逃げたポールもその組織力で連れ戻した上に、交渉が進まないからとポールの耳を切って送ってきたりする。

身代金は400万ドルに下げられたのだがその交渉の過程も吹っ飛ばしているので後半かなり雑な脚本になってくる。しかも、税金対策のためならと100万ドルだけ出すと言ったゲティに逆に交渉して全額払わざるを得ないように持っていったチェイスとゲイルの鮮やかさも適当な処理に終わっている。

なんとか受け渡しは成功、ポールは解放されたが、警察がヘリなどで追跡してきたことに腹を立てて犯人たちはポールを殺そうと追い始める。そしてすんでのところでチェイスがポールを発見、時を同じくしてゲティは息をひきとる。

終盤、一旦解放されたポールが再びピンチになるどんでん返しもいまひとつスリリングさに欠け、その後の大団円も今ひとつ。ゲティの死で遺産を継ぐことになるゲイルのエピローグも精彩に欠ける。全体に実にゆるい脚本になってしまった感じで、芸達者が揃っているのに使い切れていない結果になったのかと思います。監督が監督なのである程度のクオリティはあるものの、もうちょっと見応えのある映画にして欲しかったです。