「あさき夢みし」
美しい構図と、夢幻のごとき画面転換にうっとりと引き込まれる宮廷絵巻、流石に色落ちしていなければ素晴らしいだろうに残念でした。監督は実相寺昭雄。
宮廷の後宮に来た主人公四条が愛欲と女の情念に燃え上がりながら、やがて自由を求めて出家の道を歩んで行く。物語はそれほど複雑なものはないけれど、ローアングルで捉える宮廷内の絵作り、御簾や影を有効に使った光の演出と奥行きのあるカメラアングル、その中で繰り返される女の情念のほとばしりに引き込まれていきます。
フィルムの退色がひどくて本当に残念でしたが、作品のクオリティの素晴らしさに酔いしれる一本でした。
「卑弥呼」
舞台劇の様相で神話の世界を具現化して行くのですが、室内のセット映像と屋外の殺伐とした古代の絵が全くマッチングしなくて、全体が小さく見える作品になった感じです。監督は篠田正浩。
卑弥呼がまだ人として存在されている。人々は彼女を神として崇めようとする中、土着民たちとの関わりが生まれてきて、卑弥呼は女としての存在も見え隠れしてくる。
そんな中、卑弥呼を取り巻く人々は彼女を神格化しようとし、その矛盾に気がつくこともなく毎日を送る卑弥呼。
シュールで演劇的な演出、書き割りのセットが見せる異様な素朴さ、屋外のわざとらしいほどの景色、どれもがうまくマッチングしてこなくて、スケールの小さな仕上がりで映画が終わってしまいました。
篠田正浩の映像世界が中途半端に終わった一本、そんな映画でした。
「聖母観音大菩薩」
何とも言えない出来栄えの一本。ATGもこの辺りにくるとこういう映画が乱発されてくる。監督は若松孝二。
裏日本、原発を抱える漁村に人魚の肉を食べて不老不死になった八百比丘尼の生まれ変わりだという女が浜辺の廬に住んでいる。この女に群がる男たちの物語を通じて生の問題を描いて行くのだが、どうも、ただのエロにしか見えない。
結局、様々に絡む男女の話がそれぞれ完全にしかも唐突に出てくるので統一性もないし、ラストはこの女も殺されるのだが夕日の中蘇ってきてエンディング。
というわけで、そういう映画でした。