くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「マンマ・ミーア ヒア・ウィ・ゴー」「黒木太郎の愛と冒険

kurawan2018-08-28

マンマ・ミーア!ヒア・ウィー・ゴー」
典型的なアメリカ映画の作り方と、前作が大ヒット舞台の映画版という制約があったがそれが外れて、純粋に映画として作られた映像の面白さも楽しめました。とにかく、楽しかった。本当にこういう娯楽を作らせるとアメリカ映画はうまいね。監督はオル・パーカー

物語はソフィが、母ドナから受け継いだホテルの改装イベントの日に始まります。かつてドナがこの島にたどり着き三人の男性と知り合い、それぞれに恋に落ちていくフラッシュバックのシーンを中心に、やがて、ソフィの元に三人の父が集まってくる。

ドナの若き日に関わった人たちの今が次々と登場、その合間に繰り返されるABBAの名曲の数々。まぁ、楽しいです。

そしてパーティの日、ソフィが妊娠していることがわかり、かつてドナがソフィを産んだ日がフラッシュバック、物語が交錯して、クライマックス。シェール扮する大おばあさんの登場で大団円。

そして、九ヶ月後、ソフィの子供の洗礼の儀式で映画が終わる。最後は全員が衣装替えして舞台上所狭しとミュージカルのエンディングのごとく歌い踊って暗転。

巧みに配置したさりげない脇役のユニークな演出もそれなりに楽しめて、一級品の出来とは言えないまでも、気分良く映画館を出ることができました。


「黒木太郎の愛と冒険」
これは傑作。それぞれの人物が見事に描かれているし、少々の反戦メッセージも見え隠れするものの、ドラマが実にしっかりと仕上がっていて重厚な物語になっています。素晴らしかった。監督は森崎東

主人公黒木太郎は映画のスタントマンで、その彼に憧れてやってきた若者たちのセリフから映画が始まる。

そして、彼の周りで巻き起こる日常の物語が丁寧なストーリー展開としっかり組み立てられたプロットの繰り返しで描かれて行きます。

クライマックスは、家を飛び出し、トルコの寮に入ってしまった太郎の姪を助けるために、若者たちと乗り込み、ヤクザを向こうに回して助け出したものの、追ってきたヤクザに太郎が刺されて病院へ担ぎ込まれる。

そのやるせなさに、若者がヤクザに襲いかかる。

そして、おそらく太郎は死んだのでしょう。若者が刑務所から出たという一人セリフで映画が幕を閉じます。

いくつかあるエピソードが、どれも手を抜かずしっかりとドラマになっているし、一見コミカルなのに、実に胸に迫る。さらに次々と登場する脇の人物の過去が物語全体に深みを生み出していく脚本も実にうまい。

最後は、確かに胸が熱くなるが、何か考えさせられるものがある。こういう感動も珍しいほどによくできています。傑作ですね。


「生きてるうちが花なのよ死んだらそれまでよ党宣言」
ATG映画の中で傑作に分類できる一本ですが、ATG映画であるという独特の色合いが濃厚な一本で、今となっては描けない隠れた過激さが前面に出た作品でした。非常に中身が濃いにもかかわらずアイロニーが詰まった映画でした。監督は森崎東

中学校でたむろする不良学生三人が、学校の積立金を強奪するべく待ち伏せているところから映画が始まる。お金を積んできた野呂先生が不良学生たちに拉致されたまま車ごと連れ去られる。

ここに、日本中を回るストリッパーのバーバラが地元沖縄に戻って来る。そこに帰って来る不良中学生。さらに、バーバラの情夫で原発ジプシーとして全国の原発放射能作業を請け負う男で、ヤクザ崩れの宮里が絡んできて、どこか歪みの出始めている日本社会の片隅が描かれていく。

宮里扮する原田芳雄のキャラクターが強烈なので、周りの存在感が影になり、まるで原発問題が前面に押し出されて来る後半が妙にメッセージ性が強く出てしまうが、全体が描くべきは、表社会からはみ出た人たちの生き様である。

所々に散りばめられるアイロニー溢れたコミカルなセリフや展開の中に、シリアスなドラマを織り込んだ展開が見事。

ラストは、宮里も死に、原発事故を目撃したフィリピン女性も強制送還され、ボロ船で脱出したはずの野呂先生や不良学生も、船に油を乗せ忘れて外洋に出れなくなり、結局戻って来る。

バーバラが再び旅に出て、狐の嫁入りの雨が降って映画が終わる。

重々しいテーマを実に軽やかに笑い飛ばしているかに見えるストーリー展開が実に軽妙で、ラストに至っての、なんとも言えない考えさせられるエンディングに不思議な感動を感じてしまう。おそらく、今ではこういうテーマ作品は絶対作れないであろう、まさにATGの真骨頂のような作品でした。良かったです。