くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「沈黙」「仮面/ペルソナ」「ヒトラーと戦った22日間」

kurawan2018-09-19

「沈黙」(デジタルリマスター版)
イングマール・ベルイマン監督の代表作の一本。久しぶりの再見。何度見ても、言葉にできない余韻がある傑作。しかもシーンのそれぞれの記憶があるのに、物語の記憶がない。それでも、何度見ても素晴らしい作品だと思います。

列車の中のシーンから映画が始まる。姉のエステル、妹で自由奔放なアナ、その息子のヨハンの3人である。外の景色が次々と流れるのだが、時に延々と戦車が並んでいるシーンなどどきっとさせられてしまう。

ヨハンは退屈なので廊下に出る。客室の軍人をのぞいて見たりしながら、どうしようもなく過ごすヨハン。ところがエステルの体調が悪くなり、とある街で下車、ホテルに入る。

アナはいつのまにか男への欲望に苛まれ、自ら慰めたりする。街に出て男に視線を送ったりする。そんな妹を蔑むように監視する姉のエステル。

ホテルの執事の老人の男は言葉が通じない。ヨハンは、母も相手してくれない中、ホテルの中を歩き回る。ある部屋では小人たちの劇団員がいて、しばらく遊んでもらったりする。このヨハンが、時折口を聞くにもかかわらず、その本心は完全に沈黙しているために、どこか抑圧された不気味さがある。

アナはホテルに男を引き込んできて、ヨハンの前で平気でキスをし、部屋に引き入れてしまう。姉のエステルさえも呼んで、目の前で男に抱かれる。そんな妹をじっとみるエステルだが、一方、体が弱くて思うようにならない自分がもどかしくもある。

やがてアナとヨハンは先に旅立つことにし、エステルはもうしばらくホテルに残る決断をする。エステルはいつ窒息して死んでしまうかもわからない恐怖に身悶えする。そして列車に乗ったヨハンとアナのシーン、外は豪雨で、窓を開けてびしょ濡れになるアナ。

ヨハンはエステルが書いてくれたメモを広げて読む。それをみるアナ。何が書いてあるのかわからないままに暗転エンディング。

ベッドの脇から俯瞰で捉えるエステルやアナのカメラアングルがドキドキするほどにエロティックだし衝撃的。こういう絵作りの感性が凄い。

夜、ヨハンが外を見るとゆっくりと戦車が路地を入ってきて走り去って行く。まるでエステルに忍び寄る様々な苦しみ、そしてアナの心に迫ってくるエステルの視線のごとき描写の凄さ。

映像が語りかける恐ろしい芸術世界を垣間見る。これがベルイマン映画の魅力ですね。


「仮面/ペルソナ」(デジタルリマスター版)
何度見ても、なんとも言えない。イングマール・ベルイマン監督の感性の極みのような作品で、その圧倒的な自由奔放な映像作りに息を飲んで陶酔感に浸ってしまいます。

映写機のハロゲンランプに火が入れられ、フィルムがまわり、映写が始まる。スクリーンにはアニメ画のようなものが映し出され、時にフィルムの冒頭のような映像、そして、燃える直前のような絵が出る。キリストの手を思わせる釘を打つカットや、羊の生贄を捧げるようなカットが挿入される。

何もない無味乾燥な部屋に真っ白なシーツを着た少年が寝ている。起き上がり壁に向かうと巨大な顔がピンボケのままにこちらに向いていて、おそらくスクリーンに映し出されている顔なのだろう。それを少年の手がなぞっている。このオープニングからまず圧倒される。

舞台女優のエリーサベトは突然舞台の最中に声が出なくなり失語症になる。笑がこみ上げて来てそれを押し殺したのだという。何もない舞台劇のような病院の一室に横たわるエリーサベト。彼女に看護婦のアルマがつく。

やがて、医師から、ここでの治療は終わったので自分の別荘で養生しなさいと言われる。そしてエリーサベトはアルマと一緒に海辺の別荘にやってくる。

全く言葉を発しないエリーサベトにひたすら語りかけるアルマ。そして次第に自分の隠していた様々な過去を語るようになる。

海辺での若い男たちとの遊び半分の情事、そして妊娠、堕胎。フィアンセとのこと。それらの赤裸々な告白をするうちに、アルマは次第にエリーサベトとの境界が取り払われて行くようになる。

エリーサベトをたずねてきた夫はアルマのことを妻だと感じてしまい、時にアルマとエリーサベトの顔が半分ずつ重なったりする。果たしてこれも現実なのか、幻覚なのか。

言葉が重なり、映像が重なり、どちらともなく一つになって行く。それは、お互いが被っていた仮面が次第に剥がれて行く過程でもあるのかもしれません。

そして次第にアルマも自分の存在が全て丸裸になって行く様を感じ、エリーサベトに感情的にぶつかり始める。

やがて、時が経ち、エリーサベトは荷造りをしている。部屋の片付けをするアルマの姿、バスがやってくる。別荘の外には巨大なキリストの首のオブジェ。映画を撮るカメラのショット、バスに乗ってエリーサベトらが去る。冒頭の少年が巨大な顔に向かって手をかざしている。フィルムが回り、やがてハロゲンの火が離れて消えて暗転エンディング。

全てがエリーサベトの心象風景であったのか、全てが映画の中の話であったのか、どこまでが現実かわからない境界のない映像。中盤で、窓の外を見るアルマのカットが突然半分に敗れ壊れて行くというシュールなカット。全てはベルイマン監督の頭の中で組み立てられた映像世界なのである。

全く素晴らしいというほかないが、一方で本当に難解である。何度も意識が飛びそうになってしまいましたが、また見たくなる。それがベルイマン映画の魅力である。


ヒトラーと戦った22日間
ナチスのソヒボル絶滅収容所で起こった脱走劇の実話をもとにした作品。絵作りのクオリティがそこそこ面白い作品でした。監督はコンスタンチン・ハベンスキー

ナチスのソヒボル収容所にユダヤ人が送り込まれてくるところから映画が始まります。そして、職人など役に立つ人間以外はガス室で殺戮されて物語が始まる。

何かにつけてナチスの悪逆非道ぶりが描かれますが、夜間の収容所の霧に浮かぶ映像やさりげない構図に絵作りをしている演出が見られ、果たして美しい映像にするのが良いのかはともかく、映像作品としてはちょっとしたものです。

物語はサーシャという一人の男が、収容所の人間をまとめながら、最後に脱走をするという展開になります。集団劇なのであまり個別の登場人物の描写はされないし、突然出てくるキャラクターなどかなり手抜きの部分も散見されます。

ラストは、今日しかないと判断したサーシャが全員に逃げろと叫び、約400人が一斉に脱走。スローモーションでこちらに向かってくる人々を捉えながら、最後は一人の人間が大平原を逃げる姿でエンディング。

あざといながらも美しい絵を描こうとしている姿勢の見られる映画作品でしたし、ナチスの描写が嫌悪感を催すほどの極端な描き方が非常に印象に残りました。