「赤線の灯は消えず」
赤線廃止後の女性たちのその後の苦労話をエピソードの羅列のように描いていく。かなり雑な脚本ですが、この時代の世相を見せる意味では意義のある一本だった感じです。監督は田中重雄。
昭和33年、赤線廃止の法律が施行された直後から物語は始まる。主人公の信子は、かつての店に挨拶の後堅気の生活に進もうとするが、いく先々で、元赤線ということで、人々の目が彼女の人生に立ちはだかってくる。
たまたま彼女に絡んだチンピラの男との物語を軸に展開して行くのだが、どうも一本筋が通ってないために、出てくるエピソードそれぞれがバラバラになってしまい、彼女の元同僚との物語や彼女たちの行く末の話が全体のストーリーに厚みをもたらしてこない。
脚本の弱さがいちばんの原因で、映画としては普通のレベルの一本でしたが、見る価値は十分あった気がします。
これは素晴らしい作品でした。優れた脚本家と優れた演出が組み合わされればここまで見事に源氏物語が作り出されるのかと感動してしまいました。まず人間関係がくっきりと浮かび上がるし、物語がドラマティックに生き生きしてきます。しかも、様式美を徹底した絵作りが実に美しい。監督は吉村公三郎、脚本は新藤兼人です。
物語は、光源氏が生まれる桐壺のくだりから、藤壺、紫、夕霧と経て淡路の物語までを描いていきます。徹底的にこだわった画面の構図が本当に美しいし、流れるように流麗なカメラワークも見事。さらにドラマティックな映画的劇的な展開も挿入され、娯楽作品としても見せてくれます。
それと何と言っても人間関係が浮かび上がるようにくっきりと描かれている。王朝絵巻の雅さと人間味あふれる生き生きした物語に引き込まれました。
ラストシーン、紫の琴の音を聞く光源氏の姿をカメラが捉え、グーンと宙に舞い上がっていくと屋根の上に枯葉を舞い散らせる巨木を捉えてエンディング。キラキラと輝くように舞う落ち葉のシーンがうっとりして浮かび上がりそして「終」。このシーンに息を呑みました。素晴らしかった。