「ベン・イズ・バック」
映画としてはしっかりできているし、見応えのあるのですが、いかんせん暗い。終始どんよりと暗雲が立ち込めた感じで胸苦しくなってしまうには参った。監督はピーター・ヘッジズ。
ホリーら家族が仲睦まじく教会に通っている場面、時はクリスマスイブ。そんな家族が教会から帰ってくると、薬依存で施設にいるはずのベンが帰ってきている。もちろん勝手に帰ってきたのである。
突然のことに母のホリーは歓迎するが、一方で不安もよぎる。妹アイビーと義父のニールは何かが起こる気配がして怯える。
まるで薄氷の上を歩くように不安な時間が流れる。そして教会の祈りから帰ってみると、家の中が荒らされ、愛犬が連れ去られていた。ベンの昔の仲間がやったと感じたベンとホリーは思い当たるところを探し始める。
やがて見えてくるのは、依存症になった人たちの姿、そして意外な人物の関わりだった。そして、なんとかかつての売人の元締めのところと突き止め、ベンはホリーを巧みにまいて一人向かう。
そして最後の運びをやらされ、ベンは薬の包みをもらい犬を助け出す。どこへも逃げられないと悟ったベンは、もらった薬で死ぬことを決意。犬を車内に残し連絡先のメモをつける。
一方ホリーも必死でベンを探していたが見つからず夜が明けてしまう。どうしようもなくなり、とうとう警察に駆け込むが、そこにメモを見た人から電話が入り、ホリーが駆けつけ犬を車から出すと犬は一目散にベンのところに走る。ホリーが駆けつけると薬で意識を失っている。応急処置の薬を与えると息を吹き返し映画は終わる。
とにかく鬼気迫る感じで息子と行動を共にし、一人になった後も必死で探すホリーの姿は痛々しいと共に、息子のことは半ば諦めている切なさも垣間見られる。依存症になった原因が、ただの医療処置による鎮痛剤の処方に端を発している怖さも見事に伝わってくる。
社会的な問題を真っ向からグイグイと押し付けてくる圧迫感がたまらない作品でしたが、映画としては良くできていたと思います。
「ランジュ氏の犯罪」
フィルムノワール特集だと思いながら見るのですが、どちらかというとラブヒューマンドラマ。しかも監督のジャン・ルノワールらしい人生賛歌のような演出が随所に見られる。流麗なくらいの長回しのカメラが素晴らしく、全体がまるで音楽を奏でるように展開する様はまさに絶品。
とある安宿に警官がやってくる。殺人事件の容疑者ランジェ氏を探しているという。カットが変わりしばらくするとランジュと恋人のヴァランティーヌがやってくる。宿のバーにいた客が警察に知らせるかどうか迷っている。そこにヴァランティーヌが出てきてことの顛末を話し始める。
印刷会社に勤めるランジュだが、女好きで経営も適当な社長のために会社は倒産の危機に。ランジュはその才能でアリゾナジムという連載小説を書くが、それが売れるのだが社長の強欲で結局会社は持ち直せず、社長は一人逃げてしまう。そして乗った列車が事故に遭い、死んでしまう。
残った社員はなんとか乗り切るため組合を作り、ランジュの小説を柱に再起を図る。そして、なんとか持ち直したところへ、実は神父と入れ替わっていた社長が舞い戻ってくる。
ランジュは、とうとう社長を撃ち殺し逃げる羽目になる。クライマックスの長回しのカメラワークと回転による大胆なカット転換が見事で、そのままランジュとヴァランティーヌは逃亡し、冒頭のシーンへ。
バーの客たちはランジュを逃すことにし浜辺で見送ってエンディング。このラストのカットはまさにルノワールの世界である。
フレンチノワールだと解説されているから、いつ犯罪が起こるのかと見ていたが結局ラストまでただの人間ドラマとラブストーリー。これがルノワールの色なので、その意味では素晴らしい一本だったと思います。