「コンプリシティ 優しい共犯」
期待も何もしていなかったが、驚くほどに良かった。地味で静かな物語なのに、いつの間にか引き込まれてしまいました。お世話になるという人間同士の本当の助け合い、心の交わりが見事に描けていたように思います。監督は近浦啓。
中国から偽パスポートで入国し、日本で仕事をしているチャンの姿から映画は始まる。明らかに犯罪的な仕事をし、日本人に搾取されている感じである。
ある時、相棒が目の前で逮捕され、行き場をなくしたチャンは、違法な携帯にかかってきた求職案内に合わせて、紹介先に行く。そこは井上弘という日本人が夫婦で営む蕎麦屋で、携帯の持ち主はリュウ・ウエとなっていたので、リュウとして働き始める。
仕事も慣れてきたリュウは配達先で葉月という画家の女性と知り合い親しくなる。彼女はリュウの故郷でもある北京の大学に行く予定をしていた。映画は、日本で暮らすリュウと、中国で、日本へ旅立つ前に見送ってくれた母と祖母との物語が交互に描かれていく。
ある時、葉月とリュウはデートして、ダンスホールでリュウは財布を盗まれる。葉月は警察署へ走っていくが、不法滞在がバレるリュウは逃げる。間も無くして、警察から井上の店に電話がかかる。それと前後し、リュウの祖母は死んでしまう。リュウを日本へやるために無理をしたのがたたったのだという。リュウの母も病気がちだった。
井上に詰められて、リュウは飛び出してしまう。しかし行き場もない上に、そば職人になって北京へ戻ろ夢を持ち始めたリュウは井上の元に戻る。
一方、葉月は北京へ旅立つ。井上は妻をしばらく旅行にやる。そして二人で店を切り盛りするところへ、刑事がやってくる。井上は刑事を客として店に入れ、リュウを配膳に出すから待てと言って帳場へ下がる。そして、リュウに金を渡し、出前に行くふりをして逃す。
黙々と蕎麦を打つ井上、海岸まで逃げたリュウ、本名チャンに葉月からボイスメールが届く。今日は北京で映画を見たのだという。題名は「君の名は。」、それに答え「チャン・リャン」と答えて映画は終わる。
息子との関係が疎遠になり、寂しい思いをしていた井上の前に現れたチャン。一見何気ない人間ドラマですが、中国でのチャンの姿を挿入した脚本が映画をあったかいものに仕上げた感じで、人間味あふれる作品に出来上がっています。中国での貧しい家族の描写は今時と言えなくもないですが、映画作品として完成していた気がします。
「パリの恋人たち」
恋多きフランス、恋多き女、洒落てキュートなラブコメディで、こういう男と女の描き方はフランス映画でないとできない感じの素敵な一本でした。監督はルイ・ガレル。
マリアンヌと暮らすアベル、ある朝突然、マリアンヌは妊娠したという。しかも父親はポールという男だと断言し、アベルは家を出ることになる。外ではポールの妹エヴがいた。そして時が経つ。
ポールが突然亡くなった。その葬儀でアベルは久しぶりにマリアンヌと再会するとともに、ジョゼフという男の子とも出会う。間も無くして寂しさを紛らすかのようにマリアンヌとアベルは一緒に暮らし始める。
ジョセフはアベルを殺したいとあっさり言う。しかも黙ってベッドの下に携帯を忍ばせ、アベルとマリアンヌの会話を聞いていたりする。ある夜、アベルはマリアンヌに、なぜジョセフがポールの子供と断言できるのかと聞くと、コインを投げて決めたのだと言われ唖然とする。
そんな時、エヴはアベルのことが昔から好きだったと告白される。そしてエヴはマリアンヌにアベルをくれと断言する。マリアンヌはアベルに、エヴのところに行ってはどうかと提案する。その提案に乗ってアベルはエヴの下に行くが、最初は盛り上がった二人だが、エヴは間も無くアベルに飽きてくる。手に入れてしまえば普通だったと言うセリフがかぶる。
ある時、道でエヴはジョセフに会う。ジョセフが、実はアベルはマリアンヌに言われてエヴのところに行ったのだと、録音したものをエヴに聞かせる。直後、アベルはエヴの部屋を追い出される。アベルは、マリアンヌの元に戻りたいと考え、失いたくないとマリアンヌの職場まで行き、再会するが、そこへジョセフに学校から電話が入り、ジョセフが行方不明だと言う。
アベルとマリアンヌは必死で探し、マリアンヌはもしやとポールの墓地に行くとそこにジョセフがいた。間も無くエヴもそこにやってくる。ジョセフはさりげなくアベルの手を握り映画は終わる。
女たちに翻弄され行ったり来たりするアベルが微笑ましいほどにコミカルだし、一見情熱的な女性二人が意外に冷めているのも笑える。さらに、一番まともなのがジョセフというキャラクターも面白い。現実の恋愛なんてこんなものだよと笑い飛ばしている監督の顔が見えるような楽しい映画でした。