くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「仮面病棟」「Fukushima50」

「仮面病棟」

面白い話のはずなのだが、小説なら隠せているフェイクが全部表に出てしまっている上に、演出力の弱さなのか緊張感がまるでなくダラダラ展開していくのはさすがに残念。監督は木村ひさし。

 

田所病院の前にパトカーが集まっている。どうやら立てこもり事件が起こっているようだ。一方、近くでコンビニ強盗事件が起こり、犯人は逃げる途中女性に発砲した映像が映る。

 

カットが変わり、この日の朝、主人公速水は先輩の小堺に頼まれて、田所病院の臨時当直にやってくる。病院はかつて精神病院だったために格子があちこちにある上に、なぜか手術室は鍵で封鎖されていた。

 

何事もなく始まる当直勤務。ところが、突然内線電話に呼び出され一階に行くと、そこに一人の女性川崎瞳がお腹から血を流して倒れていた。しかも、近くにピエロの仮面を被ったコンビニ強盗が銃を持っていた。ピエロは速水に川崎の治療を強制させる。そこへ院長の田所も現れる。

 

速水が処理をし、川崎は動けるようになるが、ピエロは格子で階段を閉ざし、エレベーターを監視することで病院の看護師二人と院長、速水を監禁する。速水は窮地を抜けるべく、また一方でピエロの本当の狙い、田所院長の隠している秘密を暴こうと川崎と一緒に行動を開始する。

 

やがてこの病院には様々なところに隠し部屋があり、院長室の奥の資料倉庫の奥に病室を発見、そこには腎臓移植を終えた患者が寝ていた。田所院長は、違法な臓器移植をし、様々な有名人を助けてきた。しかしその臓器提供者は、身元不明の被害者やホームレスなどであることがわかる。

 

そのリストを手にするのがピエロの目的だった。やがて、一人の看護師が殺され、さらにコンビニ強盗が使った車が田所病院に停められていたことから警察も駆けつける。そして冒頭のシーンへ続く。

 

ファイルを手に入れたピエロの正体は、小堺先輩ではないかと速水は追求、ピエロは何も答えず、院長らに銃を向けるが、一方警察が突入してくる。速水はとっさの機転で防火設備を作動させ、ピエロの銃を奪ったかに見えたが、何者かにスタンガンで気絶させられる。

 

警察が突入したところには院長ら三人の遺体があり、ピエロは院長らを撃ち殺し自殺したと警察は推理、状況を速水にきいている場面となる。しかし、警察の説明に川崎瞳の存在が出てこない。彼女はどこに消えたのか。速水は振り返って場面を思い出し、またピエロは小堺先輩ではなく理学療法士の若者とわかるに至り、真相が見えてくる。しかも、コンビニ強盗も川崎が撃たれたというのも現実にはなく、ピエロの警察への通報だけの出来事だとわかる。

 

川崎瞳とは患者の中の身元不明者川崎13のことであり、彼女が全ての殺人を犯した。かつて事故で姉と二人この病院に来た時、不法に臓器を取られ、姉も死んでしまいその恨みにその時の関係者の田所院長、看護師二人、そして当直だった小堺に復讐しようとしたのだ。

 

速水は小堺に危険が迫っていると、小堺の病院に駆けつけるがすでに川崎に殺された後で、そのまま川崎は消える。そして、田所院長に移植を受けた元総理大臣の街頭演説の場に川崎はいた。川崎の姉の臓器はこの男に移植されたのである。そのため、元総理大臣を撃ち殺す予定だったが、ちょうどその時、速水が記者会見をし、田所病院の違法行為を告発するニュースが町に流れる。

 

結局川崎は元総理を撃たなかったのか。時が経ち、開業医として働く速水に、かつて川崎に与えた、速水が彼のフィアンセにもらったお守りが返されてくる。映画はここで終わるが、全体に非常に軽すぎてリアリティが弱い。考えてみればおかしいなと思われる設定がいたるところにあり、謎解きの面白さだけを追いかけて、描くべき様々を軽く流したために、薄っぺらい作品に仕上がった感じですね。

 

おそらく原作もこの程度の仕上がりなのだと思いますが、小説は活字なのでまだイメージが膨らませると思います。川崎の化粧が異常なほどに濃いので、どう考えても何かあると思うし、途中で彼女が犯人なのははっきり見えるし、そもそもフェイクのはずのピエロの描写が実に弱くフェイクになっていない。作りようによればそれなりの娯楽作品になったろうにと思える映画でした。

 

「Fukushima50」

これは見るべき映画です。現在考えられるトップクラスの役者を揃え、実にまっすぐに福島第一原発の大事故を真正面から描いていく様は圧倒されるし、時に涙が止まらなくなる。もちろん映画なので、物語に緩急を作らないといけないし、見せ場といわれる場面もあってしかるべきで、それを批評するのは間違いだと思う。監督は若松節郎。

 

東日本大震災が起こるところから映画は始まり、間も無くして福島第一原発がSBOとして非常事態に突入、電源喪失の中、命がけで最悪の事態にならないように踏ん張る現場の人々の姿を、吉田所長と当直長の伊崎を中心に描いていく。

 

メルトダウン寸前の原子炉設備に向かっていく決死の作業員たちの姿、今にも大爆発をせんとする原発施設のそばで作業をする自衛隊や他の作業員。混乱する政府、総理大臣、東電本社の責任者などなどの姿がストレートに描かれていく。

 

もちろん、映画なので、所々によくある展開はあるとはいえ、それを軽くいなした演出がうまい。さらに、伊崎や吉田、そのほかの家族との人間ドラマにあまり時間を割かず、ひたすら事故に現場の緊張感を徹底した脚本も良くできている。悪かったのは自然を甘く見ていた人間であること、人災より以前に天災であったことをメッセージにしたのも良かったと思います。

 

映像表現としての良し悪しよりも、こういう風にちゃんと語っていく良質な映画は見ておくべきものだと思います。偏見で物を見る評論家もどきの連中が非難した評論を有名な映画雑誌にも見かけますが、筋違いも甚だしいです。まず、当時の惨状を見ておくべきで、その意味では確かに娯楽性がないわけではないけれどこの映画はいい媒体だと思います。本当に考えさせられる作品でした。