「酔うと化け物になる父がつらい」
この映画は嫌い。登場人物みんな我慢と後ろ向きにしか生きていない。確かにコミカルな演出と登場人物は出てくるものの、それが微笑ましい笑いに繋がらない。実話という枷もあるのだが、父トシフミも結局わかってほしい的な存在で終わるというのは自分勝手でしかない。エピソードの配分が良くないのだろう。メッセージが伝わりきれずに終わった感じでした。監督は片岡健滋。
主人公田所サキの幼い日、カレンダーに×をつける場面から映画が始まり。新興宗教にハマる優しくて献身的な母サエコが、二人の娘と河原を歩いていて、草野球で酔っ払っている父トシフミのところに娘が飛び込んでいってタイトル。
酒を飲むと右も左もわからなくなり飲まれてしまうトシフミは、この日もぐでんぐでんに酔って帰ってくる。そんな父に辟易しながらも家族みんなで介抱する姿。微笑ましくも暖かい家庭の話であるかに思われるのだが、父の仕草は尋常ではない。会社ではできる社員であるかの描写もあるものの、悪友たちとの付き合いも含め、最低に近い存在として描かれる。
間も無くして、母は自殺してしまい、娘二人と父の三人暮らしが始まる。しばらくはトシフミもアルコールを控えていたが、耐えきれずいつの間にかもとの状態に。そんな父を必死で支えるサキ。やがて、サキはそんな父を漫画に転化することでストレスから逃れようとしていく。
そんな時、応募したコンクールで入選したサキは漫画家への道を進み始める。トシフミの毎日はどんどんエスカレートし、体に無理がかかりはじめる。友達に紹介された彼氏と付き合うサキだが、この彼氏も異様な征服欲のある男で、サキは見切りをつける。
そんなある時、トシフミに癌が見つかり、間も無くして意識をなくし、ほどなくして死んでしまう。サキは父の死を悲しむこともなく淡々と受け入れるが、年が変わりカレンダーを吊り変えていて、カレンダーの下に父が書いた「ごめんなさい」の文字を発見する。また、父の同僚の言葉に中に、会社でのトシフミの努力を語られたりする。サキは、壁の落書きに一旦は自分を狭得るものの、やはり父を恨んでいたと映画は終わる。
サキは耐えるばかりで、結局漫画に逃げていくし、トシフミもまた酒に逃げていく。でもお互いに言いたい放題に文句を言えるのが家庭なんだろう。そこにほんのりとした人間味がうまく出ればよかったのだが、ひたすら後ろ向きな部分を繰り返していくので、作品がある線から浮上しなかったんだと思います。そんなわけで好きになれない映画でした。
「一度死んでみた」
楽しい。テンポよくギャグを織り込んで、たわいのない話を必死で展開させていく軽いコメディ。こういう肩の凝らない映画は大好きです。それに、広瀬すずはやはりすごい女優やなと改めて思う。彼女の存在感が映画を締めるというのは見事です。まあ、ファンなので贔屓目に見る思い入れもあるのですが。監督は浜崎慎治。
父、計が社長を務める製薬会社の面接に来ている娘七瀬のシーンから映画は始まる。全く入る気のない七瀬のショットから自分がボーカルを務める魂ズというパンクロックの舞台シーン、さらに、大嫌いな父を臭い消しのスプレーで追い払うシーン、異常なくらいの化学オタクの父の異常さをコミカルに紹介。母の死までを一気に走る。
そんな父の会社野畑製薬は、若返りの薬ロミオを研究していて、その研究を盗むためにライバルのワトソン社の社長が合併話を持ちかけている。しかし、計は全くその気はないが、経営は厳しく、その立て直しに渡部という男を採用していた。ところが薬の情報の一部が漏れていると知った計は秘書の松岡と相談して、会社内のスパイを探り出すべく、たまたまできた少しだけ死ねる薬ジュリエットを飲んで死ぬことにすり。一方渡部はワトソン社の社長田辺の回し者だった。
渡部は、計が死ぬ直前に書類にサインさせ、生き返る前に火葬にして、ワトソン社との合併を進めようとする。一方、何も知らない七瀬は、その匂いから計の存在を感じることができ、渡部の陰謀を知った松岡と協力して、父を早く蘇らせようと奔走するのが本編。
渡部の策略を、様々な伏線とギャグを織り交ぜながら松岡と七瀬は葬儀を執り行って時間を作り、なんとか二日後の蘇りの時間までに火葬させないようにする。ところが、間一髪で渡部は遺体を火葬場に放り込んでしまう。しかし、なんと、計は宇宙服に着替え、火葬室から出てくる。そして、渡部らの悪事も暴き、娘七瀬とも心を通わせ、七瀬が父の後を継ぐことになってエンディング。
振り返ってみると、ちょっと甘い作りの部分も多く、散りばめられたギャグの数々は面白いし、ちゃんと伏線になるのだが、渡部との時間争いや、二日で生き返る薬の面白さなどなどがもうちょっと生かしていれば傑作になったかもしれません。いたるところに登場する役者のカメオ出演が面白い映画で、その意味では遊び映画でした。