「限りなき前進」
戦前の映画で、肝心のテーマになる部分のフィルムがなくなっているためにそこを字幕で補完しての上映なのですが、なくなった部分の映像をこれほどみたく思ったのは初めてでした。おそらく完全なものはすごい傑作なのではないかと思います。サラリーマンの現実を斜めにスパッと斬ったような語り口が想像できる作品でした。監督は内田吐夢。
道端で子供二人と、仕事もなくフラフラしている北青年とがキャッチボールをしている場面から映画は始まる。少年の父親、野々宮は二十年以上勤勉実直に勤めてきて、今新居を新築中で、年頃の娘もいる。しかし、物価が高騰してきて大工の棟梁から追加で費用が欲しいと言われ、65歳まで働くとしたらなどと算段をしないといけなくなっていた。
そんな頃、会社では定年制度の導入が噂され、程なく株主総会で決定される。そして55歳定年に近い野々宮は退職するであろうとこが現実になってくる。この後、フィルムがなく、野々宮は建築中の家に行き大雨が降り、家に帰って夢を見る。夢の場面のフィルムがあり、そこでは野々宮は庶務部長に昇進し、娘の結婚も決まり新居も完成順風満帆な生活になっている。
そして娘の嫁入りの日、満面の喜びを見せる野々宮の場面で夢が覚め、ここからまたフィルムがない。この後会社へ行った野々宮は重役になったつもりで振る舞い、周りが野々宮が気が触れたことを知る。そして野々宮は部下を連れて料亭へ行く。ここからフィルムがあり、料亭で延々と自論を語る野々宮、そしてまたフィルムがない。北青年と娘が父野々宮を迎えにきて川岸を歩くシルエットで映画は終わると字幕が出る。
本当に惜しい。おそらく圧倒される傑作だったと思う。
「はちどり」
淡々と進む物語ですが、二時間を超えるのに最後まで見せてくれます。高度成長に飲まれていくような韓国1990年代、一人の女子中学生を通じて、家族の素朴な姿、周りの人たちの考え方の変化、さらに危うい年代の繊細な心の物語を紡いでいく。クオリティの高いいい映画でした。ー監督はキム・ボラ。
中学生のウニが自宅のベルを鳴らしているが開けてくれない。次のカットで部屋を間違えていたのか?というような単純なオープニングだったのか疑問になるこの最初のカット、大きな団地の姿がシンメトリーな画面で捉えられる。これがこの映画を凝縮しているのかもしれません。
ウニは母に頼まれて買い物に出て帰ってきたようである。ウニの家は近くの商店街で餅屋をしていて、なかなか繁盛しているようで家族中で作業をしているシーンが続く。ウニには男子学生と遊びまわる姉スヒがいて、ある時は父に見つからないようにクローゼットに隠れていたりする。兄は父の期待を一身に背負っているようにソウル大学を目指している高校生だが、父がいない時はウニを召使のように使い、逆らうと殴ったりしていた。
ウニには違う学校に通う友達がいて、漢文塾の帰りいつも遊んだりしている。ウニには彼氏もいるが、まだ恋人同士というより恋人ごっこのレベルである。また、ウニの後輩からウニは慕われていたりしている。
ある時、漢文塾にヨンジという女子大生が講師としてやってくる。何か自分たちに気持ちが近い気がしたウニはヨンジを慕うようになる。ウニは友達と万引きをして捕まったりするが、友達はその店の主人に責められてウニの父親の店を教えたので、二人の仲は疎遠になる。
ウニは耳の下にしこりがあることに気がつき、病院で検査するが大病院での検査の結果、手術しなければならなくなる。やがて入院し、手術も無事終わるが、疎遠だった友達とも仲直りする。入院する前、ウニはヨンジに本を貸す。
やがて退院したが、ウニの彼氏との間もついたり離れたりし、さらに後輩もウニを慕ったのは二学期までの話だと素っ気なく話す。そんな時、ソウルの巨大な橋が崩落、大事故が起こる。姉がいつも通学で乗っていたと思ったウニは父に連絡するが、運良くスヒは遅れたバスに乗ったので無事だった。しんみりした食卓で、兄は号泣してしまう。
退院後漢文塾に行ったウニはヨンジが辞めたことを知る。もう一度会いたいと、荷物を取りに来る時間に待つが教えてもらった時間が違っていて会えず、悪態をついたウニは漢文塾を追い出されてしまう。ヒステリックに言い合いをする家族にウニが切れ、それに逆上した兄がウニを殴ってウニの鼓膜が破れてしまう。
まもなくして、ウニに小包が届く。ヨンジから借りていた本とスケッチブック、そして手紙が添えられていた。ウニがその住所からヨンジの実家に行くが、なんとヨンジはあの橋の事故に巻き込まれて死んでいた。
ウニはヨンジからの手紙を読み直し、次第に日常が戻ってくる中、普段の生活に戻り始める。学校で元彼に声をかけられるウニだが、最初から好きじゃなかったと素っ気なく答える。映画はこうして終わる。
不思議なくらい最後まで飽きずにみてしまう作品で、ウニのさりげない仕草に見せる描写が実に繊細で引き込まれます。何気なく起こる小さなエピソードの数々が映画に不思議なリズムを作り出しているのでしょう。いい作品だったと思います。