くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「大菩薩峠」「大菩薩峠第二部」「大菩薩峠完結篇」(内田吐夢監督版)

大菩薩峠内田吐夢監督版全三部作

大菩薩峠に佇む主人公机龍之介の姿から映画は始まる。そして登ってきた老人の娘を迎え、一人休む老人を斬り捨てて何処かへさる。たまたま通りかかった大泥棒の男が残された娘松を連れて旅に出る。

 

こうして物語が始まる中里介山の長編時代劇。何本か映画化されているうちの一番有名な三本を見る。映画は終始重厚な演出で、主演の片岡千恵蔵の重々しい演技と相まって映画自体が実に重い。片岡千恵蔵はこの作品に関わる四年ほど前に渡辺邦男の「大菩薩峠」シリーズでも机龍之介を演じていた。

 

机龍之介は間も無く行われる宇津木文之丞との試合を前に文之丞の妻の浜がやってきて試合を預けにしてくれと頼む。邪剣ながらも剣一筋の龍之介はそれを断り、剣の道は女の操と同じかという問いかけを残す。そして、浜を一夜拉致し、文之丞にあらぬ疑いを抱かせた上、文之丞を試合で倒し殺してしまう。浜は文之丞から離縁を言い渡される。

 

浜は龍之介に惹かれ、まもなくして龍之介は浜と所帯を持つが、家庭を顧みない龍之介に浜は子供がいるものの不幸の底にいた。そして弟兵馬と果し合いを知ると聞いて、兵馬に思いとどまらせようと駆けつけたところで龍之介の手に落命する。その後も、兵馬は龍之介を兄の仇のため追う。一方で、龍之介は過去に切り殺した人間の亡霊にうなされる日々を送っている。

 

ようやく追い詰めた兵馬は龍之介らの小屋に火薬を投げ入れ、龍之介を誘き出すが、龍之介は崖から飛び降りて兵馬から逃げて第一部が終わる。人間関係か絡み合いながら描かれていく物語に人間の業が見え隠れする展開がなんとも奥が深い。

 

第二部は瞽になった机龍之介の行く先々で出会う人物とのエピソードと彼を追う兵馬ら一行の物語が並行して描かれるが、そこに、これまで関わってきた女たちの行く末が絡んでの展開となる。ダークヒーローとしての様相がどんどん膨らんできて、やがて故郷に向かって剣に魅入られた机龍之介の次の狂気が蘇るようなラストで完結編に進む。

 

完結編は、これまでの因果が惹きつけるように登場人物を結びつけていく展開となる。松は兵馬に、龍之介は最初から登場する旗本神尾の妻となる予定だった顔のあざのある女と行動を共にし、龍之介の知らずにかつての妻の浜の実家に逗留する流れとなる。因果応報をテーマに描いてきた作品のクライマックス、兵馬は龍之介を憎む心が果たして正しいものかと悩み、それでも、命を断つことこそが龍之介を救うのではないかと考える。

 

そんな頃笛吹川が氾濫、折しも大菩薩峠そばにいた龍之介は息子の声に誘われるように嵐の中へ、そして氾濫した川の橋の上で叫びそのまま兵馬らの目の前で橋もろとも川に流されて行って映画は終わる。

 

三部作の超大作で、エキストラの数もすごく、映画産業黄金期の迫力を感じる作品ですが、全体には普通の娯楽時代劇という感じの仕上がりです。因果応報という仏教的なテーマを含んでいるのですが、おそらく原作にあるそのテーマ名は映画では表立って描写されていないように思います。でも、見た甲斐のある一本でした。