「弱虫ペダル」
期待通りの出来栄え。めちゃくちゃに映画に乗ってしまいました。徹底的にロードレースシーンに執着した作りが映画として成功したという感じです。本当に良かった。監督は三木康一郎。
主人公小野田坂道がママチャリに乗ってアニメソングを歌いながら登場するシーンから映画は始まる。このリズムに乗ったオープニングが実にうまい。そしてこのリズムのまま最後まで映画をリズムに乗せてしまう。
中学時代からロードレースのヒーローとしてこの高校へやってきた今泉は、高校裏手の坂道を登り始めていた。ところがママチャリで軽々と登る小野田を発見し、呆気に取られる。この出会いシーンもうまい。アニメ研究会に入ろうとするも部員がいなくて困っていた小野田は、部員集めのための勝負に今泉と自転車レースすることにする。そこで今泉は勝つことへの執着に燃える小野田の才能に唖然とする。
いつものように秋葉原にやってきた小野田はそこで関西からやってきた同じくロードレースにかける鳴子と知り合う。この鳴子を演じた坂東龍汰が実に良くて、存在感で映画を締める。
そして、自転車部に入部した小野田、今泉、鳴子らはいきなり新入生ロードレースに参加、そこで小野田の才能を認めた部長の金城は、インターハイ出場をかけた千葉県予選大会に今泉、鳴子、小野田を加えることにする。
クライマックスに延々とロードレースシーンが続くがカメラが実にいいし、リアルに自転車を漕ぎ主人公たちの息遣いが伝わって、どんどん映画の中にのめり込んでいく。冒頭のリズムがそのままラストまで乗っていき、途中、事故に巻き込まれて最下位になった小野田が、自分の役割を果たすために百人抜きで山道のトップに出てくるクライマックスの設定も上手い。そして見事役割を果たした小野田は今泉をゴールさせて部をインターハイへと導いて映画は終わる。
それぞれにキャラクターの色分けがしっかりできているために主人公が程よく埋もれ、見せ場に生かすべき人物をちゃんと見せる。しかも縦横無尽のカメラで見せるロードレースのシーンが見事な上に、走り込んでいく登場人物のリアリティは映画に緊張感を絶やさない。なかなかの青春映画の傑作でした。
「僕の好きな女の子」
なんとなく今泉力哉の空気感があると思ったら、やっぱり彼が脚本協力していました。まどろっこしいようなプラトニックラブの物語のようですが、男性のほのかな希望というか夢のようなものが切ない展開と洒落たユーモアで描かれた小品で、思いの外素敵でした。監督は玉田真也。
この日、加藤はガールフレンドの美穂と待ち合わせをしている。LINEの通話で、待ち合わせ時間をコミカルに言い合いするこのオープニングが微笑ましい。やってきた美帆はやたらでかいジュースを買ってきていて、それを加藤に渡す。
加藤はドラマの脚本家で、美帆は恋人というわけでもなくただ気の会う友達という関係だが、実は加藤は美帆が好きだった。物語は美帆が突拍子もない行動で加藤を翻弄しながらも、加藤も翻弄されるのが心地よいというじゃれあいを描いていく。ただ、加藤は美帆のためにと買った缶ジュースをどうしても渡せない。このまどろこしさがしつこくて、実は美帆なんかはいないのじゃないかと疑い始めるのはこの辺りから。
加藤と美帆は公園で、ギターを弾いているストリートミュージシャンを見てふざけている。そこへ迷子が現れ、ミュージシャンのところへいくが、そのまま加藤らが探すことになり、加藤は美帆と迷子の親を探したりする。
加藤は恋愛ドラマの脚本を手がけるが、それは美帆との出来事をそのまま描いたものだった。加藤の友人の女性にそのことを指摘されたりする。美帆から彼氏と別れたと言われた加藤は、内心小躍りしたりする。美帆の写真展に誘われた加藤は差し入れのケーキを買っていくが結局渡せない。
ある時、美帆に呼び出されて行った加藤は、美帆に彼氏ができたと言われる。加藤は戸惑いながらもその彼氏に会って見たいという。美帆は彼氏を呼び出し、三人で公園で遊び、加藤が一人アヒルボートに乗っている時、彼氏は美帆に、加藤は美帆が好きなんだという。美帆は全く気がつかなかったと答える。
彼氏が先に仕事で帰り、加藤と美帆は二人きりになるが、どこかぎこちないままである。カットが変わり、ストリートミュージシャンが帰り支度をしている。加藤が近寄る。ミュージシャンが、いつも一人でベンチにいますねと答える。そこへ子供を連れた女性が近づく。加藤はミュージシャンに、自分の妻だと紹介する。つまり美帆は架空の女性だったのだ。加藤とその妻、子供の三人が歩いて行って映画は終わる。
多分美帆は架空の女性だろうとなんとなくわかる流れですが、今泉力哉らしい淡々とした恋愛ドラマに仕上がっていて、思いのほかよかったです。