くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「喜劇 急行列車」「吹けば飛ぶよな男だが」「あゝ軍歌」「人数の町」

「喜劇 急行列車」

たわいのないプログラムピクチャーで、気楽に見れるコメディですが、構成はしっかりしているのはなかなかのものです。監督は瀬川昌治

 

東京から長崎に向かう急行列車、専務車掌の青木が乗り込んで、列車の中で起こる様々なエピソードを綴って行く。若き日に出会った女学生毬子のエピソードを中心に、妻とのちょっとした夫婦喧嘩、さらに、再度鹿児島へ向かう急行で出会う心臓の悪い少年や、車内でのお産、追いかけてきた青木の奥さんが産婆の免許があり、程よく仲直りしてほのぼの終わる。気楽そのものの喜劇です。

 

吹けば飛ぶよな男だが

これは傑作。主演のなべおさみが見事だが、脇役の配置が見事で物語が無駄なく映像で表現されています。これがつまりは感性の優れた人が作った作品というところです。軽いコメディと熱い青春ドラマと温かい人情が溢れかえる作品でした。監督は山田洋次

 

主人公三郎が大阪駅前でピンク映画の主演女優を物色しているところから映画は始まり。いかにも田舎から出てきた花子を見つけ、まんまと撮影に及ぶが、花子は逃げ出す。逃げ出された花子をその時の勢いで助けた三郎は、兄弟分のガスと花子を連れて神戸へ。そこで花子に客を取らせようと誘った教師を交えての人情ドラマが展開する。

 

三郎のバラックのアパートの隣にはなかなかうだつのあがらないヤクザの不動がいて、この男に惚れ込んだ三郎は一端のヤクザになろうと奔走。一方で、トルコに花子を売ってしまうものの、トルコの女将お清ともすったもんだの人情喜劇が繰り返される。

 

そんな時、花子に妊娠が発覚。どうやら田舎にいた頃妊娠させられたようで、堕ろせという三郎に、なんとかしろという教師との三つ巴。自暴自棄になった三郎は、たまたまヤクザもんに絡んで殺傷事件を起こし刑務所へ。一方花子はどうして良いかわからず雨の中歩き回って流産した挙句死んでしまう。

 

すぐに出所できた三郎はお清らとアパートで花子の葬式をあげ、花子の田舎に骨を届けて、遠洋漁業の船に乗る決心をする。港にお清を呼び、ガスらに見送られて船で去る三郎のシーンで映画は終わる。

 

三郎の隣の部屋の不動という中年ヤクザやトルコのお清らも含め脇役が素晴らしい上に、さりげないシーンの数々が無駄なく描かれた描写も上手い。がむしゃらな三郎の姿が生き生きした仕上がりになっている傑作でした。

 

「あゝ軍歌」

痛快、なんの淀みもなくカラッと笑い飛ばす。不謹慎とかどうとかいうものなどなく、何もかも笑い飛ばしながらも、戦争の哀愁をさりげなく盛り込んだ脚本と演出、そして演技の妙味に引き込まれてしまいます。監督は前田陽一

 

第二次大戦の戦場シーンから映画は始まる。適当に過ごしている福田とカトやん。そして終戦して25年、今や如何わしいツワー会社を運営し、今日も東京を訪れた老人を東京案内している。ある時、福田は靖国神社に息子の霊を納めたいという婆さんを案内する。その婆さんは霊を収めた後どこかで死にたいという。案内した福田は、自分のバラックのような家に招く。

 

福田とカトやんが飲み屋回りをした帰り、お腹の大きいツネ子に夫と間違われる。そしてそのまま福田の家へ。しかしお腹が大きいのは詰め物だった。そんな頃、アフリカに行きたいという若者の世話をしたカトやんだが、手違いで、若者の入った棺桶が福田の家に配達される。そこへ、17歳という妊娠した若い女もやってくる。

 

こうして奇妙な同居生活が始まる。あとは、細かいエピソードをちりばめながらのドタバタ劇だが、芸達者が揃っているので、とにかく軽妙でテンポがいい。そして、婆さんが息子の墓を作るのに金がいるということになり福田たちは靖国神社の賽銭泥棒することにする。クライマックスは、賽銭箱の中に福田が入り、まんまと金を手に入れるも、袋を間違えて、金は手に入らない上に福田とカトやんや逮捕されて一年後。福田らが出所してくると、婆さんら元のメンバーが待っていて、また一緒に生活を始めて映画は終わる。

 

婆さんの息子の死んだくだりや、要領良く生きてきた福田とカトやんのこれまでもウィットが効いていて楽しい。靖国神社に賽銭泥棒にはいるとか、黙祷を脱出手段にしたりとか、不謹慎とかいうのも吹っ飛ばしたあっけらかんとした展開も爽快。楽しい映画でしたし、ほんのり涙ぐむシーンもあり素敵な映画でした。

 

「人数の町」

胡散臭い映画です。シンプルな展開と物語の中にさまざまな風刺を盛り込んでいるという評価は確かにそうですが、映画としてのテンポはよくないし、やたら長く感じるし、どこかで見た展開も見られるしというのが感想です。監督は荒木伸二。

 

借金を返さず、取り立て人に追われていた蒼山は、黄色のつなぎを着た男に助けられ、不可思議な町に連れて行かれる。そこでは、入る時に何かのカプセルを打ち込まれ、部屋ナンバーだけで女性とSEXしたり、食料を得るために、架空の書き込みをしたり、外に出ては、ダミーの投票をしたり、架空の宣伝投稿に協力したりさせられるが、衣食住は完全に保証されていた。

 

一人の女性緑と親しくなり、様々なこの町での活動を体験するが、紅子という女性が失踪した妹を探すべくこの町にやってくる。その妹とは蒼山が親しくなった緑で、その妹には娘もいることがわかる。

 

この町での活動を受け入れられない紅子は緑の娘を連れ、蒼山と一緒に脱出することにする。この街を離れると、不快音楽が頭の中に響くようになっていたが、職員の機械を盗み脱出。しかし戸籍もなく金銭的にも追い詰められていく。そこへ、黄色のつなぎの男が現れる。

 

シーンが変わると、平穏に暮らす蒼山、紅子、緑の娘がベッドにいる。蒼山が仕事に出かける。蒼山は黄色のつなぎを着て新しい住人に自由について説明して映画は終わる。

 

細かい矛盾は無視して考えてみるに、いわゆる、世の中はこういう作られた何かによって支配されているということを言いたいのだろうかと思う。ある意味、なるほどと思うのだが、一方で、今更という気もする。その表現がもう少し斬新なら面白いのですがという気がしなくもない映画でした。