くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「おらおらでひとりいぐも」「461個のおべんとう」「ホテルローヤル」

「おらおらでひとりいぐも」

一人ぼっちになった老婦人の毎日を淡々と描くファンタジーという感じで、面白いと言えば面白いが、後向いたようにしか見えない瞬間がなんとも鬱陶しいと言えなくもない。どこかじめっとしたものが見え隠れしなければ、あっさりドライないい映画になったような気もします。監督は沖田修一

 

夫を数年前に亡くし、一人ぼっちで生活している桃子さんが天井を走る鼠の音を聴いている場面から映画は始まる。時々彼女の周りに三人の心の彼女が現れる。物語は、彼女が岩手から出てきた頃の過去や、夫周造との出会い、或いは幼い日々の思い出などを回想しながら、今の毎日の変わりばえしない生活を描いていく。

 

時々部屋の中はいろんなステージに変身して様々なシチュエーションが展開。外に出る時は病院へ行く程度の景色ばかり。時々来る娘の描写など平凡な日々をひたすら描いていく。

 

終盤、一人で近くの山にハイキングに行き、帰ってきていつも行く図書館で、何度も勧められて断っていた習い事をすると返事をする。一人居間で、心の三人と踊っていると孫が一人でやってきて、破れた人形を直してくれという。娘や孫が東北弁を喋ることに、どことなく安堵した桃子の場面で映画は終わる。

 

なんの変鉄もない。これという魅力も見えてこない。何か物足りないのです。奇抜なセットや展開を見せるのですが、その効果が今ひとつ生きていない気がします。まあ、こういう静かな映画もありですけど、という感じでした。

 

「461個のおべんとう」

もっとつまらない映画かと思ったが、思いのほか良かった。この監督の演出センスがいいのだろう。音楽シーンと通常シーンの組み合わせのリズム感が非常にいいので、どんどん引き込まれていくのです。ただのお弁当映画なのに、その割り切りの楽しさで最後まで行きました。監督は兼重淳。

 

バンドをしている一樹のステージシーンから映画は始まる。息子虹輝と妻の三人暮らしだが、キャリアウーマンの妻と一樹の間にはいつの間にか隙間ができている。この隙間の描写に力を入れていないのでやや弱いが、この後の展開で帳消しになる。虹輝が成長し、やがて高校受験が迫る頃一樹らは離婚する。虹輝は一樹のもとで暮らすようになるが、高校受験に失敗する。それでも虹輝は高校を諦めず、一年後合格する。

 

一樹はこれから毎日弁当を作るから1日も学校を休まないようにと虹輝に言う。年下の中での登校に抵抗のあった虹輝も父の言葉に励まされる。こうして、毎日欠かさず作る一樹の弁当を持って虹輝は学校へ行き始める。一樹の弁当はインスタでも知り合いの間で評判になっていくし、弁当を介して虹輝も友達ができる。

 

映画は、父と子の三年間を弁当を媒介に成長していく姿として描いていく。虹輝にも一樹にも恋が訪れ、母の再婚の話も聞こえてくる。卒業を前に大学受験に向かい始めた虹輝の心に余裕がなくなってきた終盤の展開から、一樹の弁当に絡んでのふとしたことから心が晴れ、やがて一樹と虹輝はさらに未来へ進んでいく。

 

たわいのない話で、お弁当だけの話で、よくある話のはずなのだが実によくできている。一樹のステージシーンの挿入のうまさ、高校生活シーン、弁当制作シーンのさりげない組み立てが絶妙。何気なく終わるラストシーンも洒落ていていい感じで気持ちよかった。

 

ホテルローヤル

波瑠の起用が完全にミスキャストで、あまりに清純すぎて物語の濃厚さがふっ飛んでしまった。しかもエピソードがチープで、原作がどうなのかわからないが映像としては非常に薄っぺらいものになった感じです。監督は武正晴

 

ひと組の男女が既に閉鎖になっているラブホテル、ホテルローヤルにやって来る。男はカメラマンらしく女はモデルらしい。寂れた部屋で写真を撮り始めるが脱いだ女に男が被さっていき映画は時を遡る。

 

北海道の片隅に立つラブホテル、ホテルローヤルの一人娘雅代が美大受験に失敗して戻ってくるところから物語は始まる。アダルトグッズの営業の宮川がやってきていて、女将のるり子が応対している。夫で雅代の父大吉はフラフラするばかりでぐうたら亭主で、るり子は酒の配達の男と不倫中。ある時るり子はその男とどこかへ行ってしまう。仕方なくホテルを継ぐことになる雅代。

 

掃除婦の二人の会話と雅代との絡みを軸に、ホテルに来る客の人間模様を描いていく展開だが、中年夫婦が束の間の非現実の空間で燃える姿や、掃除婦の一人の真面目に働いていると思っていた息子がヤクザで、捕まったと言うニュースに大騒ぎするエピソードなどが描かれて、そのあと高校教師と女子高生がやってきて、わけありのまま二人は心中。一気に経営が傾いてホテルを閉鎖へと流れていく。この中で父大吉は死んでしまう。

 

終盤、整理に来た宮川に雅代がSEXを迫る場面が物語に深みを作れるはずが波瑠の演技力不足というか中途半端な脱ぎっぷりで盛り上がらず、ホテルを後にした雅代が、若き日の両親の姿を街で見る流れで映画は終わっていく。

 

おそらく原作はもっと深みのある描写がされているのだろうが、映像になった時点で、完全にペラペラになった。もっと濃い役者を揃えれば、特に波瑠ではなく誰かにすれば成功したのに残念な仕上がりになりました。