「エイブのキッチンストーリー」
ちょっと雑多な映画でした。SNSの投稿を使ったハイテンポな展開と宗教的な違いからくるギクシャク感をテンポよく見せていくのですが、今ひとつストーリーの線がぼやけて見えづらくなったのは残念。監督はフェルナンド・グロスタイン・アンドラーデ。
主人公エイブの家族は様々な宗教の人たちが集まっていて、エイブの呼び名にさえそれぞれ勝手な名前を与えていた。もともと料理が好きだったエイブは何かにつけて食材や作った料理をSNSにあげていた。
そんなエイブを見た両親は料理キャンプならぬサマーキャンプに行かせてやろうと決意する。そんな頃、様々な国の料理を組み合わせながら料理を作っているチコというシェフの存在を知り興味を持ち始める。そしてしつこく通ううちに厨房に入れてもらえるようになったので、キャンプへ行くふりをして毎日厨房へ行くが、ある時両親に見つかってしまう。
両親の諍いは日に日に激しくなり、離婚寸前となり、家族の喧嘩も激しくなってくるにつけ、エイブは感謝祭に各宗派の料理を取り混ぜて晩餐会を催す。しかし、余計に喧嘩が激しくなり、悲しくなったエイブは家を出てチコの厨房へ行く。エイブのいなくなったことに気がついた両親や家族は、エイブが作った料理を食べ、反省し、両親がエイブを迎えに行って、やがてハッピーエンドとなる。
まあ、ドタバタと雑多な展開であれよあれよともに語りは終わっていくあっさりした作品でした。
「サイレント・トーキョー」
えっえっと思っているうちに終わってしまった感じの映画で、煙に巻かれたような作品だった。中身があるのかと思えば、なんにもなくて、面白かったのかと言われれば、よく考えれば何もかもが中途半端に適当で、ただ、短いエピソードだか様々な人間の過去がストーリーの反映していく突貫工事のようなサスペンスという感想の映画でした。プロットのみが出来上がって、それで作った感じです。監督は波多野貴文。
クリスマスを前にした東京の街、一人の女性山口アイコはプレゼントのための手袋を買い、有名なたまごサンドを買っている。合コンに忙しい高梨と印南は須永というちょっと影のある男性に注目している。磯山という総理は日本が戦争ができるような国にすべきだと演説している。とあるマスコミに、今夜恵比寿ガーデンを爆破するから取材にこいと連絡が入り、ガセとわかりながらも契約社員の来栖と先輩が向かう。
恵比寿ガーデンに着いた来栖達だが、電話をしてきたのは一人の女性で、自分の座っているベンチにジャーナリストの先輩を座らせ、立ち上がったら爆弾が爆発するからと来栖と共に犯人の指示する部屋に向かう。世田ら刑事も駆けつける。爆弾処理班が液体窒素をベンチの下に注入するが、爆発してしまう。といっても音と光だけで実害はなかった。一方、来栖は犯人の指示で総理との面談を要求する動画をアップする。渋谷ハチ公広場に爆弾を仕掛けたから対談を実現させよというが、総理は無視、観衆や野次馬が集まってくる。
高梨と印南はたまたま須永を見つけて後をつけてきた渋谷にやってくる。そして期限の時間、総理が無視する中カウントダウン、そして大爆発、大惨事が起こる。高梨らも怪我をし、高梨は怪しい須永のマンションに行き須永に迫る。無視して出て行った須永を尻目に、須永の机から何やら資料を盗み、警察へ。て、簡単に持ち出す?そこで世田と出会い、その資料を渡す。
須永は、一人の男朝比奈に会うため喫茶店に行くがそこで世田に捕まる。一方朝比奈は山口と会っていた。そこへ世田らが駆けつける。世田は朝比奈の部屋にあったメモから次のターゲットは東京タワーだと知り、朝比奈に迫る。実は山口の夫はかつて国連軍にいて地雷撤去に携わっていて、そこで経験したショッキングな出来事から、戻ってから恋人の山口に爆弾の扱いを伝授して自殺したのだ。この説明場面がやたらくどい。
山口は朝比奈と次のターゲットのレインボーブリッジに向かい、あとを世田らが追走する。実は山口が爆弾を作っていたようなのだが、なんで朝比奈がいるのかがよくわからない。そして、朝比奈に説得された山口は解除コードを連絡し、朝比奈と共に海に落ちる。
で、いったいなんなのだということである。あれだけ出てきた総理がここ以降出てこないし、来栖はあっさり釈放されているし、山口は犯人に協力させられた女として行方不明のまま処理されてるし、では須永はなんなのかと言えば何かわからない。
バタバタと展開してさっと消えてしまって終わる。まさに煙に巻かれたような作品で、登場人物の中身が全く描かれていない。こんな適当な脚本があるだろうかという映画だった。
「ミセス・ノイズィ」
なかなか、中身のある笑って泣かせる逸品。面白かったし、胸が熱くなったし、そうだよね、と思わず共感してしまいました。監督は天野千尋。
可愛い赤ん坊菜子が吉岡真紀と夫裕一に生まれたところから映画は始まる。そして六年が経つ。過去に一度賞を取って話題になった女流作家の吉岡真紀は次回作にめぼしいものが出せず苦戦していた。新しいマンションに引っ越したものの、締め切りを間近に迫りイラついていた。夫は夫で自分のことで、家庭を顧みないし、娘は遊び盛りで絡んでくる。そんな状況の中、夜を徹して原稿を書いている真紀に、トントンという布団を叩く音が聞こえる。それも早朝。イラついていた真紀は思わずベランダに出て布団を叩く隣の女性若田美和子に苦情を言う。
こうして物語は始まる。ともするとつい菜子を放ったらかしにしている真紀。菜子は一人で外に遊びに行く。菜子がいなくなったので、外に出ると、隣の美和子に連れられて帰ってくる。てっきり連れ去られたと思った真紀は美和子に当たる。その後も、隣で布団を叩く音で仕事が進まず、真紀は弁護士に相談もする。
そんな時、菜子がいなくなってしまう。夜になっても帰ってこず、警察にも裕一にも連絡するが見つからない。夜遅く、隣の美和子が菜子を連れてくる。美和子の家で遊んでいたのだという。しかも、美和子の夫茂夫とお風呂にも入ったと聞き、てっきり美和子らが、異常者だと判断して、真紀は必死で抵抗を始めるが、たまたま、美和子と真紀がベランダで言い争っているのを真紀の弟が動画に撮りネットにアップしたことで、一気に話題になってしまう。さらに、真紀も美和子をネタに小説を書いたことでさらに炎上していく。
ここで物語は一ヶ月前に戻る。場面は美和子の家である。美和子の夫茂夫は、突然、虫が布団の中を這っていると喚き出す。美和子が茂夫を宥め、布団をベランダに出して叩く。そこへ真紀のカットが入る。美和子と茂夫には息子がいたが、なんらかの理由で死んだようで、そのことで茂夫の精神は病んでいた。美和子は近所の農家できゅうりの出荷に手伝いをして生活していた。真紀の家族との前半の絡みの裏の物語が描かれる。
冒頭は真紀の視点から、続いて美和子の視点から映画を描き、次の展開へ。間も無く真紀の小説「ミセス・ノイズィ」は話題になり、さらにベランダの動画もエスカレートし、美和子の家が晒し者になるにつけて、茂雄は人の目に怯えるようになり、とうとう、美和子の目の前でベランダから飛び降りる。そんな頃、真紀も出版社から、小説の中身が薄いことを指摘され、悩んでいた。
茂雄の自殺未遂で、今度は真紀に避難が集まり、真紀が追いつけられていく。マンションに入ろうと菜子と戻ってきた真紀をマスコミがとりかこむ。ところが突然、美和子が飛び出し、真紀らを助ける。真紀は素直に美和子に謝り、夫の裕一とも仲直りし、自分だけしか見えていなかったことに反省する。真紀達は引っ越すことにし、引越しの日、布団を叩く美和子に挨拶をして部屋を後にする。真紀は美和子の物語をちゃんと知ったうえで「ミセス・ノイズィ」の小説を出してベストセラーとなっているところで映画は終わる。
ストーリー展開もよくできているし、キャラクターの設定も良い。ラストの流れは予想がつくのですがそれでも胸が熱くなりました。もうちょっと何か足りない気がしないでもないですがなかなかの佳作でした。