「霧ある情事」
前半は非常にテンポの良い流れでぐいぐい引っ張っていくのですが、後半逃避行になった途端にだらだら間延びしてしまうのがしんどい。ただラストの洒落たエンディングはなかなか良い感じの映画でした。監督は渋谷実。
刺青をした一人の男室岡がシャワーを浴びているシーンから映画は幕を開ける。妻の葬儀の日なのですが息子浩一が警察に逮捕されたのだという。困った室岡はたまたま電話が来た二号の園子に引き取りにいってもらう。園子は室岡が拾って世話をしている秘書の森野に園子への手当てなどを渡していて、この日も園子は森野のところへ行く。実は森野は園子のことが好きだった。
そんな時、たまたま浩一が森野に絡み、最近室岡の仕打ちにむしゃくしゃしていた森野は浩一と揉み合って刺し殺してしまう。それを聞いた園子は、飲んだくれの父親との確執などにむしゃくしゃしていて、森野と逃げることにする。
森野は自分の実家を目指すが、馬小屋に隠れているところへ、追いかけてきた園子の父親に発見される。園子は父を殺そうと湖に連れ出し、まんまと沈めたと思ったが、なんと生きていて、園子と森野が小屋に火をつけて死のうとしたところへ助けに入る。森野はその場で自殺してしまい、園子は実家に戻り、飲んだくれの父の姿に嫌気が差しながらもふて寝して映画は終わる。
ちょっと全体の流れがうまく噛み合っていない仕上がりですが、どこか魅力が見える一本で、決して傑作ではないものの見て損のない一本でした。
「死者との結婚」
モダンなタッチで余計なカットを全く挟まずに繋いでいくフィルム編集が見事で、ヌーベルバーグを思わせるタッチが実に面白いサスペンスでした。監督は高橋治
一人の女性光子がビルの屋上から飛び降りようとしている、カットが変わると列車から飛び降りようとしている。背後に流れる一人セリフで、光子がいかに不幸な目にあったかが語られる。そして船から飛び込もうとして止められ、船室に連れて行かれる。止めたのは保科妙子という新婚の女性でどうやら大金持ちの家に嫁いだらしいがまだ姑とも面識がないとのこと。化粧のために婚約指輪を光子に預けた妙子だが、直後船が波に呑まれて沈んでしまう。この出だしがハイテンポで面白い。
病院で目覚めた光子は、自分の名前が保科妙子になっていることに気が付き驚く。指にしていた預かっていた婚約指輪のせいだとわかるが、夫となるべき人も本物の妙子も死んでいた。そしてあれよあれよという間に出産し、保科家に入ることになってしまう。しかし、夫となるべき男の弟則夫は最初は疑う。しかし、献身的に尽くす光子は妙子となって生活するうちに則夫も光子を妙子として受け入れるようになっていく。姑のすみのは心臓が悪く、今更光子が真相を告げても体に悪いだけと思ったこともある。
ところがある日、謎の手紙が光子に届く。それはかつての恋人中西久夫からだった。光子は中西に恐喝されながら今後を悩み始める。そして光子は中西を殺すために銃を持って中西のアパートに行くが、既に中西は何者かに殺されていた。そこへ則夫が駆けつけ、中西の死体を列車に投げ込み処理をする。ちょうどその夜、すみのの容体が急変し死んでしまう。死の床で、すみのは光子に一通の手紙を託す。
まもなくして警察がやってきて則夫は事情聴取に出かける。困った光子はすみのから、困った時には開くようにと渡された手紙を開く。そこには中西を撃ち殺したのは自分だという告白が書かれていた。戻った則夫に話し、光子は子供を連れて家を後にして映画は終わる。
ワイプを使った映像編集でオープニングを畳み掛け、本編に入った後も、余計なシーンをバッサリカットしたかのような展開のリズムでどんどんストーリーを語っていく。なかなか見応えのある一本でした。
「離愁」
半年間のひとときの揺れる女心を凝縮して描く三角関係の恋愛ドラマ。まるで昼ドラを見ているような感覚に浸りながらも、いかにもな恋物語を楽しめました。監督は大庭秀雄。
竹生島に向かう船の中で、一人の男性境がくらい表情の女性れい子を見つけるところから映画は始まる。れい子がいかにも飛び込みそうなので境は彼女を連れて旅館に戻る。れい子は叔母の暁子を呼ぶが、やってきた暁子は境の知り合いだった。暁子は夫三浦と婚約していた頃に陶芸家の作品展で境と知り合い、つかの間付き合っていたのだ。できることなら境と結婚したかったというのが本心だった。
やがて、れい子は暁子が連れ帰るが、暁子の心は揺れ動き始める。そんな頃、夫の三浦が学会で半年ヨーロッパに出かけることになる。れい子は暁子の揺れる心を察知しながら、境に近づくようになり、親しく振る舞いながら暁子をじれさせるようになる。れい子は自分にも恋人がいたが、境に惹かれていく自分を感じていた。
そんなれい子を戒めながらも自分の気持ちを抑えきれなくなっていく暁子。感極まり、暁子はもう二度と境と会わないという誓約書をれい子と二人で書く。しかし、れい子は暁子との逢瀬を段取りしてやる。夜遅くなっても帰らない暁子にいらつくれい子だが、戻ってきた暁子は誓書を破ることにする。やがて、三浦がヨーロッパから帰ってきて、暁子は何事もなかったように出迎え、れい子も今までのことが嘘のように恋人とどこかへ行って映画は終わる。
まあ、たわい無いと言われればたわい無い映画ですが、時間を区切った一時の恋愛物語としての面白さは堪能できました。