くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「女舞」「熱愛者」「愛情の系譜」

「女舞」

物凄いしっかりと作られた逸品で、この時代このレベルの映画が普通に作られていたのだから感心してしまいます。決して名作とかいうレベルの出来栄えではないけれど、一つ一つのシーンに役者の迫力が見られます。素晴らしかった。監督は大庭秀雄

 

舞踏家の家元の若師匠千弥が、舞の勉強のために能の天才と言われもてはやされている西川家の若師匠西川の芸を見ている場面から映画が始まる。女たらしでも有名だという噂の西川だが、千弥は純粋に芸の勉強に目を注いでいた。

 

しかし、たまたま千弥が舞った舞の意見を聞くべく西川の家を訪れたが、西川は千弥を五条家の能衣裳の展示会に誘う。その帰り、西川は千弥を誘い一夜を共にする。

 

千弥は日に日に西川にのめり込んでいき、一方で神崎という大学の先生との見合い話も進む中、苦悩の日々となる。間も無く西川は本家から波紋になり金沢へ移っていく。何かにつけて千弥の相談相手だった布川教授からその話を聞き、苦悶する千弥だったが、思いを立つ決心をし、神崎と結婚をする。

 

そして、千弥は葵上の舞を舞う日が近づいてきた。参考のためにと布川教授が用意した西川家の能舞台で、面を被った西川が千弥の前で舞う。西川は体を壊していて、東京に戻っていたのだ。

 

やがて千弥の舞の日、西川は死んでしまう。一人舞う千弥の見事な舞が西川の旅立ちを彩っていた。こうして映画は終わります。能の勉強を重ねた岡田茉莉子の舞台シーンも素晴らしいですが、脇役を含め全体が実にしっかりと描かれているのは見事なものです。映画全盛期の並の映画かもしれませんが、見応え十分な一本でした。

 

「熱愛者」

これはちょっとした映画でした。一見、平凡な恋愛ドラマのように始まるのですが、どんどんお話が転がって膨らんでいきます。その絶妙のリズムが不思議なほどに冷めた感覚が見えてきて、ラストシーンに唸ってしまいました。監督は井上和男。さすが新藤兼人脚本。

 

大学の講師で文筆家の緒方が友人と街を歩いている。室内美術を仕事にするデザインスタジオの友成という男が近づいてくる。少し離れたところに、友成のところで働く頼子という女性を認める。緒方はいつのまにか頼子と知り合い、頼子もいつのまにか緒方と親しくなり、みるみる恋の炎が燃え上がっていく。

 

緒方はすっかり頼子にのめり込んで溺れてしまい、頼子がいないと寂しくて仕方がない。そんな緒方に応える頼子。二人は結婚してしまう。しかし、何事にも完璧を求める緒方は、頼子のひたむきさがかえってしんどくなり始める。そんな頃、頼子は姉の民子を呼び寄せ一緒に住もうと提案する。そして頼子は友成の事務所に再度就職する。しかし、緒方と頼子の関係はみるみる溝ができてくる。さらに友成と頼子がかつて恋人関係だったことを知った緒方は、頼子と別れることにする。そんな頃、頼子は会社で新入社員の若い青年と恋に落ちる。

 

やがて頼子と緒方は離婚、頼子は家を出ていく。緒方は友人とカフェにいて、頼子らしい女性の姿を追って街に飛び出して映画は終わる。あれよあれよと展開する見事な恋愛劇というか恋愛観の描写のドラマが素晴らしい。これぞ新藤兼人脚本の真骨頂です。面白かった。

 

「愛情の系譜」

てんこ盛りに次々とお話が詰め込まれてくるのですが、結局どれも中途半端になってしまって、不完全燃焼の塊で終わった映画でした。監督は五所平之助

 

主人公藍子は、外人のガイドをして鷺山を見学している場面から映画は始まる。そこへ、鷺を撮影している一人の中年の男性が話しかける。藍子はそんな仕事以外に犯罪を犯した青少年を更生させたりする仕事をしている。その仕事に生き甲斐を感じている。彼女には立花という恋人がいて、結婚直前まで進んでいる。妹の紅子は最近派手な行動が目立ってきて母克代は心配している。しかし、紅子が会っていたのは死んだと聞いていた父だった。今は杉周三という名で、事業を成功させていた。

 

杉周三とは、実は藍子が鷺山で出会った紳士だった。杉は北海道で克代と結婚していたが、確執があり、克代からは離れていった。しかし克代は杉をナイフで刺して怪我を負わせてしまう。その恨みから克代は杉と関わることを嫌っていた。

 

一方、立花は取引先の実業家の娘苑子との縁談が持ち上がり、立花はほぼ結婚を決めているが、はっきり藍子に話せずにいた。そんな時、藍子が面倒を見ていた不良少年が殺人を犯してしまう。藍子にそっけなくされて自暴自棄になったらしい。

 

とまあ次々と物語や事件が繰り返され、結局、藍子は立花を殺そうとガスの元栓を開けるが、すんでのところで閉じて、立花との別れを決心する。一方、克代は満を期して杉の元を訪ねる。藍子は殺人を犯した青年を諭して自首しにいくところで映画は終わる。

 

結局紅子はどうなったの?親しげにやってくる大学生の行方は?とはてなマークだらけのラストシーンとなった。まあ、これも映画ですね。