くらのすけの映画日記

「シネマラムール」の管理人くらのすけの映画鑑賞日記です。 なるべく、見た直後の印象を書き込んでいるのでネタバレがある場合があります。その点ご了解ください。

映画感想「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」「夏時間」

「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」

シュールな不条理劇という出立ちで淡々と語られていくが、全てが反戦メッセージという形の作品。抑揚のないセリフの応酬と型にはまった動き、無意味なのか意味があるのかわからないような冷めた言葉遊びの世界。そして、ラストのちょっとあざといシーンの締めくくり。面白いのではあるが、ちょっとクセのある作品です。監督は池田暁。

 

いつの時代かどこの街か、どちらかというと日本の戦時中のような町、楽隊の足元の場面から映画は幕を開ける。一人の男露木が起き上がり、まるで行進する様に出かけて、途中藤間という男性と合流して何やら建物へ。機械的に受け答えする受付を通って、出席札をひっくり返してもらい奥へ進む。この町では川の向こう岸の町と何十年も戦争をしている。しかも朝の9時から夕方5時まできっかり戦闘をするという繰り返し。そんな露木は川向こうから音楽が聞こえているのに気がつく。

 

まもなくして露木は楽隊に転属されることになる。一方、藤間は戦闘で右腕をなくしてしまう。楽隊の兵舎がわからないままに彷徨う露木だが、煮物屋の主人に教えてもらい言われたところに行くと、いかにも高飛車な兵士が出てきて、尻を蹴られる。やがて楽隊に入った露木。ある時、露木が河岸で練習をしていると川向こうでも同じく練習している音楽に気がつく。

 

そんな頃、新しい兵器と部隊が来るという噂が流れ始める。技師という男がやってくる。先ほどの高飛車な兵士は新兵器の部隊の隊長だった。そして、新兵器である巨大な大砲が河岸を狙い発砲される。川向こうに巨大な噴煙が上がる。それをみた露木は自分の出席札を取り川に投げ捨て、トランペットで音楽を奏でるが返答の曲はなかった。しばらくして背後の露木の街にも巨大な噴煙が上がる。こうして映画は終わっていく。

 

市長と言われる何事も適当な男が街を仕切り、泥棒や自分の息子を警官にしたりする。子供が産めない女性が離縁されるエピソード、その女性が藤間と結婚して子供ができ街を離れるエピソードなどが挿入されるが、その全てが全く抑揚のない淡々としたセリフと動きで表現されていく。

 

明らかに戦争を皮肉った風刺劇であるが、乾いたユーモアを交えながらラストまで全くテンポを崩さない。変わった映画といえばそれまでですが、クセのある作品という感じの一本でした。

 

「夏時間」

たわいのない物語なのに、いつの間にかスクリーンに惹きつけられて、いつの間にか姉弟の純粋な姿に胸打たれている自分がいました。傑作とまでは行かないまでも、なかなかの佳作、いい映画でした。監督はユン・ダンビ。

 

事業に失敗した父が妻と別居して娘オクジュと息子ドンジュを車に乗せて祖父の家に向かっている場面から映画は始まる。祖父は一人暮らしだが大きな家に住んでいて、姉弟はいつもの夏休みの如くやってきたが、母の姿がなかった。姉のオクジュと弟のドンジュは、喧嘩はするが仲のいい姉弟だった。ほとんど喋らない祖父と過ごすドンジュは無邪気に振る舞うが、どこか居心地の悪いオクジュは彼氏に会ったりして気を紛らす。

 

父は偽物の靴を路上で売ったりしているが、おそらく会社の不良在庫だったのだろう。まもなくして離婚寸前の叔母がやってきて、三世代の奇妙な生活が始まる。物語は淡々と流れる夏の日々をただ素直に捉えていくだけでなんの劇的なものもない。ドンジュは母が恋しくて母からの連絡でいそいそと出かけていくが、姉のオクジュは複雑な気持ちで、そんな弟に当たり散らしたりする。

 

オクジュは二重にする手術が受けたくて父に頼むも無視され、父の売っている靴を一束くすねて売りに行ってトラブってしまう。そんな日々の中、ある日祖父が漏らしてしまう。父や叔母は祖父がかなり弱っていることを察知し、祖父の家を売ることを考え始める。ある日、オクジュが夜帰ってくるとドンジュが門のところで待っていた。祖父が倒れて救急車で運ばれたという。その夜、オクジュは寂しがるドンジュと一緒に寝る。ドンジュがいつも大きなぬいぐるみを枕にしているのが実に良い。

 

夜が明けても父らは帰って来ず、まもなくしてオクジュの携帯に、祖父が亡くなったと連絡が入る。オクジュはドンジュと一緒に身支度をして葬儀場へ行く。この辺りは国柄の違いですね。そして葬儀の場に母がやってくる。大喜びするドンジュだがオクジュは結局、素直になれない。やがて母は帰り、葬儀も終わって、父とオクジュ、ドンジュらは祖父の家に戻ってくる。そして夕食をしている中、オクジュはたまらなくなって泣きじゃくる。

 

映画はこうして終わりますが、夏休みのひとときの時間の中で描かれる、素朴ながらも幼い姉弟の純粋な心象風景が実にピュアです。驚くような秀でた場面も演出もないのに、いつの間にかオクジュの繊細な心の物語に引き込まれてしまいました。良い映画でした。